- はじめに
- 第1章 真の問題解決能力を育てる算数授業とは?
- 1 真の問題解決能力を育てるために
- 2 子どもは実社会の問題を解決できる?
- 1 「体力測定」の問題
- 2 「スポーツ飲料」の問題
- 3 「走り幅跳び」の問題
- 3 「意思決定」の場面を授業に位置づけよう!
- 第2章 真の問題解決能力を育てる授業のデザイン
- 1 授業デザインのためのフレームワーク
- 2 授業デザインの視点
- 1 授業デザインの2つのポイントと5つの原則
- 2 デザインする視点と説明モデルの変化
- 3 実際の授業デザイン
- 3 教材づくりの視点
- 1 友達と話し合って解決したくなる「問題状況」を設定する
- 2 「合意形成」が適度に難しい問題を用いる
- 3 育てたい「プロセス能力」を明確にする
- 4 多様な「選択肢」が生まれるようにする
- 5 「数学的−社会的価値」を実感させる
- 4 評価の視点
- 第3章 教師の発問から子どもの反応まで詳しくわかる!真の問題解決能力を育てる授業プラン
- 対象学年 2年〜
- “みんなが楽しめる”お楽しみ会のプログラムをつくろう!
- 学年末に
- 対象学年 3年〜
- みんなが納得するさつまいもの分け方を考えよう!
- 「わり算」「あまりのあるわり算」の学習後
- 対象学年 4年〜
- 3年生の担任に伝統工芸展への行き方をアドバイスしよう!
- 遠足や社会科見学の前
- 対象学年 5年〜
- 幅跳びの代表選手を決めよう!
- 「平均」の学習後
- クラスのみんなが納得する運動会の赤白分けを考えよう!
- 運動会の前
- 学童農園の畑にどのじゃがいもを植えたらよいかな?
- じゃがいもの種芋を購入するころ
- 栄養士さんに提案するリクエスト給食の献立を考えよう!
- 家庭科「栄養を考えた食事」の学習後
- どのイルカウォッチングツアーに行くかを決めよう!
- 「割合」の学習後
- 対象学年 6年
- プロ野球応援アイスクリーム屋さんを開くにはどうしたらよいかな?
- 4月中旬ごろ
- 全員安全に避難するにはどこに津波避難タワーを建てたらよいかな?
- 校内避難訓練の後,「速さ」の学習後
- 全校投票で選ばれるように親しみやすいキャラクターをつくろう!
- 柱状グラフ(ヒストグラム)の学習中・後
- 第4章 これから求められる「資質・能力」の育成に向けて
- グローバル化と問題解決能力の育成
- Depaul University /高橋 昭彦
- 意思決定:その定式化の課題
- 独立行政法人統計センター /椿 広計
- 教科横断的な視座から見た課題
- 国立教育政策研究所 /松原 憲治
- 汎用的能力の視座から
- 国立教育政策研究所 /後藤 顕一
はじめに
「子供たちが,身近な地域を含めた社会とのつながりの中で学び,自らの人生や社会をよりよく変えていくことができるという実感を持つ」(中央教育審議会,2015)ことが求められています。
このことに異を唱える教師はいないでしょう。その一方で,日々の多忙さや目先の評価に追われ,ついつい大きな展望をもつことを忘れてしまいがちです。近年,その傾向がいっそう強まっているように感じるのは,私たちだけではないはずです。
社会は急速に変化し続けており,「自らの人生や社会をよりよく変えていく」ためには,これまで大切にされてきた以上の能力が必要になることは明らかです。例えば,情報があふれる社会において,数理を用いた意思決定のプロセスに参画したり,批判的に検討したりできない人は,他者の示した結論に一方的にしたがうか,ただ異を唱えるだけしかできなくなってしまいます。
このような話をすると,「これまでだってそうだった」「算数・数学の基礎・基本を身につけるのが先」と言う方がいますが,本当にそれでいいでしょうか。
確かに,高校までの学びを基盤に,大学や職場での教育を通してこのような能力を身につけている人がいる一方で,学校数学の学びが算数・数学の世界内にとどまったものになり,実社会で活用できないまま「剥落」している人も少なくないのが現状ではないでしょうか。
子どもの努力はもちろん,私たち教師の努力も,彼らの将来の人生において実を結ぶようにしたいものです。このような想いを込めて,本書のタイトルを「真の問題解決能力を育てる」としました。
そして,私たちは,「真の問題解決能力」として,算数・数学の内容や考え方を基盤に判断や意思決定をする力,すなわち,「数理科学的意思決定能力」に焦点を当て,算数・数学の「実用性」ではなく,むしろ「人間形成」や,その先にある「社会形成」「文化創造」の視点から,検討を重ねてきました。この点に,本書の提案が従来の算数・数学科の「枠」を越えたものになっている背景があります。
本書で「真の問題解決能力」として焦点を当てた「数理科学的意思決定能力」は,長期的に育成を図っていく必要があります。それには,学年や学校種によって代わる教師が,互いの実践をつないでいく必要があります。その意味では,本書を参考に,読者のみなさんが新たな実践をされ,それを共有していくことでこそ,私たちのめざす教育が実現すると言えます。本書の中学校編の授業プランもご覧いただき,個から学校全体へ,小学校から中学校へ,中学校から高校へと,実践の輪が広がっていくことを願っています。
なお,本書は,平成25年4月から3年間にわたる,日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(B)『数理的意思決定力の育成に関するホリスティック・アプローチ研究』の研究成果をまとめたものです。この研究には,本書の執筆者以外に以下のものが参画しています。
厚美香織(神奈川県立小田原高等学校),新井健使(東京学芸大学附属国際中等教育学校),上田大悟(東京都あきる野市立増戸中学校),上野耕史(国立教育政策研究所),小澤真尚(筑波大学附属中学校),後藤貴裕(東京学芸大学附属国際中等教育学校),櫻井順矢(山梨県教育庁義務教育課),島田功(日本体育大学),鈴木和幸(電気通信大学大学院),田中紀子(愛知県立豊田西高等学校),中逸空(青稜中学校・高等学校),長崎栄三(国立教育政策研究所名誉所員),成田慎之介(東京学芸大学附属国際中等教育学校),浜田兼造(埼玉県さいたま市立大宮南中学校),本田千春(東京学芸大学附属国際中等教育学校),茂木悟(宮城県仙台第三高等学校),吉成優希(鎌倉女学院中学校・高等学校)
平成28年7月 /西村 圭一
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- 明治図書