- はじめに
- 第1章 学力について
- §1 学力についての問題
- 1 学力低下の明確な事実
- 2 学力を低下させるわけにはいかない
- 3 学力低下の問題に対して,どんなことがなされているか
- §2 真の学力とは数学的な考え方
- §3 学力についての歴史的考察
- §4 これまでの学力把握の問題点
- 1 「新しい学力観」の誤り
- 2 学力の中心は形式計算の技能か
- 第2章 数学的な考え方の育成をねらいとした指導の重要性
- §1 数学的な考え方指導の重要性
- §2 [例1]正方形はいくつあるか
- 1 普通の展開
- 2 この展開の問題点
- 3 望ましい展開
- 4 ここでの大切な力──数学的な考え方
- §3 [例2]小数のかけ算
- 1 普通の展開
- 2 この展開の問題点
- 3 望ましい展開
- 4 これが正しいわけを考えよう──演繹的な考え方
- 第3章 数学的な考え方の意味とその指導
- §1 数学的な考え方の特徴
- 1 構えに着目
- 2 3つの変数に依存する
- 3 外延的把握
- 4 知識・技能のdriving forcesである
- §2 数学的な考え方の内容
- 【数学的な考え方一覧】
- T 数学的な態度
- U 数学の方法に関係した数学的な考え方
- V 数学の内容に関係した数学的な考え方
- 第4章 数学の方法に関係した数学的な考え方の詳しい考察
- 1)帰納的な考え方
- @意味/ A例/ B指導の留意点
- 2)類推的な考え方
- 3)演繹的な考え方
- 4)統合的な考え方(拡張的な考え方を含む)
- 5)発展的な考え方
- 6)抽象化の考え方(抽象化,具体化,理想化,条件の明確化)
- 7)単純化の考え方
- 8)一般化の考え方
- 9)特殊化の考え方
- 10)記号化の考え方
- 11)数量化,図形化の考え方
- 第5章 数学の内容に関係した数学的な考え方の詳しい考察
- 1)考察の対象の集まりや,それに入らないものを明確にしたり,その集まりに入るかどうかの条件を明確にする(集合の考え)
- @意味/ A例/ B指導の留意点
- 2)構成要素(単位)の大きさや関係に着目する(単位の考え)
- 3)表現の基本原理に基づいて考えようとする(表現の考え)
- 4)ものや操作の意味を明らかにしたり,広げたり,それに基づいて考えようとする(操作の考え)
- 5)操作の仕方を形式化しようとする(アルゴリズムの考え)
- 6)ものや操作の方法を大づかみにとらえたり,その結果を用いようとする(概括的把握の考え)
- 7)基本法則や性質に着目する(基本的性質の考え)
- 8)何を決めれば何が決まるかということに着目したり,変数間の対応のルールを見付けたり,用いたりしようとする(関数的な考え)
- @関数的な考えの意味/ A関数関係の表現の仕方を工夫する/ B関数的な考えの指導の教育的価値
- 9)事柄や関係を式に表したり,式をよもうとする(式についての考え)
- @式に表す考え/ A式をよむことの考え
- 第6章 数学的な態度
- §1 問題の所在
- §2 態度とは
- §3 問題解決と数学的な態度
- 1 問題形成の段階で主に働く数学的な態度
- 2 見通しを立てる段階で主に働く数学的な態度
- 3 解決の実行の段階で主に働く数学的な態度
- 4 解を一層論理的に組織立てる段階で主に働く数学的な態度
- 5 発展的な段階で主に働く数学的な態度
- §4 数学的な態度とその意味
- 1)自ら進んで自己の問題や目的・内容を明確に把握しようとする
- @意味/ A例
- 2)筋道の立った行動をしようとする
- 3)内容を簡潔明確に表現しようとする
- 4)よりよいものを求めようとする
- 第7章 数学的な考え方を育てる指導法
- ―数学的な考え方に焦点を当てた発問―
- §1 数学的な考え方を育てる事例について
- §2 数学的な考え方に焦点を当てた指導例(1)(「平行四辺形の性質)
- §3 数学的な考え方に焦点を当てた指導例(2)(円)
- §4 問題解決の過程
- 1 G.Polyaの問題解決の過程
- 2 J.Dewyの反省的思考
- 3 G.Wallasの創造的思考
- 4 F.Fehrの問題解決の過程
- §5 数学的な考え方を引出す発問
- 【数学的な考え方についての発問一覧】
- 問題形成・把握/ 見通しを立てる/ 解決の実行/ 論理的組織化/ 検証
- 第8章 もう1つの学力 関心・意欲・態度
- §1 「関心意欲態度」か「関心と意欲と態度」か
- §2 関心と意欲と態度それぞれの意味
