- はじめに
- 第1章 クラス会議でクラスが育つ 学校が変わる
- 1 児童飛び出し1日5件の学校で
- 2 ダイバーシティの学校で
- 3 「閉塞感」突破の切り口
- 第2章 アドラー心理学と心理的安全性
- 1 アルフレッド・アドラーの考え
- 1 アドラー心理学の独自性
- 2 アドラー心理学が発展した背景に関する私見
- 2 アドラー心理学の基本原則
- 1 個人の主体性
- 2 目的論
- 3 全体論
- 4 社会統合論(対人関係論)
- 5 仮想論(認知論)
- 6 共同体感覚
- 3 求められる心理的安全性
- 1 心理的安全性とは
- 2 なぜ,心理的安全性なのか
- 3 心理的安全性のリスクとメリット
- 4 教室の心理的安全性
- 1 学習指導要領と心理的安全性
- 2 「恐れのない教室」チェックリスト
- 3 異なる心理的安全性の見方
- 4 教室における意味
- 5 学級のチーミング
- 1 学級集団はチームなのか?
- 2 チーミングとは
- 3 チーミングのプロセス
- 6 心理的安全なクラスを育てる
- 1 チーミングの前提条件
- 2 学級の発達段階
- 3 タックマンモデルと学級集団の発達
- 7 教師の役割と責任
- 1 状況によって変えるリーダーシップ
- 2 心理的安全性を生み出すリーダー
- 3 期待される学級担任の行動
- 8 「何でも言い合える」クラスの実現
- 1 心理的安全性を実現する具体的方法
- 2 心理的安全性のスキル
- 9 心理的安全性とクラス会議
- 1 心理的安全性と共同体感覚の関係
- 2 子どもたちの「つながり」の系譜
- 3 子どもたちのつながりと心理的安全性
- 第3章 クラス会議の指導案
- 1 実践する前に
- 1 クラス会議を実施する時間
- 2 クラス会議プログラムの概要
- 3 願い
- 4 実施スケジュール
- 5 目的達成をサポートする10ポイント
- 2 クラス会議プログラム
- 1 1時間目:クラス会議を立ち上げる
- 2 2時間目:効果的なコミュニケーション
- 3 3時間目:異なる見方・考え方
- 4 議題を集める
- 5 4時間目:問題解決の勇気をもつとき
- 6 5時間目:問題解決を始める
- 7 隙間時間のクラス会議
- 8 カフェ形式
- 9 司会マニュアル
- 10 書記マニュアル
- 3 評価のポイント
- 1 評価規準の例
- 2 ふりかえり用紙
- おわりに
はじめに
今,みなさんの目には,教室は,学校はどのように見えていますか。
いじめ,不登校,学級の荒れなどに象徴されるように,教室に不安を抱える児童生徒は少なくありません。いじめの認知件数及び不登校の児童生徒の数は増加の一途を辿るばかりです。しかし,学校に対して不安を感じるのは,子どもたちだけではありません。学級経営や児童生徒の指導だけでなく,職務遂行そのものに対して見通しがもてずに職業継続の危機を感じる教師も少なくないでしょう。
そんな教師の安心感が欠如している状態で,子どもたちに安全で安心な教室を提供できるわけがありません。どこから改善の手を打っていいかわからない学校教育への漠然とした不安に対して,それを解決する最適解のひとつを示したいと思います。本書のテーマは,クラス会議による心理的安全性の育成です。本書を手にしたみなさんが,今,最も求めているのが教室の心理的安全性ではないでしょうか。そして,心理的安全性の確保には,クラス会議が有効なのではないかと直感的に思っていらっしゃるのではないでしょうか。
本書はそんな皆さんの「背中を押す」一冊となることでしょう。本書の内容を理解し実践することによって以下のような効果をねらっています。
1 学習環境の質の向上
本書は,教育現場において心理的安全性を高めるための具体的な手法やアプローチを提供します。読者が心理的安全性を理解し,実践的な方法を学ぶことにより,学習環境の質が向上し,教育活動の効果が高まることでしょう。
