- まえがき
- 第1章 「インクルーシブ教育」知っておきたい基礎基本Q&A
- Q1 インクルーシブ教育システムって何?
- Q2 特別な教育的ニーズって何?
- Q3 合理的配慮って何?
- Q4 「障害」をどのように理解したらいいの?
- Q5 子ども理解のために必要な考え方は?
- コラム 「インクルーシブ教育」への思い
- 第2章 支援の具体が丸わかり!「特別な教育的ニーズ」をもつ子どもの対応事例
- 1 障害 こんな子どもにどう対応する?
- File1 自閉スペクトラム症(ASD)
- File2 注意欠如・多動症(AD/HD)
- File3 発達障害が疑われる子ども
- File4 チック症
- File5 てんかん
- File6 性的違和(性同一性障害)
- 2 心に関係する病気 こんな子どもにどう対応する?
- File7 摂食障害
- File8 自傷行為(リストカット)
- File9 選択性緘黙
- File10 子どものうつ病
- File11 気管支喘息(心因性の喘息)
- 3 不登校 こんな子どもにどう対応する?
- File12 不登校
- File13 発達障害のある子どもの不登校
- File14 ネグレクト状態にある子どもの不登校
- 4 貧困 こんな子どもにどう対応する?
- File15 子どもの貧困
- File16 障害のある子どもの貧困
- File17 ひとり親家庭の子どもの貧困
- 5 児童虐待 こんな子どもにどう対応する?
- File18 身体的虐待
- File19 ネグレクト
- File20 障害のある子どもの虐待
- File21 心理的虐待(面前DV)
- File22 反抗挑戦性障害の子ども
- 6 社会的養護 こんな子どもにどう対応する?
- File23 児童養護施設に在園する子ども
- File24 児童養護施設退所後の子ども
- File25 一時保護所で生活する子ども
- 7 家族問題 こんな子どもにどう対応する?
- File26 ヤングケアラー
- File27 障害児のきょうだい
- File28 自閉スペクトラム症の保護者
- File29 父母の離婚
- コラム あんぱんまん
- 第3章 支援力アップのための「連携・協働」のポイント
- 1 保育所・幼稚園との連携・協働
- 2 学齢期の「横」の連携・協働
- 3 校内支援体制の構築とSC・SSWとの連携・協働
- 4 高校との連携・協働
- 5 保護者との連携・協働
- 参考文献
- あとがき
まえがき
今日,障害者権利条約を批准した日本は,「インクルーシブ教育システム」の推進に取り組んでいます。インクルーシブ教育システムとは,すべての子どもたちにもれなく豊かな学びを保障し,ソーシャル・インクルージョン(排除のない社会)を目指す取り組みです。
インクルーシブ(インクルージョン)を日本語に訳すと,「包摂」や「包容」となります。学校がすべての子どもを包摂・包容するコミュニティとなるためには,その対極にある教育・学校における「排除」の実態を冷静に見つめなければなりません。また,現に「排除されている子ども」のみならず,「排除される可能性のある子ども」をも視野に入れ,彼らがもつ「特別な教育的ニーズ」を明らかにし,それに丁寧に応えていかなければなりません。つまり,インクルーシブ教育システムの推進は,通常学級を含めたすべての教育現場で排除をなくすために取り組む「教育改革」と言い換えることができます。
この取り組みは,障害者権利条約の批准を発端にしていますが,対象を「障害児」に限定せず,本書で取り上げたような病気,不登校,貧困,虐待,社会的養護,家族問題等といった多様な「特別な教育的ニーズ」をもつ子どもたちを視野に入れる必要があります。このような多様なニーズをもつ子どもたちに豊かな学びと居場所を保障する教育・学校でなければ,障害のある子どもが包摂・包容されないのは明らかです。
本書は,そのような問題意識に立ち,タイトルを『学級担任・特別支援教育コーディネーターのための「特別な教育的ニーズ」をもつ子どもの支援ガイド』としました。現に学校では,子どもの貧困や虐待等の事例に取り組んでいますが,それらをあらためて「特別な教育的ニーズ」と捉え直し,インクルーシブ教育システムの中に位置づけたいと意図したものです。
本書の構成は,第1章は,「『インクルーシブ教育』知っておきたい基礎基本Q&A」とし,特にインクルーシブ教育システムを進めていく上で必要となる「合理的配慮」「障害の定義」「子ども理解」等について5つの観点から解説しました。第2章は,「『特別な教育的ニーズ』をもつ子どもの対応事例」とし,障害,病気,不登校,貧困,虐待,社会的養護,家族問題にかかわる項目を立て,支援にあたっての基本的な観点と対応事例を紹介しました。本書に掲載した対応事例は,それぞれの学校現場において応用し役立てることができると考えます。第3章は,「支援力アップのための『連携・協働』のポイント」としました。特別な教育的ニーズへの対応は,学校内の教職員のみで対応可能なものと,学校外の専門職と連携・協働しなければ問題の解決が図れないものがあります。本章では,特に後者に焦点をあてて,学校がおさえておくべきポイントを記しました。
文部科学省は,「学校現場をとりまく課題は複雑化・多様化している」とし,その対応として多様な専門性をもつスタッフを学校に配置して「チーム学校」の実現を図るとしています。一方,子どもの貧困対策においても学校を「プラットフォーム」と位置づけることが示されており,本書はそれらを具現化する際の参考にしていただけると思います。
多くの学校の先生や将来教師を目指す学生,さらには福祉・医療の側で学校と連携・協働を図る立場にある方々にも,本書を手に取っていただけることを願っています。
なお,本書中の事例については,プライバシーへの配慮から内容を再構成しています。また,使用した障害の診断名等は,DSM-5にもとづき記述しました。
2015年夏 著者
現場に入ってから改めて読んでみたいと思い、電子書籍で再購入しました。
本書の「事例→アドバイス」の構成が、現場としては非常にありがたいです。