- はじめに
- 1 子どもの見方・考え方を育てる
- [1] 子どもの全面発達を保障する関連・系統指導
- [2] 認識の系統表を軸にした関連指導
- 2 説明文の授業で子どもが変わる
- [1] ≪つづけよみ≫で確かな自然認識を――伊藤和明氏の教材を軸に――
- [2] 伊藤和明 「滅びゆく森 ブナ」(中二)の授業
- 1 教材 「滅びゆく森 ブナ」
- 2 対比によってものの見方・考え方――連環・連鎖――を学ぶ
- 3 伊藤先生の一言が思いがけない展開を
- 4 自然を守るとは?――「カブトガニ」との対比を通して
- 5 伊藤先生ヘ――子どもたちの手紙
- 6 地球の歴史、人類の歴史を考える
- [3] 伊藤和明 「自然を守る」(小六)の授業
- 1 教材 「自然を守る」
- 2 この教材をどう読むか
- 3 この教材でどんな力を育てるか
- 4 授業をどう組み立てるか
- 5 「自然を守る」の授業
- [4] 伊藤和明 「川と人間」(中一)の授業
- 1 教材「川と人間」
- 2 「川と人間」のドラマチックなおもしろさ
- 3 「川と人間」の授業――矛盾・関係的にみる力を育てる
- 4 「人間と川」でなく「川と人間」と題した意味――≪まとめよみ≫の授業
- [5] 伊藤和明 「湖は今――」(中二)の授業
- 1 教材 「湖は今――」
- 2 子どもの実態と教材「湖は今――」
- 3 子どもにどんな力を育てるか
- 4 授業をどう組み立てるか
- 5 「湖は今――」の授業
- 3 関連指導で子どもに確かな認識の力を
- [1] 理科の授業と関連させることで
- 1 子どもたちの日常に迫る
- 2 理科の教科書では
- 3 理科の先生の感想
- 4 西郷先生からの私の授業に対する批判(西郷)
- [2] 社会科の指導との関連を考える
- 1 本多勝一 「危機に瀕する世界最大の白神山地ブナ原生林」を読む
- 2 知識をバラバラに教えることになってしまう「地理的分野」
- 3 “矛盾”の構造が明確にならない「公民的分野」
- 4 自然破壊と税金
- 5 社会科の教師からの発言
- 鼎談 自然と人間――国語科で確かな自然認識を /伊藤 和明 /西郷 竹彦 /麻生 信子(司会)
- 環境教育の必要性――筆者の願い/ 表現を教えることの意味/ 自然の生態系の中の人間としての自覚を/ 自然と人間のもちつもたれつの関係/ 自然保護運動の広がりの底に/ 子どもの世界観を育てるために/ 「生活科」との違い
- おわりに
序
説明文の授業は、筆者の説得の論法を学ばせるとともに、何よりも<ものの見方・考え方>(認識の方法)を学ばせること、そして、そのことによって<ものごと>の本質・法則・価値など(認識の内容)をよりゆたかに、ふかく認識させることであると考えております。
そのため、私どもは過去十数年にわたって認識の方法の系統(関連)指導ということを主張し、その研究と実践をかさねてきました。
本書は、小学校高学年以上の生徒に学ばせたい認識の方法としての<相関(連環)><関連>という課題と、中学校の課題の一つである<矛盾>という認識の方法を中軸として、小学校段階で学習した<比較>や<条件>などの認識方法をもからみあわせて試みた説明文の授業の一つの成果をまとめたものです。
ところで、ここにとりあげた教材は、すべて伊藤和明氏の文章です。このことは、私どもが主張してきた<つづけよみ>ということを示す一つの記録といえましょう。一人の作家・筆者の文章をいくつか<つづけよみ>することの教育的意義はきわめて大きいものがあると考えます。
認識の方法によってとらえられた<ものごと>の本質・法則・価値・意味などの認識の内容は、認識の方法の学習とともに認識の力を育てることになり、それは裏がえしに表現の力を育てることにもなるのです。
自然というものが一つの生態系として存在しているとすれば、当然、そのような自然をそのようなものとして認識するためには、<ものごと>を相関的・連環的に見る、考えるという<ものの見方・考え方>(認識方法)による以外には不可能です。
じっさい、自然を生態系としてみる伊藤和明氏の文章を教材として、本書の著者である麻生信子氏は、まさに<相関・連環>の認識の方法を授業の方法として生徒に学ばせ、そのことによって、自然が一つの生態系であり、したがって人間が勝手にそれを乱すことが人間自身にはねかえってくるものである<矛盾>をふかく認識させえたのです。
ここには、客観的現実(ここは自然)が理論と方法を規制し、逆にその理論と方法が客観的現実をさらにふかく認識させることになるという相関関係がみごとに示されているといえましょう。
著者の麻生信子氏は説明文指導については永年研鑽をつまれた篤学の士です。また、子どもの<いじめ>や教師の<体罰>の問題にも精力的なたたかいをつづけてこられた活動家でもあります。
子どもたちの認識を変え、育てることが子どもたちの生き方を変えることにもなる――という私どもの主張を身をもって実践している方でもあります。
本書を文芸研の研究と実践活動が生みだした一つの成果として一読をおすすめするものです。
一九八八年六月 文芸教育研究協議会会長 /西郷 竹彦
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- 明治図書