- はじめに
- 第1章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校数学の授業づくり
- 1 アクティブ・ラーニングとは何か
- 2 高等学校数学科におけるアクティブ・ラーニングの位置づけ
- 3 本書におけるアクティブ・ラーニングのとらえ
- 第2章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校数学の授業プラン
- わかりやすく図で表現しよう!
- (数学T/集合)
- 三角形の角の二等分線の長さを求めよう!
- (数学T/図形の計量)
- スカイツリーよりも東京タワーの方が高い!?
- (数学T/図形の計量)
- 交通事故を減らす対策案をプレゼンしよう!
- (数学T/データの分析)
- 「モンティホール問題」を考えよう!
- (数学A/確率とその基本的な法則)
- 小学生のうっかりミスから不定方程式を解こう!
- (数学A/整数の性質の活用)
- コンパスを使わない作図にチャレンジしよう!
- (数学A/作図)
- 4人グループで問題をつくって発表しよう!
- (数学U/整式の乗法・除法,分数式の計算,高次方程式)
- 解と係数の関係を理解し,その活用の仕方を考えよう!
- (数学U/複素数と二次方程式)
- 三角形の重心の軌跡を調べよう!
- (数学U/軌跡と領域)
- 大小関係を1つの軸上にとって表現してみよう!
- (数学U/対数関数とそのグラフ)
- 三次関数の増減表とグラフをかいてみよう!
- (数学U/導関数の応用)
- 碁石の数の規則性を探ろう!
- (数学B/等差数列と等比数列)
- 群数列の規則性をつかもう!
- (数学B/いろいろな数列)
- 球面は大円によっていくつの部分に分けられる?
- (数学B/いろいろな数列)
- 直線によって分けられる平面の個数の求め方を考えよう!
- (数学B/漸化式と数列)
- 薬の体内残量を調べ,服用量の決め方を知ろう!
- (数学B/漸化式と数列)
- 数学を使って海難救助について考えよう!
- (数学V/微分法)
- 第3章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校数学の授業の評価
- 1 アクティブ・ラーニングにおける評価のポイント
- 2 アクティブ・ラーニングにおける評価の具体例
はじめに
高等学校数学科の教員の中には,学習指導に関して様々な悩みを抱えておられる方がいます。例えば,大きな学力差のある生徒にどのような授業を展開すればよいのか,習熟の程度が不十分な生徒にどのような工夫をすればよいのか,数学嫌いの生徒にどのようにすれば興味をもたせられるのか,といった悩みです。また一方で,大学入試問題の傾向を把握しながら,どのような入試対策が必要なのか,でも受験対策だけで終わっていいのか,といった悩みもあります。
生徒の特性等が多様な高等学校の場合,学習指導の工夫は,その学校の生徒の実態に応じるという点で,学校独自の検討が必要です。この検討を進めるにあたっては,教科内で同じ思いをもった仲間がいて,情報を共有し合うことがとても重要です。また同時に,検討するための基礎資料として,工夫のヒントとなる教材例や指導例も必要となります。後者の場合,高等学校の事例は極端に少ないのが現状で,いろいろな事例に出合ったとしても活用できないと感じてしまうことが多いものです。例えば,研究発表大会などで,他校の工夫された実践事例を見ても「あの学校だからできるのではないか(自校には馴染まない)」といった,批判的な見方をしてしまうため,せっかくの情報を自校に生かせないことがあります。
他校で工夫された実践事例が直接的に自校で活用できないとしても,その事例には,興味ある題材の示し方や生徒の予想される反応のとらえ方のほか,目標を実現させるための工夫や評価の工夫なども示されていることが多く,それらを読み取り,自分の学校で実践可能なように変換することは可能です。したがって,授業改善にあたっては,「隣の芝生は青い」といった消極的な見方ではなく,「自分の芝生も青くできる」という積極的な気持ちをもって,いろいろな情報を価値あるものにしていく取り組みが必要だと考えています。
さて,今話題の「アクティブ・ラーニング」は,生徒が主体的に学ぶ授業展開の方法として取り上げられています。本来,大学教育の改善で求められたものですが,初等中等教育においても,その事例を示した書籍が豊富にあります。教科等では,総合的な学習の時間のほか,外国語系や社会科系などの文系の科目に多く見られます。しかし,この言葉の用い方は様々で,「アクティブラーニング」と表記して,アクティブとラーニングが一体のものであるとの考えを強調するもの,授業のほとんどをアクティブにすることを求めるもの,授業の1割程度若しくは学期の中の数時間などに限定してアクティブにするというものもあります。
数学科における「アクティブ・ラーニング」については,単にアクティブにすればよいというものではありません。しかも,「アクティブ・ラーニング」そのものの意味を明確にしないままに,他教科の取組等をそのまま導入してもうまくいくとは思えません。先頃示された中央教育審議会答申(平成28年12月)においても,「アクティブ・ラーニング」については,「アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善」という表現となっていますので,今の授業をすべて「アクティブ・ラーニング」にすることを期待しているわけではありません。
本書は,高等学校数学科の目標が,「数学的活動を通して,数学における基本的な概念や原理・法則の体系的な理解を深め,事象を数学的に考察し表現する能力を高め,創造性の基礎を培うとともに,数学のよさを認識し,それらを積極的に活用して数学的論拠に基づいて判断する態度を育てる」と示されていること,先頃示された,中学校学習指導要領(数学,平成29年3月)においても,冒頭に「数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す」と示されていることなどから,数学科における「アクティブ・ラーニング」の視点とは,「数学的活動」を充実させることであるととらえています。
「数学的活動を充実させる」とは,適切な課題に対して,数学化(モデル化)する過程に力点を置いたり,数学化された内容を数学的に処理する段階で様々な数学的な見方・考え方をいろいろな形で表出したり,得られた結果について振り返る活動を豊かにしたりすることなどが考えられます。このような活動自身が,学びにつながるアクティブ・ラーニングととらえています。さらに,どのような学びであったのかという,数学的活動を通して学び得た結果について評価することも大切なことです。本書では,この評価の観点として「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」という学力の三要素にかかわる評価が必要であると考えています。
このような考え方に立って,本書では,高等学校数学科におけるアクティブ・ラーニングについて提案するものです。アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善という立場から,「数学的活動」の充実を念頭に置いた授業プランを提案してみました。既述のように,これらの事例のすべてがどの学校でもすぐに活用できるものであるとは考えていません。これらの事例のよさを様々な視点からとらえていただき,自校に活用できるものとして変換いただければ幸甚です。
今回の出版に際して,明治図書出版の矢口郁雄様には大変お世話になりました。また,授業プランを提供していただいた諸先生方には,高等学校数学科にこのような書籍が必要との認識を共有できたことに深く感謝いたします。
2017年5月 /吉田 明史
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- 明治図書
- 実践例が細かく載っていて使ってみようと思いました。第2弾を期待しています。2017/11/440代、高校教諭