- はじめに
- 第1章 アクティブ・ラーニングを位置づけた中学校数学科の授業づくり
- 1 アクティブ・ラーニングとは何か
- 2 中学校数学科におけるアクティブ・ラーニングの位置づけ
- 3 本書におけるアクティブ・ラーニングのとらえ
- 第2章 アクティブ・ラーニングを位置づけた中学校数学科の授業プラン
- 乗法の符号の決定方法を見つけよう!
- (1年/数と式/正負の数)
- 図形のまわりの長さの計算方法を文字式で表そう!
- (1年/数と式/文字と式)
- マッチ棒の本数の求め方を伝え合おう!
- (1年/数と式/文字と式)
- 選んだ3つの数字が解となる方程式を考えよう!
- (1年/数と式/方程式)
- 表の比較を通して,変化の様子を読み取ろう!
- (1年/関数/比例と反比例)
- 宝の場所を見つけよう!
- (1年/図形/平面図形)
- おうぎ形の面積の求め方を考えよう!
- (1年/図形/平面図形)
- 正多面体はいくつあるのだろう?
- (1年/図形/空間図形)
- 「つかみ取りゲーム」を企画しよう!
- (1年/資料の活用/資料の分析と活用)
- 「誕生日当て」の仕組みを探ろう!
- (2年/数と式/式の計算)
- いろいろな課題解決のよさを理解しよう!
- (2年/数と式/連立方程式)
- 2つの直線の交点の場所を見つけよう!
- (2年/関数/1次関数)
- 直角三角形に潜む正方形の秘密を探ろう!
- (2年/関数/1次関数)
- 図形の性質を,筋道立てて論理的に説明しよう!
- (2年/図形/平行と合同)
- 畑の境界線を引き直そう!
- (2年/図形/三角形と四角形)
- 特殊さいころの和と確率について考えよう!
- (2年/資料の活用/確率)
- 取り出した球の色はどうなる?
- (2年/資料の活用/確率)
- 式をできるだけ速く展開しよう!
- (3年/数と式/多項式)
- 面積が2cm2の正方形の1辺は何cm?
- (3年/数と式/平方根)
- ぴったり√5cmの長さの線分をかこう!
- (3年/数と式/平方根)
- 2次方程式の解き方をまとめよう!
- (3年/数と式/2次方程式)
- 豆腐の容器をデザインしよう!
- (3年/関数/関数y=ax2)
- 相似を利用していろいろな方法で証明してみよう!
- (3年/図形/相似な図形)
- 辺の比を求めるためのポイントを考えよう!
- (3年/図形/相似な図形)
- 条件に合う角度を見つけ出そう!
- (3年/図形/円)
- 面積が3cm2,6cm2,7cm2の正方形はかけるかな?
- (3年/図形/三平方の定理)
- 学校で購入する古語辞典を選ぼう!
- (3年/資料の活用/標本調査)
- 第3章 アクティブ・ラーニングを位置づけた中学校数学科の授業の評価
- 1 アクティブ・ラーニングにおける評価のポイント
- 2 アクティブ・ラーニングにおける評価の具体例
はじめに
私は,教育は,子どもたち一人ひとりの幸せを願って,大人が子どもたちに,生きるうえで大切な何かを授けていく仕事だと思います。この考えに基づき,私は,これまで,子どもたちを幸せにするためには,「考える力」を育てる必要があることを強調してきました。どんなに裕福で,満ち足りた生活を過ごしても,心が不幸な人は大勢います。私たちが子どもたちの幸せを祈るならば,いかに物質的な援助をするかではなく,子ども自身が自分の人生をいかに受け止めることができるのかという考える力を育てなければならないはずです。奈良の高僧から授かった「受け止める心が決める幸不幸」のことばの通り,私は,子どもたち一人ひとりに自分の人生を肯定的に受け止めることのできる心,すなわち,考える力を授けたいと思います。そして,私がこの本の編著者を引き受けた最大の理由は,アクティブ・ラーニングという教育運動を教育の思想へと高めていく第一歩を読者のみなさんと共有したいと思ったからです。アクティブ・ラーニングという新しい教育思想で私たちが子どもたちに伝えたい思いは,「まわりの人を幸せにしないと,幸せになれないよ」ということだと思います。そこに「協働」という思想の本質があると私は考えています。
本書はこんな私の教育観に賛同してくれた,たくさんの先生方の協力を得てつくられました。こんな本をつくりたいという思いと,私もぜひその仕事に加えてほしいという思いが結実し,まさに「協働」の名にふさわしい素敵な本ができました。