- §3 関心,意欲,態度の具体的考察
- §4 「関心・意欲・態度」の指導の基本
- §5 態度と数学的な考え方
- 数学的な考え方一覧
- 数学的な考え方についての発問一覧
はじめに
数学的な考え方を育てることは,算数・数学教育の目標である。それなのに,この「数学的な考え方とその指導」について研究したい,勉強したいと思っても,これについて詳述した書物は出版されていないのである。
そして,このような情けない状況の下で,今日本の教育は,学力低下をもたらすということがもっとも大きな問題になっている。おそらくこの問題は,今後相当長い年月にわたって問題であり続けるであろう。平成11年の教育課程の改定で,学校が完全週5日制になったことをきっかけにして,指導内容を3割以上削減し,いやでも学力の低下をもたらすことになった。とくに算数・数学科は,その憂いが顕著である。
これに対して,形式計算(だけ)をできるようにすることが,学力向上のすべてであるかのように考えて,「だから,筆算や暗算といった形式的な計算をしっかりできるようにしよう」といった,安易な,誤った主張が現われ,形式計算を形式的機械的に教え,練習させるのがよいといった風潮が一部に現れてきており,これが世間にもてはやされているかの感がある。
しかしこのような危機的状況になったときこそ,これからの社会で求められる真の学力が何であるかを考え,この育成を目指した教育を行わなくてはならないのである。これは容易ではないかもしれないが,これが真の解決の道なのである。
これからの社会では,命じられたことがきちんとできる(形式計算をすることは,計算分野でのこの面に当たるものである)ということや,人のよいところを,巧みに模倣していくというだけでは,だめなのである。変化,進歩の激しいこれからの社会では,自ら考え,判断し,自らの行動を決定し,実行できるようでなくてはならない。常に創意工夫に努め,少しでも新しいよりよいものを求めていく能力や態度を身に付けていかなくてはならない。
そのような自主的に考え,判断し,自らの力で問題を解決していくことは,単に形式的計算が正しくできる力だけでは,全く期待できないことである。
解決のためにどんな知識や技能を使ったらよいかを判断し,時にはそのような知識や技能を駆り出すことができなくてはならない。このようなことを可能にし,さらに,問題解決のためにどのように考えるのがよいかといった,解決のための種々の考え方を身に付けていることが,数学的に自主的に活動して,創造的活動をしていくための最も重要な力となるのである。
したがって,このような力を身に付けさせることを目標にした指導がなされることが,これからの数学教育で最も重要なことなのである。この力こそが,数学的な考え方なのである。
わが国では,1956年以来今日まで,この数学的な考え方を育てることを,算数・数学科の目標としてきている。だからこの数学的な考え方の研究,実践は十分になされてきていると考えたいのであるが,実際にはほとんどなされていないと思える。なぜなら,冒頭に述べたように,「数学的な考え方にはどのようなものがあるのか,その指導はどのようにしたらよいのか」ということについて書かれた書物が,今まったく出版されていないのである。数年前までは,拙著『数学的な考え方・態度とその指導』(全2巻)と『算数教育の新しい体系と課題』(全10巻)のうちの第1巻『数学的な考え方を育てるねらいと評価』とがあったが,現在は絶版になっている。したがって,今は数学的な考え方について勉強の仕様もないのである。これが算数・数学科の目標に対する現状なのであるから,きわめて残念な状態であるといわざるを得ない。
そこで およそ算数・数学教育に関係するものなら必ず研究しなくてはいけない「数学的な考え方とその指導」について,これまでの拙著を再検討して,新しく本書をあらわすことにしたのである。
およそ算数・数学教育に関係する方々は,ぜひ本書を十分に研究し,活用して,数学的な考え方という真の学力の向上を目指してほしい。
2004年6月 著 者
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- 明治図書
- 内容の確認ページをもう少し増やしてもらえると購入の判断がしやすい。2018/10/2750代・小学校教員
- 算数教育の根幹となっている「数学的な考え」を理論立てて整然と分類しつつ、実践が常に視野の中に入ってくる。子どもにつけてほしい力を整理し直し、その手立てをまた改めて考えていく上で大きな指針となる一冊だった。2017/9/1830代・小学校教員