- 発刊に寄せて
- はじめに
- 1章 なぜ,今,フィードバックか
- 1 フィードバックから始まる教育の物語
- 2 なぜ私たちはフィードバックに無関心になってしまったのか?
- 3 フィードバックを研究する意味
- 4 教育活動の新たな地平へ:フィードバックを軸にした教育
- 2章 「リーダーの仮面」を外す勇気と覚悟
- 1 これから先の時代,学級経営はなくなるのか
- 2 子どもたちの「今ここ」を大切にする学級経営
- 3 教科担任制から見える罠
- 4 学校現場が陥りがちの「PDPDサイクル」
- 5 指導力のある教師は「変幻自在のカメレオン」
- 6 効果的な指導力をもつ教師の正体
- 引用・参考文献
- 3章 フィードバックで教育的効果の最大化!
- 1 知って得する,フィードバックの効果
- 2 言葉は教室に吹く風〜半径1mからの教育改革〜
- 3 フィードバックはタイミングが8割!
- 4 「SBIモデル」でフィードバックの解像度を上げる
- 5 「フィードバック」と「賞賛」は相容れないものである
- 6 フィードバックの担い手を子どもたちに委任する
- 7 ミクロ的な視点と,マクロ的な視点のフィードバック
- 引用・参考文献
- 4章 クラスを勇気づける教師のフィードバック年間戦略
- 1 【4月】自立度20%を目指して,学級物語を紡ぎ始める
- 1 「黄金の3日間」に安心感を育むフィードバック
- 2 子ども同士の自己紹介をフィードバックする
- 3 アクティビティに向かう姿をフィードバックする
- 4 「言葉がもつ力」を確認し,「言葉を大切にする姿」をフィードバックする
- 5 「話し方・聞き方のルール」を確立し,フィードバックする
- 6 授業開きでフィードバックする
- 7 学級システムをフィードバックする〜係活動&当番活動〜
- 8 休み時間の姿をフィードバックする
- 9 学級通信でフィードバックする
- 10 学級目標を利用してフィードバックする
- 2 【5月〜7月】自立度60%を目指して,人間関係を耕し広げる学級経営
- 1 ゴールデンウイーク明けはセカンド学級開きと心得よ
- 2 授業中につながった瞬間をトリミングしてフィードバックしよう
- 3 運動会に向かう姿をフィードバックする
- 4 6月までの成長をフィードバックして,これからの姿を見据える
- 5 友人トラブルから学ぶ姿をフィードバックする
- 6 学級システムをピア・フィードバックする〜係活動&当番活動〜
- 7 活動に対して消極的な子へのフィードバック
- 8 夏休みの前日は通知表をもとにフィードバックする
- 3 9月〜12月 自立度80%の学級経営を目指して,教師は委任型リーダーシップを発揮する
- 1 「お休みモード」から「学校モード」への変換をフィードバック
- 2 夏休みまでの成長をフィードバックする〜ビーイング〜
- 3 合意形成に向かう姿をフィードバックする
- 4 子どもたちに任せたことをフィードバックしよう
- 5 「先生はもういらない」と声のあがる授業を試しにやってみる
- 6 ピア・フィードバックを教科場面でも取り入れてみる
- 7 お楽しみ会を任せて教師はフィードバックし続ける
- 8 「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」の教室デザイン
- 4 1月〜3月 自立度90%を目指し,学級の物語を最高のエンディングで締めくくる
- 1 「脱・担任の先生化」を実現するフィードバックを意識しよう
- 2 係活動&当番活動をなくしてみる
- 3 給食当番&掃除当番の役割分担表から卒業する
- 4 カウントダウンカレンダーを利用してピア・フィードバックを促す
- 5 認め合い活動における成功の極意
- 6 1年かけて完成された掲示物を外しながらフィードバックする
- 7 「最後の学級活動」を託し,教師は1年間をフィードバックする
- 5 4月〜3月 1年間を見通したフィードバック年間戦略
- 1 指示力のある教師は,フィードバックという仮面をつけかえる
- 引用・参考文献
- 5章 尊敬と信頼でつながる勇気づけの学級づくり
- 1 言葉の力は尊敬と信頼の度合いに比例する
- 2 子どもたちに親しまれる「教師像」
- 3 ユーモアを手段に親しまれる教師を目指す
- 4 「1on1」で信頼関係を築く
- 5 「言葉」だけでなく「メッセージ」を介してフィードバックする
- 6 笑顔でポジティブな関わりこそが最大のフィードバック
- 引用・参考文献
- おわりに
発刊に寄せて
私が若い教師だった頃,あるベテランの先生が発した言葉が,今でも鮮明に心に残っています。「今の先生たちは,子どもたちに教えてはいるが,育ててはいない」。当時は,その言葉の真意を完全に理解することはできませんでしたが,教職を続ける中で,その言葉が年々,重みを増していくのを感じていました。
