- まえがき
- 第1章 ユニバーサルデザインと個別の配慮の2本柱でアプローチ!はじめての学級担任もできる特別支援教育 おさえておきたい基礎基本
- 1 通常の学級における特別支援教育
- 2 「困った気持ち」は「その子を知る窓」
- 3 立場で違う保護者の「困った気持ち」
- 第2章 通常の学級担任が使える!おすすめ支援スキル
- 1 UDって? 合理的配慮って?
- 2 ユニバーサルデザイン(UD)環境をつくろう
- 3 座席は学びの基地
- 4 指示と「わからない」「できない」を聞ける環境づくり
- 5 板書の構造化で理解しやすくなる
- 6 授業をわかりやすく構成しよう
- 7 変化のある繰り返しと見えないアイスブレイク
- 第3章 タイプ別でよくわかる!はじめての学級担任もできる特別支援 事例&対応ガイド
- 第1節 発達障害・発達特性を知ろう! 発達障害のタイプ
- 教育的ニーズに応じた指導・支援のために
- 第2節 ユニバーサルデザイン(UD)と個別の配慮の視点から考える! 注意欠如・多動性障害(ADHD) 事例&対応ガイド
- ADHDの特性理解と支援
- 事例1 一斉指示で,課題に取り組むことができない Aさん
- 事例2 作業を最後までやり続け,終わらせることができない Bさん
- 事例3 授業中に立ち歩いたり,ちょっかいを出したりする Cさん
- 事例4 勝ちにこだわり,ルールを受け入れず,トラブルの多い Dさん
- 事例5 先生や友達が話している時に割り込んで話し出す Eさん
- 事例6 忘れ物が多く,学習に支障をきたしている Fさん
- 事例7 掃除の時間になっても,ふらふらしていて何もしない Gさん
- 第3節 ユニバーサルデザイン(UD)と個別の配慮の視点から考える! 自閉スペクトラム症(ASD) 事例&対応ガイド
- 自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解と支援
- 事例1 予定の変更があると,怒って言う通りにしない Aさん
- 事例2 行事の練習になかなか参加できない Bさん
- 事例3 初めての場所や場面が苦手で活動に参加できない Cさん
- 事例4 思い込みから,友達との活動でトラブルが起きる Dさん
- 事例5 自分の失敗を受け入れられず,感情のコントロールができない Eさん
- 事例6 みんなで使う物を独り占めしてしまう Fさん
- 事例7 好きなことを止めるように言われると癇癪を起こす Gさん
- 第4節 ユニバーサルデザイン(UD)と個別の配慮の視点から考える! 学習障害(LD) 事例&対応ガイド
- 学習障害(LD)の特性理解と支援
- 事例1 音読が苦手な Aさん
- 事例2 文章を書くことが苦手な Bさん
- 事例3 文章を読んで内容を理解することが苦手な Cさん
- 事例4 作文を書くことが苦手な Dさん
- 事例5 計算が苦手な Eさん
- 事例6 算数の文章問題が苦手な Fさん
- 事例7 形の把握や図形を描くことが苦手な Gさん
- おわりに
まえがき
現在,通常の学級における特別支援教育は,学級担任にとって重要且つ緊急性の高い関心事です。ある自治体の教育センターが,研修に来られる先生方の世代別に「学級経営において困っていること」を尋ねました。すると,若手,中堅,ベテランのいずれの世代も,挙げた上位に特別な支援を要する子への対応が挙げられていました。
これはある学校で起きた学級崩壊の報告です。対象の子どもは小学校2年生,担任は50代のベテラン女性の先生です。「一部の衝動的・暴力的な言動をする児童に担任が振り回され,なす術もなく結果として放任する形になってしまった。勝手気ままが許される様子を見た他の児童がうらやましがり,真似たり好き勝手をしたりするようになったせいで,担任の指示が子どもたちの心に届かなくなり,あちこちで収集がつかなくなってしまった。」冒頭の「一部の衝動的・暴力的な言動をする児童」が特別支援を要する児童として見なされていました。学級崩壊の事例を集めるとほとんどの場合,特別支援を要する子どもの特徴的な行動がきっかけとなって学級が崩壊するという物語が展開されています。
一部ではありますが,特別支援を要する子どもたちが,学級崩壊のきっかけや中心人物となっていると言われることがあります。しかし,事態の立て直しに関わった人たちは,そのほとんどが子どもの問題ではなく,周囲の対応の問題であることを理解しています。
行動理論の基本に「三項随伴性」という考え方がありますが,これは人間がある行動をするには,その前に「先行現象」があり,行動をとったあとには,「後続現象(結果)」が起こるというものです。あいさつがよくない子どもたちに,あいさつをしましょうと働きかけることがあります。それは,大抵の場合うまくいきません。「先行現象」として,挨拶をする意味が理解されていない,挨拶の仕方がわからないなどの場合があれば,そこからアプローチする必要があります。なぜ,挨拶をするのか知らせたり挨拶の仕方を教えたりします。また,挨拶をしたとしても,その良さが実感できなかった場合は,継続しない可能性があります。だから,「後続現象」として,挨拶が返ってくる,挨拶をしたことが喜ばれるなどのことが起こるとそれが強化行動となって継続される可能性が高まることでしょう。
不適切な行動をしている子は,不適切な行動をせざるを得ない環境に身をおいているのかもしれません。また,適切な行動をしていてもそれが強化されない状況にいるのかもしれません。さらには,不適切行動を強化されているのかもしれません。不適切な行動をせざるを得ない状況でそれが強化され続ければ,不適切な行動の強度も頻度も高まるのは当然の話です。
本書の主たる執筆者は,学級経営のスペシャリスト岡田広示氏と特別支援教育のスペシャリスト関原真紀氏です。二人は教職大学院の教員として教師教育に関わる一方で,数多くの現場の支援をしている学校改善のプロフェッショナルです。岡田氏は,特別支援を要する子にとって居心地のよい学級環境はどのようなものであるかをユニバーサルデザインの視点から解明しています。また関原氏は,指導主事として多くの現場教師を指導してきた経験をもとに,特別支援を要する子のニーズに応じた個別の指導・支援のあり方を具体的に述べています。通常学級における特別支援を要する子をどうサポートし,そしてそこにいる全員が居心地の良い学級をどうしたらつくり育てることができるのかを,環境と個という視点から,時には理論的に時には具体的に解説します。
本書の主張の根底にあるのは,「理解」です。「理解なくして指導・支援無し」です。寄り添うことを忘れた働きかけは,支配や暴力になる可能性すらあります。その困っている背景や心情への共感的な眼差しがあるからこそ,私たちは子どもの力になれるのだろうと思います。
/赤坂 真二
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- 明治図書
- 支援の必要なお子さんに必要な支援の仕方を端的にまとめてあって、良かった。2024/4/350代・小学校教員
- とてもわかりやすい2021/6/1720代 学生