- はじめに
- 1 LD,ADHD,高機能自閉症児の特徴と支援の基本
- 1 特別支援教育の新しい流れ
- 特別支援教育に関する欧米との比較/ 盲・聾・養護学校のこれから/ 小・中学校のこれから/ 校内支援体制の整備,教員の専門性の向上など/ 特別支援教育コーディネーターの活用―英国・米国の例/ 学級経営・学級運営の視点で考える
- Column1 英国の「特別なニーズ教育」の支援のステージ
- 2 LDの子どもの特徴と支援の基本
- LDの子どもの特徴/ LDの子どもの支援のあり方
- 3 ADHDの子どもの特徴と支援の基本
- ADHDの子どもの特徴―基本症状/ 関連する障害(学習障害・行為障害)など―合併症状/ 基本的な支援のあり方
- 4 高機能自閉症の子どもの特徴と支援の基本
- 高機能自閉症の子どもの特徴/ 自閉症の支援のあり方
- Column2 自閉症に見られる動作模倣の困難さ
- 5 学級における配慮と個の尊重
- 2 楽しい環境を取り込んだ教育とコミュニケーション支援の新しい流れ
- 1 WHOの障害観の変化にみるコミュニケーションのとらえ方
- ノーマライゼーション,インクルージョンの理念の普及/ WHOの国際生活機能分類にみる障害のとらえ方の変化/ 障害概念の変化からとらえたコミュニケーション支援のあり方
- 2 コミュニケーションの考え方―ことばの前段階,ことば,社会適応
- MEPAUによる小林の要求理論―ことばの前段階として/ コミュニケーションを支える身体運動と言語認知の発達/ コミュニケーションとは…社会適応という側面での考え方
- 3 ムーブメント教育によるLD,ADHD,高機能自閉症児への支援
- ムーブメント教育とは/ ムーブメント教育の達成課題/ 楽しい遊びの動的環境による支援
- 4 LDの子どもの認知面・行動面への支援
- 前教科スキルの支援に向けて
- 5 ADHDの子どもの多動性や衝動性の支援
- ADHDの子どもの行動コントロールの支援に向けて
- 6 高機能自閉症の子どもの社会性の支援
- 高機能自閉症の子どもの他者との関係性の支援に向けて
- 7 コミュニケーション支援に活用できるアセスメント
- 子どもの全面発達の理解に役立つ評価/ MEPAのプロフィールパターンによる分析/ 粗大な協調運動の検査/ 教科・運動・行動を総合的にとらえる評価/ その他の心理検査
- Column3 BCTとCCSTの関係について
- 8 地域や家族を巻き込んだコミュニケーション支援
- 個別家族支援計画(IFSP)/ IFSPの構成内容/ 子どもの自然な学習機会
- 3 動的環境としてのコミュニケーション遊具の活用法
- 1 内言語やことばの発達に向けて
- フラフープの道をわたる/ ケンパ跳びの陣地取りゲーム/ 知覚学習パイプを利用して/ 遊具を組み合わせて/ 伸縮ロープを利用して/ ビーンズバックを使って/ ソフトフリスビーを利用して
- 2 行動コントロールの育成に向けて
- ムーブメントスカーフを使って/ 平均台やフラフープを利用して
- 3 社会適応力の育成に向けて
- ムーブメントロープを利用して/ ムーブメントリボンを利用して/ パラシュートを利用して
- 4 LD,ADHD,高機能自閉症児のコミュニケーション支援の実際
- 1 LD児の支援に向けて
- (1)LD児の社会的行動の育成に向けて事例1
- 2 ADHD児の支援に向けて
- (1)行動コントロールを意図したムーブメント教育による支援事例2
- 3 高機能自閉症児の支援に向けて
- (1)動的環境による身体意識・空間意識の育成事例3
- (2)情緒障害通級指導学級における社会的関係の支援事例4
- (3)感覚運動によるコミュニケーション支援事例5
- 事例解説1 軽度発達障害児のコミュニケーション支援
- 5 学校や地域,家庭における支援の実際
- 1 学校における工夫した支援の実際
- (1)小学校の交流教育の場における支援事例6
- (2)中学校の総合学習における支援事例7
- (3)小学校の保健室における支援事例8
- 2 地域のネットワークを生かした支援
- (1)「あつまれ! 土曜日」事例9
- (2)親子教室での実践を通して事例10
- 事例解説2 学校,地域,家庭におけるコミュニケーション支援
