- はじめに
- 中学年の国語でどんな力を育てるか
- 1 関連・系統指導でどんな力を育てるか
- 2 国語科で育てる力
- 3 本講座のテキストについて
- 4 自主編成の立場で
- 5 中学年で育てる力
- 6 三年生で育てる力
- 7 四年生で育てる力
- 三年の国語で何を教えるか
- 1 「きつつきの商売」(林原 玉枝)
- 2 漢字の音と訓
- 3 「ありの行列」(大滝 哲也)
- 4 国語辞典を使おう
- 5 「わたしと小鳥とすずと」(金子 みすゞ)
- 6 くわしくする言葉
- 7 道あんないをしよう
- 8 「三年とうげ」(李 錦玉)
- 9 「キリン」(まど・みちお)
- 10 へんとつくり
- 11 「分類」ということ
- 12 反対の意味の言葉
- 13 「ちいちゃんのかげおくり」(あまん きみこ)
- *「夜のくすの木」(大野 允子)
- 14 「すがたをかえる大豆」(国分 牧衛)
- 15 せつめい書を作ろう
- 16 「モチモチの木」(斎藤 隆介)
- 四年の国語で何を教えるか
- 1 「三つのお願い」(ルシール=クリフトン作/金原 瑞人 訳)
- 2 漢字の組み立て
- 3 「『かむ』ことの力」(金田 洌)
- 4 「春のうた」(草野 心平)
- 5 漢字辞典の使い方
- 6 新聞記者になろう
- 7 ローマ字
- 8 「白いぼうし」(あまん きみこ)
- 9 「ぼく」(木村 信子)
- 10 「手と心で読む」(大島 健甫)
- 11 にた意味の言葉
- 12 「一つの花」(今西 祐行)
- 13 文と文のつながり
- 14 「アップとルーズで伝える」(中谷 日出)
- 15 いろいろな意味をもつ言葉
- 16 熟語の意味
- 17 つぶやきを言葉に
- 18 言葉遊びの世界
- 19 「ごんぎつね」(新美 南吉)
はじめに―教科書教材による「ものの見方・考え方」を育てる国語の授業
これまでの国語科教育の目標は、文章表現の内容がわかる力、つまり読解力を育てることだとされてきました。ところが、一九九八年に改訂された現行の『学習指導要領』では、国語の読解指導、特に文学教育に対する、極めて憂うべき軽視政策がとられました。たとえば、人物の気持ちは、高学年において重点的に扱え、といった指導を強制しています。いったい、低学年の子どもには人間の気持ちなど理解できないとでも考えているのでしょうか。もしかりにそうだとするなら、それこそ低学年から、人間のこころのわかる指導をすべきではないでしょうか。学校現場の荒廃を嘆く前に、「人間をわかる人間を育てる教育」をこそ目指すべきであったのです。まさに人間の真実を語る文芸こそが、人間についての豊かな、深い認識を育てるための、唯一といっていい教材となるものです。だからこそ前述した文部科学省による文芸教育の軽視は、結果として教育の荒廃を招くもとになったのです。
現行の『学習指導要領』は、読解力さえつけさせないものであり、子どもたちの学力の低下を招くものであると、私どもは強く批判してきましたが、果たせるかな、一五歳児を対象とした経済協力開発機構(OECD)の学力到達度調査(PISA)で、日本の生徒の読解力が、前回八位から今回一四位というきびしい結果になりました。これは明らかに我が国の誤れる文教政策のもたらした結果と言うべきです。
私ども文芸教育研究協議会(文芸研)は、創立以来、読解力と表現力を育てることだけを目標とする国語教育のあり方を批判し、読解を超えて、人間そのもの、人間にとっての言語・文化やものごとの本質・法則・真実・価値・意味などをわかる力――認識力を育てることが国語科教育の目的であると主張してきました。
そのために、「ものの見方・考え方」(認識の方法)を、発達段階に即して、系統的に指導することを試みてきました。『学習指導要領』が、言語事項を軸にして系統化を考えているのに対して、私どもは認識の方法を軸にした系統化を考えています。つまり、説明文教材や文芸教材だけでなく、作文・読書・言語・文法などの領域もすべて認識の方法を軸にして、互いに関連づけて指導するわけです。
このような関連・系統指導の考え方に立って、どのような国語の授業を展開するかを試みました。もちろん現行の教科書は『学習指導要領』にもとづいて編集されておりますから、私どもの主張とのあいだに、あれこれの食いちがいやずれのあるのは当然であります。しかし、本書では、できるだけ子どもの「ものの見方・考え方」(認識の方法)を関連・系統的に教え育てていく立場で、それぞれの教材をどのように教材研究し、授業を展開すればいいかを解説しています。
なお、国語を「ものの見方・考え方」を軸にした系統指導することによって、それが土台になり、総合学習へ連関させることができます。そもそも、国語科そのものが、いわば「ミニ総合科」という構造をもっています。国語科で学んださまざまな「ものの見方・考え方」を総合学習では、組み合わせることになります。総合学習は、各教科を横断・総合するということもありますが、むしろ、国語科などで学びとったいろいろな「ものの見方・考え方」を対象にあわせて組み合わせるところにこそ、ほんとうの意味での「総合」があるのです。「ミニ総合科」としての国語科は、いわば、そのようなあり方のモデルでもあると考えていただけたらと思います。
国語科の指導にあたっては、体系的な西郷文芸学の理論と方法と、教育的認識論をもとに、過去半世紀にわたり研鑽を積み重ねてきました。そのゆたかな経験をもとに、私たちは、『文芸の授業』や『詩の授業』『説明文の授業』(いずれも明治図書)などの場で実践・研究の成果を世に問うてきました。そして、現在「文芸研の授業」シリーズの刊行を進めています。この『教科書指導ハンドブック』(略称『ハンドブック』)もその企画の一つです。
『ハンドブック』は、六割近いシェアをもつ光村図書の教科書を中心に、他の教科書の優れた教材も含めて、どのような観点で指導したらいいのか、そのポイントを具体的に、分かりやすく、講義形式で語るようにまとめたものです。幸い好評で、版を重ねてきましたが、今回の教科書の改訂で教材の変更がありました。そのため、『ハンドブック』も全面的に手を入れた改訂版を出すことになりました。教科書をかたわらに置いて本書をお読みくだされば、「ものの見方・考え方」を育てる関連・系統指導の内容を具体的に理解していただけるものと確信しております。
このたびも、企画から刊行まで、明治図書出版・編集部の庄司進氏のひとかたならぬご協力をいただきました。ありがとうございました。
二〇〇五年四月 文芸教育研究協議会会長 /西郷 竹彦
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