2 対人関係の向上
クラス会議やグループディスカッションにおいて心理的安全性を確保することは,対人関係を改善し,協力的なコミュニケーションを促進します。本書は,個人や集団の対話におけるコミュニケーションスキルを向上させるヒントとなるでしょう。
3 学習意欲の向上
子どもたちが心理的に安心を感じる環境では,学習意欲が高まることが期待されます。本書のアプローチを取り入れたクラス会議やグループ活動により,子どもたちは,自分の意見や考えを自由に表現し,主体的に学びに取り組むようになるでしょう。
4 心理的健康のサポート
心理的安全性を育むアプローチは,ストレスや不安を軽減し,精神的な健康をサポートします。クラス会議を通じて感情や悩みを共有できる場が提供され,子どもたちは心の健康を維持しやすくなるでしょう。
5 社会的スキルの向上
本書は,児童生徒のコミュニケーション能力,協力,リーダーシップなどの社会的スキルを向上させる一助となります。これらのスキルを身につけることは,将来のキャリア形成や日常生活の問題解決に寄与します。
6 教育コミュニティの発展
学校全体で心理的安全性の理解と実践が広がれば,より広い範囲の質の高い学習環境が築かれます。これにより,教室だけでなく,学校全体の教育環境の向上につながります。
7 心理的安全性の波及
本書を通じて,心理的安全性の概念と方法が広まり,読者のみなさんが所属する,異なるコミュニティでの応用が可能になります。最も可能性が高いのが職員室への応用です。学級での心理的安全性の保障を大事にする教員が増えれば,職員の意識に少なからず影響が及ぼされます。これによって,より多くの教師が心理的安全性を体験し,そのよさを受け取る機会が広がることでしょう。
心理的安全性は,もともと産業界で注目された概念です。クラス会議は,家族会議から発展してきた理論と方法です。クラス会議による心理的安全性の育成は,教室や学校に留まらず,社会の様々な場面に応用や活用が可能なのです。クラス会議の実践と研究を進めるネルセンら(会沢訳,2000)は,クラス会議の機能を「人生のあらゆる領域―学校,職場,社会,家庭―で成功を収めるために必要不可欠なスキルと態度を教える」と説明しています1。クラス会議を学ぶことは,キャリア教育そのものなのです。
本書は3章構成です。第1章では,私が学校改善で関わらせていただいた印象的なクラス会議の実例を紹介しています。クラス会議は私たちの心を揺さぶるような様々な事実を起こします。お伝えできるのは,そのほんの断片ですが,クラス会議の効果のすさまじさを感じていただけるでしょう。第2章では,クラス会議のバックボーンになっているアドラー心理学と心理的安全性の関わりを示しました。実践するには,方法を支える考え方を理解する必要があります。方法自体は方向性をもっていません。考え方を知らずして,方法論を使用することは,運転手を乗せずに車を走らせるようなものです。クラス会議がどのように心理的安全性の確保と育成に寄与するのか,大枠をつかんでいただければと思います。そして,第3章は,クラス会議の方法論を,指導案形式で示しました。授業で使用できる資料も掲載しました。クラス会議の方法論は,これまでいくつかの書籍に示してきましたが,日々進化しています。可能な限り具体にこだわって表現しました。本書を小脇に抱えながら実践を進めていただけることでしょう。
本書の活用によって,みなさんの教室に心理的安全性が醸成され,子どもたちも教師も,「明日も行きたい」と思える教室が実現することを願ってやみません。
2024年2月 /赤坂真二
引用文献
1 J. ネルセン,L. ロット,H. S. グレン,会沢信彦訳『クラス会議で子どもが変わる アドラー心理学でポジティブ学級づくり』コスモス・ライブラリー,2000
教室の心理的安全性について考えるにはぴったりの一冊に間違いないだろう。