- 監修のことば
- まえがき
- 第1章 「伝え合う力」を伸ばす国語の授業づくり
- 1 子どもの発達段階や特性に合わせた指導の展開
- 2 「伝え合う力」を伸ばす国語の授業づくり
- 第2章 「伝え合う力」を伸ばす国語の授業事例
- 1 聞く・話す
- (1) 小学部
- 1 「はらぺこあおむし」食べ物や帽子をわたそう
- 2 おもしろいお話のなかに入り登場人物になって表現しよう
- 3 パーティーをしよう
- 4 写真かるた
- 5 感情を表す言葉を使おう
- (2) 中学部
- 6 ぼく(わたし)の好きなもの
- 7 友達との会話を楽しもう
- 8 いろいろな言葉を聞こう,話そう
- 9 “持ってきたよ!”生活につながる国語指導
- (3) 高等部
- 10 文化祭(こうよう祭)で接客の練習をしよう
- 11 四字熟語や慣用表現を使って話そう
- 2 読む
- (1) 小学部
- 12 「ポケットぽん」を読んで,やりとりしよう
- 13 よんでみよう,かいてみよう
- 14 ことばをさがそう
- 15 でておいで! ことば
- 16 「読もう」「書こう」という気持ちを育てるために
- 17 子ども同士のかかわりを重視した読みの学習から発展する劇遊び
- (2) 中学部
- 18 折り紙でつくろう
- 19 読むことは見ること
- (3) 高等部
- 20 辞書を使って調べよう
- 3 書く
- (1) 小学部
- 21 からだで楽しく表現し,書く力を育てよう
- 22 書くって楽しい!
- 23 もじとあそぼう
- 24 ひらがなやすうじをかこう
- 25 絵に合った気持ちを書いてみよう
- (2) 中学部
- 26 感じたことを表現しよう
- 27 「文章を書く・読む」学習から文章問題へ
- 28 NGワードで視点を広げる
- (3) 高等部
- 29 書く内容を少しずつレベルアップ! 自閉症生徒
まえがき
私たちは,人と言葉を交わしたり,文字を読んだり書いたりしながら日々の生活を送っている。言葉や文字を理解し活用することで,相手の考えを知り,自分の思いを伝えることができる。また,本やインターネットなどを利用して,身近な出来事や最新の情報を知ったり,電話やファックス,電子メールなどを利用して,他者と情報交換が行えたりすることは,私たちの社会生活を円滑で豊かなものにしてくれる。このように,言葉や文字は私たちの生活に欠かすことのできない内容となっている。そして,このような言葉や文字を用いた意思交換能力は,広い意味での国語の指導によってはぐくまれると考えられている。
しかし,特別支援学校に在籍する児童生徒の中には,知的発達の遅れや偏り,種々の障害の特性や困難さなどから,言語発達面においても遅れや偏りが見受けられる。そのため,話し言葉をもたなかったり,自閉症のある児童生徒によく見られるように,言葉をもっていても,その理解や使用法が限られていたりする場合もある。同様に,認知発達の遅れや偏りなどから,文字の理解や使用に課題のある児童生徒も少なくない。
こうした「言葉」や「文字」の問題を含め,さまざまなニーズをもつ児童生徒が在籍する特別支援学校では,具体的な活動を通して,生活に結びついた実際的な内容を指導するために,特別な教育課程が編成されている。特別支援学校の教育課程は「各教科」「道徳」「特別活動」「外国語活動」「総合的な学習の時間」と「自立活動」によって編成されるが,「各教科」の目標と内容は,小・中学校とは異なり,児童生徒の知的発達や運動発達,生活経験,社会性,職業能力などの状態に応じて,学年別ではなく段階別(小学部3段階,中学部1段階,高等部2段階(ただし,高等部の主として専門学科において開設される教科は1段階))で示されている。このように段階別で示されているのは,例えば同じ学年であっても知的障害の状態や経験が異なることや,個人差が大きいことなどから,学年別よりも段階別で示す方が個々の児童生徒の実態に応じた内容が選択でき,指導を展開しやすいことなどからである。しかし,この段階別の指導内容は,順番に段階を追って指導するものではなく,個々の児童生徒の言語発達やその実態に応じて,内容を選択しながら指導することを意味している。
