- はじめに
- 第1章 おさえておきたい!ペップトークの基礎知識
- 1 ペップトークとは?
- 2 日本にやってきたペップトーク
- 3 ペップトークの特徴
- 4 ペップトークとプッペトーク
- 5 ペップトークに大切なこと
- 6 学校におけるペップトーク
- Column 日本の「言霊」,アメリカの「ペップトーク」
- 第2章 4ステップで簡単!ペップトークの作り方
- 1 ペップトークの4ステップ
- 2 ステップ1 受容(事実の受け入れ)
- 3 ステップ2 承認(とらえかた変換)
- 4 ステップ3 行動(してほしい変換)
- 5 ステップ4 激励(背中のひと押し)
- 6 ペップトークを効果的に活用するには
- Column 褒め言葉を使って,子どもに自信をもたせる
- 第3章 子どものやる気を引き出す!場面別ペップトーク集
- できる感スイッチでやる気を引き出す
- 1 朝のあいさつをしっかりさせたい
- 2 5分前行動を促したい
- 3 テストで目標を達成させたい
- 4 苦手なことに挑戦させたい
- 5 合唱祭で真剣に歌わせたい
- 6 掃除をきちんとやらせたい
- 7 友達同士仲良くさせたい
- 8 学芸会(学習発表会)に真剣に取り組ませたい
- 9 作文にしっかり取り組ませたい
- 10 家事を自分でやらせたい
- ワクワク感スイッチでやる気を引き出す
- 11 教室に入れさせたい
- 12 部活動の試合前に激励したい
- 13 授業参観の緊張をほぐしたい
- 14 体育祭でクラスをまとめたい
- 15 卒業式の練習に気持ちを入れさせたい
- 16 授業で満足感を得られるようにしたい
- 17 部活動での反省を次の頑張りにつなげたい
- 18 催しごとを自主的に考えさせたい
- 19 授業を活発化させたい
- 20 整理整とんをしっかりさせたい
- 安心感スイッチでやる気を引き出す
- 21 発表での緊張を和らげたい
- 22 プールを怖がる子を安心して入らせたい
- 23 ケンカした子どもを仲直りさせたい
- 24 失敗した子どもを慰めたい
- 25 嘘を正直に告白させたい
- 26 家庭の悩みを和らげたい
- 27 進路について考えさせたい
- 28 自己アピールをしっかりさせたい
- 29 「ありがとう」が飛び交う学級にしたい
- 30 学級の事件を解決したい
- Column あなたは「言葉の力」を信じますか
- 付録 あなただけのペップトークを作る!ワークシート集
- ワークシートの使い方
- ペップトーク作成シート
- リフレーミングシート
- おわりに
はじめに
今の自分があるのは,あの時のあの人の言葉があるからだ。という話をよく聞きませんか。教員として教壇に立ったのは,あの時のあの言葉が…。
私が教職という道を考え始めた出来事が高校時代にありました。私は高校を卒業したら,就職をして自立するという思いで,工業高校を選びました。昭和45年ですから,就職も大変良い状況でした。
私の名前は「啓文(ひろふみ)」ですが,初めて会う人に,「ひろふみ」と呼んでもらえることがありませんでした。高校2年生の現代国語の最初の授業で,一人ずつ名前を呼ばれて,コメントをもらった時のことをはっきり覚えています。私の番になり,「みつもりひろふみ」と呼ばれ,「ハイ!」。生まれて初めて,正しく呼ばれたのです。その時のコメントが,「君は,教師になるといい名前だな。『文を啓める』学んだことを伝えるという役目がある」でした。初めて,名前をきちんと呼ばれたことと,「啓文」には,そんな意味が込められていたことを知った瞬間でした。
この先生のお陰で,自分の名前に自信をもち,そして教職の道も選択肢の中の一つになりました。
たった一言の言葉が,人生を左右する言葉として,残ることがあるわけです。みなさんにも,きっとそんな経験があるのではないでしょうか。
その後,体育教師を目指し,中京大学体育学部体育学科へ。卒業後3年間の講師生活の後,教員試験に合格。愛知県教員として教壇に立つことになりました。
小学校勤務を経て,中学校に変わり陸上部の顧問を任され,努力してきました。自分としても,指導には自信をもち,実績も上げてきたつもりでした。
卒業を数日後に控えたある日,一人の陸上部の女子生徒が,私のところに来て発したひと言,
「私は,先生につぶされました」
彼女は,くるりと背を向けて,去っていきました。呆然と見送る私。
私にとって,あまりにも,衝撃的な言葉でしたが,卒業後もなぜか,心にひっかかるものがありました。力のある優秀な選手でしたので,全国大会での活躍を目指して一方的な練習メニューを課していました。彼女の体調や都合を全く考えない対応でした。
「言うことを聞いていれば,強くなる」
私の指導は正しい。きちんとこなせば強くなれる。ただそれだけでした。部活動中の言葉は乱暴。当時の私は,「押しつけ」こそ,部活動を強くする方法だと信じていたのです。自分自身が,高校・大学で学んできたことをそのまま,中学生に押しつけていたのです。
考えてみれば,彼女にとって,信頼関係もないのに,私の言葉の一つ一つが入るはずがありません。反感をもつだけになります。そこに気づかなかった私の目を覚まさせてくれたのが,彼女の「私は,先生につぶされました」です。
彼女の一言のお陰で,生徒を大事に思う気持ちをもつようになりました。呼び捨てしかしなかった私が,「君,さん」をつけて呼ぶようになりました。定着するのに,半年を要した記憶があります。
「君,さん」が定着してくると,自分の中に気づきがありました。
「君,さん」をつけるだけで,生徒を大事に思うことができる。大事に思えるようになると,生徒の言動をしっかり受け止めることができる。しっかり受け止めることができるようになると,仮に問題行動があっても,その背景を見つめることができる。背景を見つめるようになると,問題の本質が見えてくる。
その後の部活指導はもちろん,生徒指導でも「言葉の力」を強く感じながら教育活動を進めることができました。
言葉を意識すると,他の先生方や,保護者,研修会や講演会で聴く言葉の中で,キラリと響く言葉を見つけることができるようになります。
2018年9月 /三森 啓文
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