向山型算数教え方教室 2003年11月号
“苦手な文章問題”を克服するこの指導

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向山型算数教え方教室 2003年11月号“苦手な文章問題”を克服するこの指導

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ジャンル:
算数・数学
刊行:
2003年10月
対象:
小学校
仕様:
B5判 92頁
状態:
絶版
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目次

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特集 “苦手な文章題”を克服するこの指導
まず問題場面をイメージさせ,絵や図表を活用する
谷 和樹
1年生は挿絵・音読・書き込み・だんご図のサイクルで!
浅野 光
1文を2文にするパターンを覚えさせる
正木 恵子
答えがイメージできるように作業させよ
大関 貴之
ぐちゃぐちゃした図は隠してシンプルにする
星原 一宏
文章題で考える力を育てる
荒井 紀之
文章をイメージさせるために,挿絵を使う
鈴木 はるみ
ミニ特集 向山型「赤鉛筆指導」が生んだ感動のエピソード
赤ペンではなく,『赤鉛筆』だからこそ
寺田 真紀子
基準を示し『分からない子』を激変させる赤鉛筆指導!
白瀬 嗣大
逆効果だった我流の赤鉛筆指導からの学び
永山 祐
赤鉛筆で算数が苦手な子にも進歩あり
木田 庄継
赤鉛筆指導がA君のノートを変えた
小田 昌宏
赤鉛筆が彼を本当に変えた
八巻 修
グラビア
整理して,分かりやすくするのが教師の仕事である
村田 斎
向山型算数キーワード
文章題の教え方
木村 重夫
論文ランキング
8月号
木村 重夫
巻頭論文 算数授業へのこだわり
「百マス計算」は体験すると駄目なことが分かる
向山 洋一
学年別11月教材こう授業する
1年
「くり下がりのあるひき算」
廣野 毅
ひきざん
高橋 まゆみ
2年
かけ算
高橋 一行
かけ算
東田 昌樹
3年
かけ算の筆算(1)
廣川 徹
かけ算の筆算(1)
平松 孝治郎
4年
およその数で表そう
馬場 慶典
わり算の筆算(2)
□□□□□
5年
分数をくわしく調べよう
江口 儀彦
同じものに目をつけて
泉 範子
6年
変わり方を調べよう
石井 研也
変わり方を調べよう
鎌田 信美
向山型算数に挑戦/論文審査 (第48回)
「定義」「基本」にもっとこだわって考える
向山 洋一
向山型算数実力急増講座 (第50回)
1枚の絵を授業する出発点と順序には必然性がある
木村 重夫
向山型算数の原理原則と応用 (第50回)
向山実践の中に,解決策はあった
尾崎 文雄
向山型算数と出会ってTT授業・少人数授業が変わる (第19回)
何度も基本型を書き,声に出すことで計算ができるようになる
藤井 総一郎
向山型算数WEBサロン (第44回)
助走の先生問題を何度も何度も繰り返し,説明しない授業を実現する
赤石 賢司
中学校からの発信!「向山型数学」実践講座 (第44回)
シンプルに分解し一目で分かるように授業を組み立てる
井上 好文
「親と子の証言!」向山型算数は公文を超える! (第8回)
向山型算数に満ちている驚くべき現象の数々
松崎 力
『教え方大事典』を活用した算数授業体験
低学年/cm の定着は「伝言ゲーム」で
本井 訓
中学年/見取図を簡単に,美しく!
神山 仁
高学年/公式は,体験で理解させる
小室 由希江
中学/『逆転現象』がその後の授業態度を激変する!
伊藤 佳之
もう一つの向山型算数 難問良問1問選択システム (第50回)
低学年
東 光弘
中学年
喜屋武 仁
高学年
迫田 一弘
衝撃のライブ体験「向山洋一の介入模擬授業」を受けて
「そっくり写しなさい」のポイント
根本 直樹
「声が通らない」再三にわたる指導でもできない。分かるとできるは全く違う
佐藤 琢朗
向山型算数セミナー
箱根合宿のセミナーは向山型算数上達法の開発セミナーに!!
板倉 弘幸
腹の底からの実感!向山型算数を知る前と後
算数の授業が楽しい自分がいる
中山 孝志
私と子どもを救った向山型算数
尾上 知生
子どもにもらった,2つの感謝の言葉
矢吹 優子
あかねこ計算スキルは子どもをやる気にさせる!!
中里 恵子
6年間の平均点公開で後悔!
小松 和重
向山型算数を知ってよかった
中村 有希
授業するのが楽しい向山型算数
野ア 隆
自由投稿フリーページ
木村 重夫□□□□□
実物ノートと指導のポイント
A男を救った指導ノート
北村 聖子
読者のページ
夏の学び・向山型算数セミナー東京
編集後記
木村 重夫赤石 賢司
TOSS最新情報
向山型算数に挑戦/指定教材 (第50回)