今回の特別支援学校学習指導要領の改訂では,「国語科」の目標や内容も改訂されているが,そのポイントは,目標においては「伝え合う力」が重視され,こうした力を養い,表現し,場面や状況に応じて適切に活用できる観点から改められている。また,内容においても「聞く・話す」「読む」「書く」の各観点について,個々の児童生徒の知的障害の状態を考慮して,より分かりやすく,具体的な指導内容が設定できるようにする観点から改められている。そして,これらの内容を基に,担当する児童生徒の実態に合わせて,日常生活に活用できる具体的な指導内容が設定されていく。
例えば,小学部1段階の児童であれば,知的な発達段階が極めて未分化な状態であることが想定されるため,紙芝居やビデオを教師と一緒に見て,楽しみながらいろいろな言葉を知ることや,文字を描く前段階の指導として,点と点を順番に結ぶ課題に取り組んでいくことなどが考えられる。また,小学部3段階の児童であれば,知的障害の程度が比較的軽いことが想定されるため,児童たちが主体的に取り組める内容を検討していくことが必要となる。例えば,児童が関心のある物語を読んだり,その感想を発表し合ったり,簡単な言葉や短い文章を平仮名で書くなどの内容が考えられる。そして,中学部・高等部段階では将来の社会生活や職業生活を視野に入れ,インターネットを利用したメールでのやりとりや宅配便の伝票の書き方など,実生活や将来の仕事に結びつくような内容を設定していくことが考えられる。
このように特別支援学校では,個々の児童生徒の発達段階や興味・関心などを考慮して,具体的な題材や内容が検討されていく。決められた教科書を使い,系統的に授業を進めていくことは極めて難しい。また,具体的な指導の指針となる指導書なども限られている。
そこで今回,特別支援学校新学習指導要領・授業アシスト1『「伝え合う力」を伸ばす国語』では,新学習指導要領の内容に沿って,個別の指導計画などを盛り込みながら,教育現場で活用できる授業事例を幅広くまとめることにした。実践的な内容でまとめているので,学校現場で国語に関連する授業を担当される先生方にとって,有益で役立つものとなるだろう。
本書は2つの章から構成されているが,第1章では児童生徒の発達段階や特性に合わせた指導を進める際の留意点と,今回の学習指導要領の改訂のポイントでもある「伝え合う力」を伸ばす国語の授業づくりについてまとめている。第2章では特別支援学校の先生方に,さまざまな「国語」の授業事例をまとめていただいた。特に,個別の指導計画に基づく指導と「伝え合う力」を育てるという視点を加味してまとめていただいている。各授業事例には,対象の児童生徒やグループが国語科の各段階(小学部3段階,中学部1段階,高等部2段階)のどこに位置するかを示してあるので,発達段階に応じた指導の参考にしてほしい。
また,内容の統一を図るため,原則として,@題材・内容のねらい,Aグループ(又は個人)の様子,B授業計画,CAさん(くん)の「個別の指導計画」,D授業の実際(展開など),E使用した教材・教具,FAさん(くん)の変化,指導の効果という順番でまとめている。どの事例も児童生徒の実態把握が的確に行われており,それに基づく「個別の指導計画」が作成され,授業や指導の流れがコンパクトに示されている。国語の指導に携わる現場の先生方にとって,大いに役立つ内容だと確信している。
最後に,本書の企画段階から,実務の担当を含め,ていねいで細かな配慮をいただいた明治図書出版編集部の佐藤智恵さんに,心より御礼を申し上げたい。
編者 /是枝 喜代治
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- 明治図書