- はじめに
- 第1章 公園モデルで行う「むずかしい学級」の運営
- 「公園モデル」に切り替えよう
- 1 個人間の差異は増大している
- 2 UDLの考え方を学級経営に活用する
- 3 公園モデルで学級経営を考える
- COLUMN1 「困っている」と言ってみませんか
- 第2章 「むずかしい学級」ビルドアップ
- ―学級づくり7日間23のポイント―
- 1 自分の目で教室の空気を確かめる
- 2 「値踏み」に対応する
- 3 愛着を深める
- 4 小さな言動から主体を想像する
- 5 慎重な子とペースを合わせる
- 6 教師が言ったことは,徹底する
- 7 叱らず,子ども自身の力を伸ばす
- 8 結果をほめずに,過程を認める
- 9 子どものよいところを,早い時期に保護者に伝える
- 10 気持ちに寄り添う
- 11 ペースを合わせて,方針を語る
- 12 学級目標は「(仮)」にする
- 13 学級目標に下位目標を設定する
- 14 下位目標を達成できるシステムをつくる
- 15 教室で学ぶ目的を確認する
- 16 選択しながら,問題を改善する力をつける
- 17 段階的な日直活動ビルドアップ
- 18 初期の当番活動ビルドアップ―給食編―
- 19 初期の当番活動ビルドアップ―掃除編―
- 20 教室の仕事を選択する
- 21 失敗したときの対処を教える
- 22 教室環境を再点検する
- 23 教師自身の癖をチェックする
- COLUMN2 うまくいったことだけを続ける
- 第3章 「むずかしい学級」学習指導ビルドアップ
- ―学びのユニバーサルデザイン―
- 学習に見通しを持たせる
- 1 まず教師が見通しを持つ
- 2 なぜ学ぶかを意識できるようにする
- 3 単元の見通しを持てるようにする
- 4 何のために学ぶのかを示す
- 5 学ぶ手順の見通しを持つ
- 6 授業中のオプション
- 7 形成学力の評価としてのテスト
- 8 自分の学習状況をモニターする
- 9 一斉授業も必要だ
- COLUMN3 心づくりの仕掛けを
- 第4章 「むずかしい学級」の「困った!」への対応
- 1 話さない子との関係づくり
- 2 性的なハラスメントが見られる
- 3 学習にとりかかれない子
- 4 みんなと遊べない子
- 5 「無視する」と指摘される子
- 6 指導しようとすると「逃げて」しまう子
- 7 盗んでしまう子
- 8 他人に厳しい子
- 9 寂しさから落ち着かない子
- 10 教室内のいたずらに対応する
- 11 保護者のクレームにどう対応するか
- 引用・参考資料
- おわりに
はじめに
ある教室で,こんなことがあった。
本時の課題について個人で解決する時間になった。
ある子がすぐに,となりの子と話し始めた。
教師は,「○○さん,今は一人で考える時間です」とたしなめた。
「どうしていいかわかんないから,Aに聞いたんだよ」と,子どもは言った。
「でも,昨日までのところがわかっていれば,今日のはできるはずです。一人で考えるんです」と,その子の発言にかぶせた。
子どもは,教師に聞こえないくらいの小さな舌打ちをして,仕方なく前を向いた。その後は,所在なげに黒板の上方を見たきりだった。
教師は,まったく問題に取り組む気持ちのなくなった様子には,気づいていた。しかし,「しょうがない子だ」というように,ため息をついた。
同じ教室には,個人で解決する時間になったら,鉛筆を持ち,何かを書いては消し,消しては書いている子もいた。
問題はさっぱりわからなかったが,一人で問題を解く時間なので,とにかく一人で「解いて」いた。
担任教師は,今日の課題はその子に難しいとは思っていたが,静かに一人で解こうとしていたので,そのままにしていた。
しかし,その子は「静かに困って」いた。
また,学習塾に通っているらしいある子は,「今日の問題は簡単すぎるので,教科書の後ろの応用問題を解いてもいいですか」と尋ねたが,「まず黒板の問題を解いてからです。そんな勝手はいけません」と教師にたしなめられた。さらにその後「途中の計算は面倒なので,答えだけ書いてもいいですか」と尋ね,再びたしなめられた。
教師も,子どもも学校にある「こうあるべき」にとらわれすぎてはいないだろうか。
問題は,まず自分一人で解くべき。
問題を解くときは,黙って行うべき。
教師の示したやり方で,問題は解くべき。
こうした「べき」に,子どもを合わせることを,教師は教育することだと思ってはいないだろうか。そして,子どもが「べき」に合わせることができるようになったときに,子どもが「成長した」と考えてはいないだろうか。
先ほどの子どもたちにとって,本当は教科の目標や本時の目標を達成することが成長であったはずだ。また,それこそが重要なことであったはずだ。
そうであるなら,問題解決の過程でわからなければ,もう一度教師に尋ねてもいいし,周囲の子に尋ねてもよかったのではないだろうか。
また,ただ意味なくノートに文字を書いたり消したりを繰り返すくらいなら,友だちに解決方法を相談してもよかったのではないだろうか。周囲の子も,その様子に気づいているのなら,「何か困っている?」と声をかけるべきだったのではないだろうか。
そして,すでに本時の目標に到達しているのであれば,さらにむずかしい問題を解くことを許されてもよかったのではないだろうか。
既に,学校は古くなったのだ。
もちろん,今までの学校が大切にしてきたことで,今もなお子どもたちにとって重要な指導事項はある。しかし,「学校の『べき』」が,却って子どもたちの不適応を生み出している部分があるとは言えないだろうか。
本書では,「むずかしい学級」での学級経営や学習指導の考え方や,アイディアを紹介するという体をとりつつ,「学校の『べき』」を精選して,教師が本来するべき事柄を示したつもりである。
教師が本来の仕事をすることによって,今まで「学び」からスポイルされてきた子どもたちが,よりよく学べるようになると,私は信じている。
/山田 洋一
一斉指導に縛られない、これからの子どもたちの在り方を考えれば、UDLは必須になってくる。それと難しい学級での指導を結び付けたのは見事!!
ぜひ一人でも多くの先生方に読んでいただきたい!
そうではなく、むずかしい学級も、やり方次第で「ビルドアップ」できる。そんな希望を感じさせてくれる一冊だと思う。4月の学級びらきを迎える前に読んでおきたい一冊。