- 6 保護者からの発信
- ―教育に期待すること
- 1 子どもを生き生きさせてくれた土曜教室
- ―「えんじぇるは一つ」―
- 2 自己実現を支えてくれたムーブメントプログラム
- Column4 NPO法人 えじそんくらぶ
はじめに
デンマークのミケルセンによって提唱され,北欧を中心に発展してきた「ノーマライゼーション」の考えは,教育界においてメインストリーミングやインクルージョンの概念へと発展していった。こうした世界的な流れを受けて,21世紀に入り,我が国においても「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」や「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が相次いで発表され(文部科学省),「特別支援教育」の概念が広まりつつある。
また,世界保健機関(WHO)の出した国際生活機能分類(ICF)は,個人の障害を周囲の環境とのかかわりの中でとらえ,個人と環境との相互作用で「活動の制限」が緩和されたり,「参加の制約」が改善されていくという,プラスとマイナスの双方向で障害をとらえる形に変化している。この考えは,障害のある子の支援に携わる者にとって多くの示唆を与えてくれる考え方となっている。コミュニケーションのとらえ方も,これまでの言語指導を中心とする考え方から,発達段階に応じた伝え方の獲得,他者と楽しみを共有できるコミュニケーション指導へと変わりつつある。
本書では,「特別支援教育」の対象として新たに加えられたLDやADHD,高機能自閉症の子どもたちに共通してみられる,ことばの使用の問題,対人関係や社会性の問題を含めた「コミュニケーション」の問題について,各障害に応じた基本的な対応や,とりわけ集団活動を通したコミュニケーション支援のあり方について,神経心理学的アプローチとして位置づくムーブメント教育の立場から,事例を交えて解説を試みたものである。
第1章では,特別支援教育の新しい流れを概観し,LDやADHD,高機能自閉症の子どもの特徴や基本的な対応,支援の在り方についてまとめ,学級経営の視点からの配慮事項を盛り込んで解説した。第2章は,本書の中核を成すものであるが,「楽しい環境を取り込んだ教育とコミュニケーション支援の新しい流れ」と題し,ムーブメント教育による「楽しい遊びの動的環境」を利用したコミュニケーション支援のあり方について解説した。
本書では,コミュニケーションについて,@ことばの前段階のコミュニケーション,Aことばを介したコミュニケーション,B社会適応という側面でのコミュニケーション,という3つの段階でとらえ,乳幼児期の子どもの支援から学齢期の軽度発達障害の子どもの支援まで,さまざまな形で活用できる内容構成とした。また,第3章では,教育現場で役立つ動的環境としてのムーブメント遊具をいくつか取り上げ,コミュニケーション支援という観点から,具体的な活用方法について解説した。さらに,第4章,第5章では,通常の学級や特殊学級,知的障害養護学校,余暇支援等で,実際にLD,ADHD,高機能自閉症などの軽度発達障害の子どもの指導・支援に取り組んでいる先生方に,教育・療育的観点からのコミュニケーション支援に関する事例を,多方面から提供していただいた。そして,第6章では,子どもと苦楽を共にし,さまざまな思いで子育てを経験されてきたお母さん方に,保護者の立場からの話題提供をお願いした。
本書は,通常の学級の先生をはじめ,特殊学級や養護学校の先生方にも幅広く利用してもらえるように,できるだけ簡易な表現を用いて構成した。また,教科書や参考書としても利用可能なように,重要語句についてゴシック体で示し,理解が深まるように工夫した。本書と関連する「障害児教育の新領域・自立活動の計画と展開」シリーズ(第1〜4巻)と併用して活用してもらえると,より実践的・効果的な指導ができるものと確信する。
最後に,本書の出版にあたり多大なる励ましと助言をいただいた明治図書出版株式会社の三橋由美子さんをはじめ,編集・校正できめ細かな配慮をいただいた編集部の鈴木嗣子さんに心から御礼申し上げたい。
2005年8月 編者 /小林 芳文 /是枝 喜代治
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- 明治図書