第1章では,編著者である私が,第1項で「アクティブ・ラーニングとは何か」という基本的な問いに,「アクティブ・ラーニングはアクティブなラーニングではない」こと,「静まりかえった教室にもアクティブ・ラーニングは存在するという価値観を私たち教員一人ひとりが持つ必要がある」こと,そして,「アクティブにしたいのは生徒一人ひとりの学びたいという心と思考である」ことを示しました。アクティブ・ラーニングという教育思想が優れている点は,問題に立ち向かう気持ちと方法をセットで要求している点です。これまで理解や認知に傾き過ぎてきた数学教育に,情意と認知を融合させた新たな学習方法を提起している点がアクティブ・ラーニングのよさだと思います。そして第2項では,「中学校数学科におけるアクティブ・ラーニングの位置づけ」として,これまでの協同学習から協働学習への転換の必要性について述べました。第2章で展開される授業実践の具体的な提案に先駆け,ここでは,教師の問いの重要性について,「あなたの発問は生徒たちの学びたいという心と思考をアクティブにしているか」という問いとして,読者のみなさんに問いかけることにしました。協同学習から協働学習への転換には,「ともに学びたいという学級集団の意志を実現する」必要があります。そして本書では,「生徒たちのともに学びたいという飢えた心に火をつける」ための1つの方策として,「下手な方法で問題を解く活動を大切にする」ことを提唱しました。自分のもっている知識や経験のみを使って,下手な方法でもよいからまずは自力で問題を解決してみるという学習態度を育成することによって,生徒たちの心に,小さな自信と,もっと上手な方法を知りたいという意欲を喚起できると考えました。
第2章では,第1章で示した私の考えに賛同してくれた,授業実践者の先生方が全国より集まって原稿を執筆してくれました。本書1冊の中に中学校数学科の全単元が網羅され,今まさに先生方が取り組んでいる授業の様子を読者のみなさんに紹介することができました。1時間の授業のために,授業をどのように計画準備し,実際の授業場面では,生徒たちとのコミュニケーションをいかに深化させていけばよいのかという工夫が,具体的事例の中で語られています。教師の問い,それを受け止める生徒たちの学習態度,間を取らせて考えさせ,生徒の発言を上手に授業に活かしていく姿が,臨場感豊かに紙面の中で語られています。そしてさらには,個別の原稿が編集企画者の矢口さんの手腕によって,見事につながり,3年間の個別の授業が1つのストーリーの中でうまく連鎖しています。
第3章では,アクティブ・ラーニングにおける評価のポイントと評価の具体例について解説しました。評価のポイントで注意して欲しい点は,新しいアクティブ・ラーニングという教育思想を豊かなものに育て上げていくためにも,私たち教員が,お互いの授業をいかに評価すればよいのか,そして,生徒たちの数学的活動をいかに評価すればよいのかという視点が必要だということです。私たちは,一人ひとり弱い人間ですから,他者からの評価によって,自分の思想や行動に影響を受けやすいものです。教員集団が,例えば,校内研修で参観した授業の何を評価するかによって,その学校の授業の向かうべき姿が異なってくると思います。褒められた所は育ち,批判された所はうまく育ちません。古い教育観にとらわれて,これまでと同様の評価をしていては,新しい教育思想としてのアクティブ・ラーニングは,いつの間にか,また別の教育思想に取り換えられるだけの存在になってしまうでしょう。最初から理想通りにはいきません。でも,こんな所を伸ばしたいと思うなら,第3章で提案された新しい評価方法と向き合って,ゆっくりとアクティブ・ラーニングという教育思想を,私たちと一緒に育ててみようではありませんか。
アクティブ・ラーニングという教育思想が実現させようとしている学級集団の姿は,「学びたい」という個々人の意志を学級全体の「ともに学びたい」という集団の意志に育て上げ,その意志を自ら実現しようとするたくましい共同体の姿です。
そんな理想めいたことができるわけないと思わないで,未来を信じて理想を語りましょう。そして,その理想をなんとか私たちの手で実現しましょう。こうした一人ひとりの思いと力が結実することで,「協働」という大きな仕事ができ上がると,私たちは信じています。
2016年6月 /江森 英世
久しぶりに素敵な本に出会いました。
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