- はじめに
- 第1章 「障害者差別解消法」とは?
- ここが知りたい!Q&A
- Q1 障害者差別解消法とはどのような法律ですか?
- Q2 障害者差別解消法によって教育がどう変わるのですか?
- Q3 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針とは何ですか?
- Q4 障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領,対応指針とは何ですか?
- 理解を深める!「超」解説
- 1 障害者権利条約と障害者差別解消法との関係
- (1)我が国における障害者権利条約の批准に至る経緯
- (2)障害者権利条約における差別禁止に関する規定
- 2 我が国の障害者基本法の改正と障害者差別解消法の関係
- 第2章 「障害のある子どもの不当な差別的取扱い」とは?
- ここが知りたい!Q&A
- Q5 学校における不当な差別的取扱いとはどのようなことですか?
- Q6 不当な差別的取扱いに当たらない特別な扱いがありますか?
- 理解を深める!「超」解説
- 1 インクルージョンは差別の禁止が前提
- 2 不当な差別的取扱いと差別のタイプ
- (1)直接差別
- (2)関連差別
- (3)間接差別
- (4)合理的配慮の不提供
- 3 障害のある子どもの不当な差別的取扱いと就学
- (1)特別支援学級,特別支援学校の在籍率の急増
- (2)就学決定の制度改革
- (3)国連の委員会への報告
- 第3章 学校現場で行う「合理的配慮」
- ここが知りたい!Q&A
- Q7 障害者差別解消法が言う合理的配慮とはどのようなものですか?
- Q8 申し出(意思表明)がなければ合理的配慮を提供しなくてよいのですか?
- Q9 合理的配慮の内容にはどのようなものがありますか?
- Q10 過重な負担とはどのようなことですか?
- Q11 合理的配慮を決定する上で,本人・保護者と合意形成が必要ですか?
- 理解を深める!「超」解説
- 1 我が国の教育における合理的配慮検討の経緯と誤解,混乱
- (1)我が国の教育における合理的配慮の検討の経緯
- (2)初中分科会報告が結果的に招いた教育現場の誤解と混乱
- (3)当事者権利の確保の必要
- (4)初中分科会報告における合理的配慮の観点の矛盾
- 2 新学習指導要領と合理的配慮
- (1)合理的配慮と自立活動とのかかわり
- 3 教育における合理的配慮の考え方の確立に向けて
- (1)教育における合理的配慮提供の対象者
- (2)合理的配慮の概念を当てはめる教育の場
- (3)合理的配慮と社会モデル
- (4)障害のある子どもの平等の確保
- (5)合理的配慮と環境の整備との関係
- (6)相談体制の充実と共感的・受容的・応答的な環境づくり
- (7)本人・保護者のアセスメント参加,当事者主体のアセスメント
- (8)合理的配慮決定のプロセス
- (9)個別の教育支援計画,個別の指導計画の記述例
- (10)合理的配慮の適切性の評価
- (11)当事者権利の視点からの本人・保護者への啓発
- 4 教育における合理的配慮の考え方確立への筆者のさらなる提言
- (1)障害者差別解消法に隠れた合理的配慮の考え方
- (2)雇用分野における合理的配慮の考え方
- (3)教育の実情に応じた合理的配慮の考え方確立に向けた筆者の提言
- 学校で行う合理的配慮の提供事例
- 事例1 肢体不自由のある中1男子への合理的配慮例
- 事例2 視覚障害のある小6女子への合理的配慮例
- 事例3 摂食障害のある中3女子への合理的配慮例
- コラム
- ・「障害者差別解消法」に学ぼう
- ・「不当な差別的取扱い」への意識を高めよう
- ・「合理的配慮」の在り方を追求していこう
- 資料
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
- 参考・引用文献
- おわりに
はじめに
障害を理由とする差別の問題は,障害者権利条約の様々な条項を貫く重要なキーワードであり,インクルーシブ教育推進に深くかかわる問題です。
