- はじめに
- T 生きる力を育てる国語科の相互交流能力
- 1 中学校で育てるべき対話能力
- 2 知識の重要性
- U 相互交流能力を育てる国語科の授業方向
- V 相互交流能力を育てる話し合い学習の実際
- 1 あなたとわたしと――ロールプレー――
- 2 わたしの学校です――プレゼンテーション――
- 3 もっと知りたいのですが――インタビュー――
- 4 わたしは否定します――ディベート――
- 5 もっと自由に――ディベカッション――
- 6 視点を変えて――パネルディスカッション――
- W 相互交流能力を育てるスピーチ学習の実際
- 1 これからもよろしく――自己紹介――
- 2 この一冊をあなたに――読書紹介――
- 3 わたしの大切なもの――宝物紹介――
- 4 今日の問題を考える――ニュース紹介――
- X 相互交流能力を育てるためのワンヒントコラム
- 1 心をつなぐあいさつの仕方
- 2 聞きやすい声の届け方
- 3 わかりやすい説明の仕方
- 4 話し合いを成功させる司会の進め方
- 5 説得力のある話し方
- 6 相手に応じたことばの使い方
- 7 効果的なメディアの活用法
- あとがき
はじめに
学習指導要領が改訂され、国語科においては、二〇〇二(平成十四)年から、従来の「表現」(書く・話す)、「理解」(読む・聞く)、の2領域が、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の3領域に再編成されることになった。これは何を意味するのであろうか。従来、話す能力は「表現」領域に、聞く能力は「理解」領域にいわば分断されていた。このため、「話す」は、聞き手とのダイナミックな相互交渉や共同作業としてではなく、自己完結的な「伝える力」として把握される傾向が強かった。一方、「聞く」に関しては、しっかり聞いてよく理解するという聞き取りに重点が置かれ、「きく」活動の中でも重要な「訊く」(たとえばインタビューなど)、あるいは、批判的に聞く力の指導が抜け落ちる傾向があった。だから、話し合いも「出し合い」に、ディベートも「言い合い」にとどまりがちで、なかなかかみ合った討論に発展しない。今度ようやく、それが合体したのである。西尾実の言を借りれば、ことば、特に話しことばの本質は「単なる個人的な表現活動でもなければ、個人的な理解活動でもない。もっともっと社会的な相互作用である。」このように、話しことばの教育の本来の姿からいっても、また、異なる価値観との共生が要請される社会状況から考えても、いま私たちが力を傾けるべきは、そのような「伝え合う」力であることは明白である。
ところで、従来、話しことばの学習は中学校では一般的に不振だったといわれる。思春期特有の、恥ずかしさを嫌う心理、知識注入・情報記憶型の授業スタイルになりがちな高校受験の圧力などなど、数え上げれば理由は切りが無い。しかし、ここへきて、そうとばかりいっていられない状況が、教育の内側から噴出してきた。人間関係の歪みからくるいじめなどの問題はここでは言うまい。今私たちに突きつけられているより本質的な問題は学力観の転換である。これまでは、単純化して言えば、学力とは構造化された知識のことを指し、学習とは個の孤立した営みと考えられてきた。ところが認知科学の発達により、大事なことは学び方を学ぶことであり、他者や言語をはじめとする道具との関係の結び方であることがはっきりしてきた。そして、考える力さえもが、その起源を社会的なコミュニケーションに持ち、対話能力が内部に取り込まれて思考力を形成すると言われるようになったのである。中学生という論理的思考力が育つ大事な時期だからこそ、私たちは、真剣に相互交流的な言語活動をどう組織するかを考えなくてはならない。
本書にまとめた授業実践は、ねらいも方法論も多様だが、いずれにも共通しているのは「話すこと・聞くこと」を対他的なコミュニケーションの手段としてだけではなく、「考える力」を育てることと不可分のものとしてとらえようという視点である。本書が、志を同じくする読者諸姉兄との新たな相互交流のきっかけになり、新しい時代の話しことば教育の踏み石として少しでも役立つことを祈りつつ。
二〇〇〇(平成十二)年九月
お茶の水女子大学音声言語学習会 編著者 /村松 賢一 /花田 修一 /若林 富男
-
- 明治図書