日々の多忙な業務,そして次々と増えるカリキュラム。教師たちは,与えられた知識や技能を子どもたちに伝えることに精一杯で,子どもたち一人一人の心の奥にある成長の芽に,十分な注意を払うことができていないのではないか,そんな焦燥感を抱えながら,私は今の学校教育を眺めつつ,自分自身も教壇に立ち続けていました。
では,子どもたちの「育ち」は,教師のいかなる行為によってもたらされるのか? この問いに対する答えを,私はずっと探し求めていました。授業の進め方や発問の工夫,学級のルールづくりなど,様々な方法を試みましたが,何か本質的なものが欠けているような気がしてなりませんでした。
そんな模索の日々を送る中で,ジョン・ハッティの著書『教育の効果』(山森光陽監訳,2018,図書文化)に出会いました。世界中の膨大な教育研究を「メタ分析」という手法で統合し,学力に影響を与えるあらゆる要因を数値化したこの本は,私の教育観を根底から覆すものでした。ハッティの研究は,教師のもつスキルからカリキュラム,学級規模といったシステムまで様々な要因を比較検討し,「教師からのフィードバック」が,学力向上に極めて高い教育効果をもつことを明確に示していました。
ハッティの言葉は,私が長年抱えていた問いへの答えを照らしてくれました。「教える」ことは,単なる知識の伝達ではない。「育てる」ことは,子どもの心の奥底に触れ,成長の方向性を示すことなのだと。そして,その本質的な行為こそが「フィードバック」に他ならないと,私は確信するに至りました。
フィードバックの教育効果は,学習指導に留まりません。ソーシャルスキルトレーニングや行動変容を促す心理学の分野でも,その強力な影響力は広く認められています。例えば,子どもが友人と協力して課題に取り組む中で,うまくコミュニケーションがとれなかったとき。そこで教師が「〇〇さんが自分の意見をはっきり言えたのは素晴らしいね。もし,その後に△△さんの話を聞く時間を少し設けていたら,もっと早く解決できたかもしれないよ」と具体的にフィードバックすることで,子どもは次の行動を自ら調整できるようになるでしょう。人を育てるという先の見えない営みにおいて,フィードバックは,まさに羅針盤のような役割を果たすのです。
このフィードバックの力を,私はある若手教師の支援を通して,改めて強く実感することになりました。
かつて私は,学級経営に深く悩む1人の若手教師のクラスを,もう1人の著者,水流卓哉氏と共に支援する機会がありました。そのクラスは,子どもたちの関係性がうまくいかず,授業もなかなか落ち着かない状況でした。私たちは,授業のやり方,ルールの見直し,保護者との連携など,様々な手立ての候補を検討しました。しかし,どれも根本的な解決への見通しが立たず,何より,疲弊しきった若手教師が明日からすぐに取り組めるような簡単なものではありませんでした。
そんなとき,水流氏と私は,若手教師の普段の子どもたちへの「声かけ」に着目しました。それは,発問や指示は的確であるものの,子どもたちの行動や努力に対する具体的なフィードバックがほとんどない状態でした。「もっと大きな声で」「座りなさい」といった,行動をコントロールするための指示的な言葉は多かったものの,「なぜ大きな声で発表できたのか」「座って話を聞いている姿勢が素晴らしいね」といった,子どもたちの行動を肯定し,その価値を伝える言葉が圧倒的に不足していたのです。
私たちは,若手教師と共に,まずこの「フィードバックの改善」に集中して取り組むことを決めました。そして,水流氏は,サポートチームと共に,献身的に若手教師を支援しました。授業中は子どもの良い行動を見つけてすかさず言葉にする練習を重ね,日々の振り返りでは「今日のフィードバックは,子どもたちのどんな姿を引き出したか?」を話し合いました。
すると,わずか数か月で,クラスは驚くほど落ち着きを取り戻しました。教師のフィードバックによって,子どもたちは「自分は先生にしっかり見られている」という安心感を抱き,自己肯定感を高めていきました。また,教師が子どもたちの良い行動を具体的に言葉にすることで,クラス全体に「こんな行動が素晴らしい」という共通の価値観が生まれ,自律的な行動が増えていったのです。
この経験は,私たちに大きな気づきを与えてくれました。教育の最も本質的な力は,派手な手立てや完璧な授業構成ではなく,教師が日々の小さな瞬間に子どもたちに与えるフィードバックにこそ宿っているのだと。
本書では,第1章で,フィードバックに注目する意味を説き,第2章で,教師の指導力を高めるポイントを,フィードバックを拠点にして示し,第3章で,フィードバックの種類やその効果について,第4章以降では,学力向上や集団づくりに役立つ具体的な実践手法について,さらに詳しく掘り下げていきます。本書教師の皆様が日々の教育実践において,子どもたちとの間に確かな「学びの循環」を生み出すための一助となることを願っています。
/赤坂 真二
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明治図書

















