- はじめに
- 第1章 21世紀型教育・教師の戦略
- 〜子どもへの指導,対応が大きく変わる
- 1 「20世紀型」と大きく異なる「21世紀型」の価値観
- 2 マクロ的世界の動きを把握する
- 3 教育の目的は何か
- 第1章まとめ
- 第2章 時代を超えた教育=OSのスペックを引き上げる
- 1 OSとソフトの不一致による学力低下現象
- 2 OSの正体
- 3 疑問を持つ
- 4 まとめる(抽象度を上げる)
- 5 応用力の正体
- 第2章まとめ
- 第3章 自己肯定感を引き上げるマジックワード
- 1 子どもたちの自己肯定感が低いのはなぜか?
- 2 教師の自己肯定感は高いのか?
- 3 子どもの自己肯定感を高める10のマジックワード【教師用】
- 4 人財育成の最大原則
- 第3章まとめ
- 第4章 学校“常識”の謎 PART1
- 〜覚え方を知らない,勉強方法を知らない子どもたち
- 1 「覚え方」を知らない子どもたちの謎
- 2 マインド優先の会話がない謎
- 3 板書とノート写しの謎
- 4 集団指導は誰のためにもなっていない謎
- 5 やっつけ仕事でやる宿題を今も出している謎
- 6 子どもは意味がわからないのに,教師が説明したら,できたことにする謎
- 第4章まとめ
- 第5章 学校“常識”の謎 PART2
- 〜子どもたちの心の状態から組み立てる授業だろうか
- 1 つまらないことには子どもは興味を示さないのに,つまらない授業をまだやる謎
- 2 テストを返却してから解説する謎
- 3 効果がない反省文を今もやらせる謎
- 4 定期テストの試験範囲を出しても勉強の仕方を教えない謎
- 5 「わかる人?」といって手を挙げさせる謎
- 6 「当てて答えさせる」という謎
- 7 単なるおしゃべりばかりのアクティブ・ラーニングをやる謎
- 第5章まとめ
- おわりに
はじめに
「教員向けの本を執筆してほしい」こういうご依頼から,本書は出来上がりました。私はこれまで保護者向け(特にママさん)の本を年数冊ずつ出してきましたが,教師向けの本は初めてとなります。そこで,この本をご覧頂いている方と私は初対面であると思いますので,はじめに私がどんな人間なのかについてお話ししておきましょう。
私は20歳で起業しました。大学1年の時です。学習塾を作りました。これが1989年(平成元年)4月です。塾では,これまで直接指導してきた子どもたちの数は小中高合わせて3,500人以上となります。一人あたり一年間指導しているため,3,500年分の人生ドラマを見てきたことになります。
教師も同様だと思いますが,そのような指導の中で「勉強ができる子とできない子の習慣」がわかってきました。勉強ができない子にはある共通した習慣があり,その逆の習慣を作ってしまえば,学力は向上するという理屈で学力を引き上げてきました。そのようなアプローチで成績を100%上げていくわけですが,100%はあり得ないと思われるかもしれません。「なぜ,100%上げたと言えるのか?」という問いには次のように答えることができます。それは「成績が上がるまで教えたから」なのです。
そもそも学力を上げるために保護者は月謝を払っていると私は考えていたため,成績を上げない塾は“詐欺”であると思っていたのです。その結果,ただ授業をコマとしてこなしていれば良いだけの場合には気づかない,様々なことがわかってきました。絶対的に学力を引き上げるためには,前提条件として「心の状態」を変えなければならない(つまり興味関心が出ている状態にする)ことや,問いかける言葉の種類によって,人が育つか育たないかが決まることがわかったのです。
35歳の時には東京の私立学校の経営者(常務理事)として学校改革に取り組みました。そこで得たこと,それは教師がとても崇高な仕事をしているにもかかわらず,尊敬されるような立場ではなく,また仕事量は尋常ではないほど多いということでした。そのため,教師としての矜持,教師としての本来あるべき仕事を明確にし,日々,教員が生き生きと学校に赴くことができたら,結果として子どもたちが変わり,そして未来が変わっていくだろうと思い,改革を行っていきました。
しかし,一方で,学校教育の謎もありました。「昔からやっているから」という理由だけで,効果を検証することもなく,今も継続してしまっていることがたくさんあります。これはなにも学校の世界に限定される話ではありません。企業でも起こっている現象の一つです。一人ひとりは問題を自覚できていても,組織,集団になると動けなくなるというのは,古今東西問わず,あらゆるところで起こっている現象なのでしょう。だからといって,そのままで良いわけではありません。変えなければならないことは変え,変えてはならないことは変えないという「温故知新」の発想が必要であると考え,学校改革を行っていきました。最終的に学校が変わったのは,私が変えたというよりは,現場の教師たちが自ら企画し,実行し,成果をあげていったためです。確かにきっかけは私が作ったかもしれませんが,実働で変えていったのは教師たちだったのです。さすが教師たちです。ただこれまで「変わるきっかけ」がなかっただけのことだったのです。