ところで,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」)」(平成25年6月26日)が公布され,2年あまりの周知期間を経て,平成28年4月1日に施行となりました。同法においては,第七条及び八条に障害を理由とする差別の禁止について,「不当な差別的取扱いの禁止」(第一項)と「合理的配慮提供義務」(第二項)を規定し,我が国の日常生活及び社会生活全般にかかわる様々な分野における取組を定めています。これらの規定は,障害者差別解消法の中心的な規定です。教育においても,両規定に従って取組がなされます。平成30年3月に公示された特別支援学校新学習指導要領解説自立活動編(以下「解説自立活動編」)においては,障害者差別解消法の差別の禁止に関する規定が紹介され,同規定の下で取組がなされるべきことが示されました。
しかし,解説自立活動編における障害者差別解消法の記述において,障害のある子どもの不当な差別的取扱いに関する説明は全くなされていません。これまでのインクルーシブ教育推進に関する議論においても,障害のある子どもの不当な差別的取扱いに関する議論は深まっておらず,多くの教師は,障害のある子どもの不当な差別的取扱いに対する認識の不足が続きます。障害のある子どもの不当な差別的取扱いは違法であり,その認識を欠いた教師の教育的対応やふるまいは,障害のある子どもの人権を著しく侵害します。教師は教育における不当な差別的取扱いの禁止事項について,早急に理解を深めなければなりません。
教育における合理的配慮の考え方については,文部科学省中央審議会初等中等教育分科会による「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(平成24年7月23日)(以下「初中分科会報告」)の中で示されてきました。同報告においては,子どもの障害の状態や教育的ニーズに応じて個々に必要な合理的配慮を見い出し,提供するとしていました。しかし,初中分科会報告が出された後に公布された障害者差別解消法においては,合理的配慮は「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において」と当事者の申し出(意思表明)を契機として提供するものと定めています。障害者差別解消法により,国としての合理的配慮の考え方が示されたわけですが,教育現場では初中分科会報告の合理的配慮の考え方と法の考え方との相違の中で疑問や混乱が続いてきました。その後,教育における合理的配慮の考え方についての審議を経て,解説自立活動編において差別解消法に基づく合理的配慮の規定を示すに至りましたが,解説では,法に基づく合理的配慮の具体的な考え方についての説明が不足したまま,学習指導の視点から自立活動の指導との関係を述べている状況です。教育における合理的配慮とは何かを明らかにした上で,自立活動の指導とのかかわりを考えるべきです。
障害者差別解消法施行に伴い,特に公立学校においては,法の言う合理的配慮の不提供は,障害のある子どもの不当な差別的取扱いと同様に違法となります。一人一人の教師は,法の言う合理的配慮について理解しなくてはなりません。
ただ,法や法に基づく取組を示した基本方針や対応要領等のガイドラインを読んでも,障害のある子どもの不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮提供義務についての具体的理解は,教師に届き難い現実があります。法や基本方針,対応要領等が,教育現場とかけ離れたところで一人歩きしています。多くの教師が法を振り返って理解し,障害のある子どもの教育を確かなものにしていく必要があります。
そこで本書においては,第1章で「障害者差別解消法とは何か」をテーマに,障害者差別解消法がどのような法律か説明するともに,障害者権利条約との関係や,法の理解が教育現場に深まらない理由について考えました。
また第2章においては,「障害のある子どもの不当な差別的取扱いとは何か」をテーマに,教育における不当な差別的取扱いの考え方や具体例を整理することにしました。
そして第3章においては,「学校現場での合理的配慮」をテーマとして,法の下での合理的配慮の考え方を明らかにし,その取組を学校現場で推進するための方策について述べることにしました。
障害者差別解消法施行後多くの時間が経過しても,法の趣旨の理解が広まらない教育の現状は憂うべきものです。本書を通し,多くの現場の教師が障害のある子どもの差別の問題に目を向けるとともに,合理的配慮の具体的な考え方について理解を深め,障害のある子どもの教育における権利利益を最大限に確保し,共に学ぶインクルーシブ教育推進に向けたよりよい取組が推進されるよう願います。
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