- 序章 活用型国語力向上の具体策「行動学習法」を導入したステップワーク
- 〜「国語力をつけるワーク開発」の理論的根拠と本書の特徴〜 /瀬川 榮志
- はじめに
- /安田 直次
- T 「細部を読み取る」技能育成の指導法開拓とワークシート
- 一 「細部を読み取る」とは、どうすることか
- 1 何が批判されたか ――授業観を変革する――
- 2 細部とは何か
- 3 PISA型読解力の基礎となる「細部を読み取る」力
- 二 「細部を読み取る」学習の留意点
- 1 「書きぶり」に目を向ける
- 2 「書きながら読む」活動を工夫する
- 3 「問いかけ」を大切にする
- 三 「細部を読み取る」学習過程の概要とワークシート
- 1 読みに読む…(とらえる)
- 2 感想を交流する…(ひろげる)
- 3 課題を追究するために読む…(ふかめる)
- 4 「読みの自覚」を育てる…(たかめる)
- U 「細部を読み取る」技能育成の留意点
- 一 文学的文章の場合
- 1 「詳細な読解」からの脱却はなし得たか
- 2 文学的文章の「細部を読み取る」とは
- 3 「細部を読み取る」授業のポイント
- (1) 学習課題と呼べるものにすること
- (2) 指導者自身が学習し続けること
- (3) 「細部を読み取る」ワークシートのポイント
- 4 「細部を読み取る」授業の前に
- 二 説明的文章の場合
- 1 新学習指導要領と説明的文章の読解
- (1) 「何が書いてあるか」を読み取る
- (2) 「どのように書いてあるか」を追究する
- 2 「細部を読み取る」説明文読解の実際
- 3 細部を明らかにする教材研究のポイント
- 4 教材特性の分析と「細部を読み取る」こと
- V 「細部を読み取る」技能を育てる実践 低学年
- かぶの大きさを紙で表しながら読み取る「おおきなかぶ」(東書一年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全八時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 登場人物の気持ちを読み取り、表現する「はるのゆきだるま」(東書一年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十一時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 書いてあることを正しく読み取りましょう「いろいろなふね」(東書一年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全九時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- どうぶつのひみつを見つけて、クイズを作ろう「ビーバーの大工事」(東書二年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- W 「細部を読み取る」技能を育てる実践 中学年
- へんしん日記で読み深める「斎藤隆介作品お気に入りシリーズ」「モチモチの木」(光村三年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十三時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 盲導犬になるまでの訓練について読み取る「もうどう犬の訓練」(東書三年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十一時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- クライマックスから課題を見つけて、読み戻る「ごんぎつね」(東書四年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十一時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 「問い」と「答え」で楽しもう「ヤドカリとイソギンチャク」(東書四年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- X 「細部を読み取る」技能を育てる実践 高学年
- 登場人物の心の動きや場面の様子を考えよう「注文の多い料理店」(東書五年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全七時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 要旨をつかもう「サクラソウとトラマルハナバチ」(光村五年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全八時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 辞典ができるまでの過程を読み取ろう「言葉の意味を追って」(東書六年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十二時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 五つの味わいの視点を手がかりに賢治の世界を読み味わおう「やまなし」(光村六年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全十一時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- Y 「細部を読み取る」技能を育てる実践 中学校
