- まえがき
- T 発達障害の子に対応した示範授業
- [1] 俳句「しずかさや 岩にしみ入る ?の声」〜立ち歩き,黒板の前に出てくる子〜
- [2] 「ずうっとずっとだいすきだよ(小学1年)」〜あちこちに注意がいき,反抗する子〜
- U FMラジオによる授業同時解説
- [1] 国語「読点のつけかた」〜5・6年生の授業としてどうなのか〜
- [2] 社会「夕日の力でまちづくり」〜一目でわかる工夫があるか〜
- [3] 算数「三角形づくり」〜言葉を削る〜
- [4] 英会話「What color?」〜ツーウェイのある授業〜
- V 反抗挑戦性障害の子どもがいる学級での指導
- [1] 実践報告
- (1) 「一番大変なクラスを持ってもらいますよ」
- (2) 許せない行動だけをしかる
- (3) みんなと一緒にできるようになった
- [2] 質問・指導
- (1) 許せない行動が増えたのではなく,指導できる内容が増えた
- (2) 反抗挑戦性障害という病気
- (3) ダブルスタンダードではない
- (4) ダブルスタンダードを作らなければいけないとき
- (5) 幼稚園からの引き継ぎ
- (6) 来年度の担任はだれがしたらよいか?
- (7) 校内体制を作ること
- W 何よりも大切なのは学級経営
- [1] 一番最初にやるべきことは…
- [2] 学級経営の実際
- [3] 学級開きに何をするのか?
- [4] 少しずつ,社会のルールを教える
- [5] バークレー博士が教える12の原則
- [6] 学習のポイントは「作業記憶」
- [7] どう指導すればよいか
- [8] 向山洋一氏の授業の原則十カ条
- [9] 遅れているLDの評価と学校教育
- X 学級経営Q&A
- Q1 障害を抱える子が複数いる場合は?
- Q2 自傷行為がある子どもへの対応は?
- Q3 減らしたい行動がある子どもへの対応は?
- Q4 カウントダウン法はよい方法か?
- Q5 障害児に合わせた指導法を知るには?
- Q6 通常学級に行かせるべきか?
まえがき
私が初めて学習障害がある子どもを診せていただいたのは平成2年である.その当時は,日本小児神経学会でも知的発達障害の「演題」は10に満たず,勉強できるところはあまりなかった.
私にとって幸いであったのは,第一線の児童精神科医であった白橋宏一郎先生(国立仙台病院名誉院長)から手ほどきを受けることができたことだ.白橋先生との出会いは特殊教育に携わっていた亡き父との縁である.白橋先生から親子二代にわたって教えを受けたことになる.
このようなことがあって,実家には私が特殊教育や学校教育を勉強するための書物がたくさんあった.このことが,「学習障害がある子どもにどう教えるか」こそ「治療」であると考え,担任の先生とともに試行錯誤をしていったきっかけになっている.
今にして思えば,これはただの勘違いである.発達障害の医学で最先端を行くアメリカでは,医師が教育にかかわることはほとんどない.しかし,このことこそが,診断名と治療との乖離という,発達障害の臨床を混乱させるもとになっていると私は考えている.
その好例が学習障害(LD)の分類である.ものさし派といわれる医学的分類では,学習障害は読み障害,書き障害,算数障害と分類される.この分類と治療的な対応とが全く対応しない.
読み障害ひとつとっても,空間認知障害による視覚的な入力の弱さがある子どももいれば,その後の言語解釈の問題を抱えた子どももいれば,最終的な「読む」という聴覚的な出力に問題を抱えている子どももいる.したがって,対処法はすべて異なっている.このような異なりを体験できたのは,私が医師でありながら治療としての「教育」に携わることができたからである.
学習障害の「治療」が教育の問題だと思わなかった「勘違い」が,医師でありながら教育書を著す変わり種を生んだともいえる.
* * * * *
本著作集はきわめて広範な範囲に言及している.発達障害という病気そのものの理解に始まり,患者自身の個別的な教育方法,個別的な対応方法,そして,通常学級という集団の中における教育方法や対応方法である.
これは,私が患児の担任の先生方とともに試行錯誤しながら指導方法を考えていった所産である.
何より思い出深いのは,当時,熱心な担任の先生ほど患児のために一生懸命授業をしてくださるし対応もしてくださったのに,患児がクラスでいじめられ,担任も疲れ果てることがしばしば起こったことだ.
今にしてみれば,私が集団のダイナミクスを知らず,担任の行動がえこひいきと間違われたのは明確なのだが当時はわからなかった.集団のダイナミクスの大切さを私に教えてくれたのは授業のうまい先生たちだ.私の考えを,うまく集団にとりいれてくださった.そのうまさを私が理解できるようになるのに10年かかっている.
子ども集団,それ自体にも指導力がある.そして,集団をうまく操る技術こそ発達障害がある子どもたちに学ぶ場所を与えるのだと気がついたとき,本当に光明がさした思いがした.
こうした思いをしてから,すでに7年が過ぎている.私自身も,子ども集団だけではなく,保護者や教師の方々のことを少しずつ教えてもらっている.
今年の4月から,私は山形大学の医学部看護学科に異動した.このことで,これまで病院で診てきた子どもたちと離れなくてすむように,保護者も,教師も,医師も,誰でも参加できる「にゃっき〜ず」という組織を作った.このなかで見えてきたことは,発達障害がある子どもに関係する人たちの一部分だけ(例えば,医師だけ,教師だけ……)が集まって何かをしていると,見えていないことがあるのだという単純なことだ.いろいろな視点があることで新たな発見もあり,新たな問題も生じる.
いろいろな問題が出てきても,子どもを教え育むという,子どもの代弁者たる自分でありたいと思いながら過ごしている.
本著作集は,講演のテープ起こしをまとめた講演集である.この意味で,この著作集の著者は,私と言うよりは,講演に参加してくださった方々であり,テープ起こしをしてくださり編集作業をしてくださった方々である.この場を借りて御礼申し上げたい.
そして,今回の著作集が子どもたちのために何らかの形で役立つことを心から願っている.
平成19年7月吉日 東京のホテルにて記す /横山 浩之
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- 明治図書