その後私は,長年,教育事業に携わりながらも教育を学問として学んでいないことに気づき,学校の近くにあった東京大学大学院教育学研究科に入学し,修士課程,博士課程に在籍しました。そこには,多くの見識とデータ,そして何よりも優秀な教授陣と学生がいます。非常に多くの東京大学の学生と出会い,教師と出会い,話し合い,学び合いました。東大生がどのような思考プロセスを持っているのか,どのような家庭で育ったのか,このようなことも私の個人的関心ごととしてヒアリング調査もしていました。そこからわかったことを,一般化しルール化していきました。その代表的なルールが,「東大生のような頭脳のスペックを手に入れる方法」というものです。もちろん,これは学力の世界においての話であり,人生や生き方について「東大=高学歴=幸福」という方程式が成り立つわけではありません。幸せに生きていくためには,学力より重要な要素が別にありますが,学力に限ったことでいえば,21世紀型能力が要求される時代であっても,東大生が持っている頭脳のスペックと育った家庭環境は非常に参考になるのです。本書では,この東大生のようなハイスペックな頭脳を持つ人がどのような思考プロセスを持っているのかについて一つの章を割いて記述していますが,そちらをご覧頂くと,20世紀型の教育でも21世紀型の教育でも通用する頭脳の謎がわかると思います。
その後,私に転機がやってきます。それは,2015年から東洋経済オンラインの執筆を始めたことです。4年間で127本が掲載されました(2020年1月)。記事は全て「ママさんからの子育ての相談に回答する形」になっています。実際は,ママさんだけが読んでいるわけではなく,学校の教師や,ビジネスマンの方々にも読まれ,校長先生からは学校便りにも引用しましたという報告も多数頂いており,全国各地の教育現場で使用されているようです。そのようなこともあり,記事の累計アクセス数が8,100万を超えました。この数字の単位に私は驚きを隠せませんでした。紙媒体で8,100万は通常ではあり得ません。しかも4年間という短期です。これは私の記事が優れているという意味ではなく,東洋経済オンラインというオンライン媒体の拡散力への驚きです。これがデジタルの世界であり,21世紀なのです。統計データを見るとすぐにわかりますが,もはや,紙によるメディアの時代が後退しつつあることは否めない事実でしょう。
このようなオンライン記事を書いている中で,直接,保護者(多くは母親)に集まって頂き,座談会のようなことをやろうと思い,企画したのが,「Mama Cafe」というコミュニティです。東洋経済オンラインを書き始めてから1年後に始めましたが,今では毎年100回以上行い,私以外の方が開催できる「Mama Cafe認定ファシリテーター資格制度」を作り,200人以上の認定ファシリテーターが全国で活躍され,ママコミュニティを展開しています。
このMama Cafeを通じて,私は毎年延べ1,500人のママさんと直接Q&Aを行ってきました。そのため,全国のママさんたちが何で悩んでいるのかということがつぶさにわかる立場にあります。そして,それを記事や本,ブログという形で全国の同じような悩みを持つ方に向けて発信しています。
Mama Cafeの回数を重ねるに従って,Mama Cafeは21世紀のあり方に適合したスタイルであったことが後からわかりました。それは「コミュニティ」というスタイルです。実は,コミュニティに参加することによって,孤立しがちな現代社会人は,本来の自分のあるべき姿を取り戻していくことができます。
子どもの教育に関していえば,孤立しがちなのは,ママさんと,そしてもう一人,学校の教師ではないかと思っています。厳しい環境の中で激務をこなしている方々に必要なのは,コミュニティでないかと考えているのです。そこでは,多くの悩みの共有もそうですが,「楽しい,面白い,ライト,ワクワク,質の高い学び」というスタイルが展開されています。何事も一人では限界があります。このようなコミュニティに参加することは21世紀においては当たり前のようになっていくことでしょう。
以上のように,私は,20歳の起業から,小中高生の子どもたちの指導,学校経営,オンライン記事および「Mama Cafe」という3つの場を通じて,多くのことを学びました。
そこから得られた原理,ノウハウ,指導法,思考法がたくさんありました。その中でも,指導する立場にある方々への内容に限定し,本書で記述しました。もちろん,100%という状態が世の中に存在しない以上,これらの方法も成果を100%保証するものではありません。しかし,何かしらの変化は生まれるのではないかと思っています。よろしければ,本書から何か一つでも参考として頂ければ幸いです。
/石田 勝紀
夢中になって読めました。
すぐに学年会で紹介し、改革したいです。
本書と出会い、今後は襟を正し職務に励んでいきたい。
質問なのですが、第5章学校の常識の謎の3:効果がらない反省文…(P114)の9行目、20世紀では「反省」という言葉ではなく…とありますが、文脈からして21世紀ではないでしょうか?
21世紀では、反省では無く、振り返りが重要になってくるという意味の解釈かと思うのですが…