- 細部の読解から主題を考える「少年の日の思い出」(東書一年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全七時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 小説ディベートで審判する「走れメロス」(光村二年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全八時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- 小説のガイドブックを制作する「故郷」(光村三年)
- 1 指導の立場
- 2 単元の目標と指導計画(全七時間)
- 3 学習の流れ
- 4 細部を読み取る技能を磨くワークシート
- 5 細部を読み取る力を育てる指導と評価
- (1) 指導のポイント
- (2) 指導の評価
- おわりに
- /谷口 茂雄
序章 活用型国語力向上の具体策「行動学習法」を導入したステップワーク
〜「国語力をつけるワーク開発」の理論的根拠と本書の特徴〜
中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
PISA型読解法と新学習指導要領の理念や理論・方法を的確に把握し確実に「生きる力」を支える学力を習得することがこれからの重要課題である。両者の究極のねらいは、実社会に活用する学力を獲得することである。
活用型学力を獲得するには「生きて働く国語力」を完全習得することが前提条件である。戦後半世紀以上の研究歴を誇る国語科教育であるが、現時点においても「活用型国語力」が定着していない。その理由を徹底的に究明していく必要がある。その理由の一つに、細部技能や要点技能等の単一スキルの指導の不徹底がある。
要するに、国語学力が向上しない最大の理由は、順序・要点・細部・段落・中心・要約・要旨〜粗筋・情景・場面・心情・主題〜などの基本的能力が確実に身についていないことに起因するからである。例えば、小学校高学年や中学校の児童・生徒が、説明文を読んだり書いたりする活動を展開する際に「要点力」不足で内容を的確に理解したり表現したりすることができない事実がある。
要点力は、小学校中学年で定着しておかなくてはならない重要な基本的能力である。この能力は、教科書教材を中心に指導しているであろうが不徹底である。また、現在の教科書教材や、その指導法では「生きて働く要点力」等の基本的能力は十分に定着しないことが多い。その理由は、要点力や要約力を論理的な文章構成の中に的確に組み入れて、集中的にその能力を指導できる教材が少ないからである。
話したり聞いたりする活動においても、順序を押さえる能力がないために、的確な音声活動ができない中学生や高校生・大学生もいる実情である。「順序力」は小学校低学年で完全に定着しておく基本的能力である。この能力は中学年では論理的順序、高学年では心理的順序として発達する能力で、「話す・聞く」「読む・書く」活動において、表現・理解する内容を論理的に構成する重要な能力である。
このような国語学力の核となる基本的能力を確実に身につける指導が、従来の国語科教育には欠落していたのである。実に驚くべき事実であり、憂慮すべき実態である。この能力の指導が徹底しない限り国語学力は向上しない。従って、学習指導要領に示されている学年の発達段階に応じた基本的能力を確実に定着⇒習得⇒獲得する具体策を講じることが国語学力向上の重要課題である。
この課題の解決の具体策としては、順序・要点・細部・段落・中心・要約・要旨等の基本的能力を「単一技能」として取り上げて、「基礎的技能⇒基本的技能⇒統合発信力」の螺旋的系統による国語科教育の体系化に基づいて指導することが効果的である。
例えば、
◆基礎的技能の指導においては、短い教材文やワークを使って「要点力」を易から難へのステップを踏んで確実に定着させる。(基礎的技能定着の〈基礎学習〉)
◆基本的能力の指導においては、教科書教材の典型的なジャンルの文章で「要点力」を重点にレベルアップしながら確実に習得させる。(基本的能力習得の〈基本学習〉)
◆統合発信力の指導においては、価値ある言語文化を取り上げ情報活用能力と人間関係力を統合的に駆使しながら「要点力」を確実に獲得させる。(統合発信力獲得の〈統合学習〉)
このような国語科指導の秩序化・体系化を意図的・計画的に改革し推進しなければ国語学力の向上は期待できないのである。
生きて働く「単一技能」を身につける学習の方法としては、「行動学習法」を適用することが最適である。「行動学習法」とは、単なるスキルや知識としてではなく、具体的な言語活動を通して「生きて働く言語行動力」として定着⇒習得⇒獲得するのである。「行動学習法」は「為すことによって学ぶ」ことである。「行動することによって技能・能力を身につける学習法を獲得する」ことでもある。
国語学習が好きでない――という児童・生徒が多いという実態も、教師の説明・解説中心の授業が多いことが原因である。体育や図画工作・家庭科の授業に興味・関心を示し真剣に取り組むのは、身体的活動としての具体的行動が伴うからである。言語活動においても、言葉による身体的表現が必要である。例えば、音読の学習で作品の内容に感動・共感し感情移入して、自然に瞳が輝き表情が豊かになり、リズムにのって身体を動かしたりする。この言語行動体験を積み重ねていくことによって音読から朗読、そして暗唱に発展していくものである。
身体的表現を重視した「行動学習法」には、文章の要点にサイドラインを引いたり(サイドライン法)、中心を囲んだり(中心法)、要約したことを余白に書き込んだり(脚注法)、登場人物の心情の推移を折れ線グラフにしたり(心情曲線法)自分の思いや考えをふきだしに書いたり(ふきだし法)などの言語行動によって、技能・能力が定着し思考・創造力がフル回転するはずである。このような「行動学習法」は、定着する技能・能力や学習の目的、あるいは単元や教材によって多様に、また数多く工夫してワークシートを作成することができる。
基本的能力を獲得させるためには、ワークシートを作成し活用すると効果的である。その場合、理論的根拠が必要である。ただ単に読ませたり書かせたりするワークや市販のいろいろなワークシートを断片的に取り上げたり、つなぎ合わせたりしたワークでは「生きて働く国語力」は定着⇒習得⇒獲得できない。そこで、次のような条件を具備したワークシートを工夫することが大切である。
◎ワークシートによる学習は言語行動主体・学習者主体の学習法である
「ワークシートによる学習は、一人ひとりの児童・生徒が価値ある課題を自力で解決する自己実現の言語行動である」――という教育理念と、国語科教育の確たる理論と学習の原理・原則が根拠にある。
◎生き生きとワークする過程で基礎・基本・統合発信力を定着・習得・獲得する
充実した学習は「活動あって学習事項なし」の状況から脱却しなければならない。よい学習とは「生き生きとワークするプロセスで国語力を定着⇒習得⇒獲得する」ということが絶対条件である。そのためには次のような原理・原則によることが大切である。
*国語科の基礎・基本・統合発信力を明確にし、その完全獲得を目指したワークシートを作成する。
*達成感・成就感を満喫し、言語行動主体の自己実現できるステップアップの過程を編成する。
*「ワーク」と「技能・能力」が密接不離の関係で連動したワークシートを作成する。
*自己評価や相互評価ができるように適切に工夫したワークシートを作成する。
*国語力の発達段階や、一人ひとりの習熟度に応じてワーク量を調節する。
◎多種多様でユニークな楽しいワークシートを開発する
ワンパターンのワークが繰り返し続くと子どもは飽きてしまうし、学習の方法も固定してしまう。現在数多く使用されているワークシートが、このような傾向にあるということは否定できない。そこで、「行動学習法」を適応した「新ワークシート」の開発に挑戦することが必要である。
◎ワークシートは、発展学習や補充学習にも活用できる
ワークシートは、発展学習や補充学習に活用すると効果的である。また、習熟度別指導にもその機能を発揮する。国語科指導においては、教科書単元や教材を忠実に指導することが前提である。しかし、教科書には量的に制約がある。従って、言語事項の教材も不足で系統的に配列していないことがある。説明文や文学文も読み方書き方が不徹底のまま調べ学習に発展させて、典型的なジャンルの読解力や文章表現が十分身についていない高校生や大学生もいるという憂慮すべき実情である。加えて、文化審議会の答申で強調されている「言語力による情報操作能力」を獲得する的確な単元も設定されていない教科書もある。
このような教科書の内容構成からも、国語科教育の体系化や指導法の組織化の観点から再検討・再構成の必要がある。また、今後も教科書による指導を中核に据えると共に、基礎・基本・統合発信力の螺旋的系統の体系化に基づく「行動学習法」で国語学力の向上を促進しなければならない。そうしないと国語学力は低下の一途を辿り学力の低下にも歯止めがきかなくなる。
本書に登場するワークシートは、現在数多く使用されている「虫食い・穴埋め」「同一種類」「正解探し」のワークシートからの脱却を試み、「子ども一人ひとりの読みを豊かにすることを助けるワークシート」を目指している。
◎子ども自らが、自分の学習課題を自覚し、追究する。(課題追究力)
◎子ども自らが、何種類かのワークシートから、自分の学習に合ったワークシートを選ぶ。(選択力)
◎子ども自らが、自分の考えや友達の考えを書き込み、意見交流を通して自分の考えを豊かにする。(思考力)
◎子ども自らが、自分の考えをまとめ、表明する。(表現力)
これからの学習において、重点的に育てるべき能力の育成に資するワークシートの開発を意識したものである。全国の先生方が、本書からワークシートの概念を広げられ、実践を豊かにされることを願っている。
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- 明治図書