巻頭論文

算数授業へのこだわり

「百マス計算」は体験すると駄目なことが分かる

向山洋一


 百マス計算の宣伝がすごい。

 陰山先生の本には「学力は家庭でつける」とある。

 陰山先生は,公立小学校の校長先生だ。ということは,「学校で学力をつける」ことに,全責任を負っている立場だ。

 公立小学校校長の立場の人が「学力は家庭でつける」と大々的に宣伝する本や教材を世に出していいのだろうか。

 この一点で,私とは立場が全く違う。

 これだけではない。百マス計算教材の宣伝コマーシャルにも登場した。

 20 年以上昔,民教連(日本作文の会『ひと』)の遠藤豊吉氏が,小学校教師現職の身で,

「机」のテレビコマーシャルに登場したことがある。

 集中的な批判を浴びて,すぐにそのコマーシャルは中止になった。当然のことである。

 それ以来の珍事だ。

 ところで「百マス計算」の商標登録を,大手出版社が申請した。陰山先生の百マス計算を大々的に売り出している大手出版社だ。

 ところで,「百マス計算」の学習方法は,30年昔,朝日新聞連載に紹介され,出版されたものである。

 著者は,大阪算数教育研究所の先生方だ。

 これは,「かけ算九九」の1つの練習方法として,教育界で紹介されてきた。

 岸本先生たちが,後に大々的にとりあげたが,当時の実践記録には,「できない子への配慮」が,それなりにされていた。

 陰山先生は,ストップウォッチを強調した。テレビの画面,公開発表では,ストップウォッチ片手の陰山先生しかうつらない。

 これでは,一部の子のタイムは早くなるが,できない子は,大量に落ちこぼれる。

 勉強のできない子ができるようにならないからだ。

 それだけじゃない。子どもたちのかなりの部分が,反発するようになるからだ。

 それにしても,教育界の知恵として生まれた「百マス計算」の練習方法が,大手出版社の商標登録として申請される――これを許せるだろうか。

 もし,「百マス計算」という名付け親は,私たちだと証明できるなら,それは「落ち研」がとるべきなのだ。

 自分たちが研究開発したと多くの人に納得させられるなら,その方法もある。

 しかし,「百マス計算」の受理は,かなり難しい。すでに,朝日新聞出版物で出されていることだからだ。

 研究会が申請するなら,それは,「知的財産」への防御ともいえる。

 しかし,「百マス計算」は,大手出版社の商標登録申請だ。陰山先生と一緒に大々的に宣伝している出版社だ。

 このことに納得する教師は,どれくらいいるのだろう。多くの教師は,嫌悪感をもって,拒否の感情をもつだろう。

 百マス計算では,できるようにならない。もし,できるようになったのなら「他の手だて」をしていたはずだ。

 少し前,陰山先生のインターネットサイトを見れば,答えがあった。

 できない子の手だてに,陰山先生は,「向山型算数」をやっていたのだ。向山型とは書いてないが,分かる人が見れば,すぐ「あっ,向山型だ」となる内容である。

 「百マス計算」が有名になっていくと同時に,陰山先生は,そのサイトを消してしまった。

 こうした態度は,尊敬できることではな

い。「デタラメとウソの陰山実践」と,向山が考え出したのは,この「陰山サイトの消去」があってからのことである。

 「百マス計算」をやると,有名一流大学に入るという宣伝も,おかしい。

 少し考えれば,分かることである。

 一位数同士の計算が,いくら早くなったとしても,大学に合格する学力とは,ほとんど関係ないからだ。

 ソロバンを考えれば,すぐ分かるだろう。

 昔,ソロバン塾が日本中にあった。

 私も通っていた。

 クラスの中の大半の子が,ソロバン塾に通ったものだった。

 毎日,30 分程度の練習がある。

 その効果はすごいもので,1年もすると三位数のたし算が暗算でできるようになる。

 スピードも,すごくアップする。

 ソロバン塾では,級別に分かれていたから先生はできない子もフォローしてくれた。

 「百マス計算」のスピードより,比較にならないくらい計算スピードがアップした。

 わずか1年で,1級になる子もいた。

 ソロバン塾で,上位クラスに入った子は,有名中学,有名大学に入っただろうか。

 全く関係がなかった。

 私の小学校の同級生は,麻布,慶應に3名合格したが,計算は遅かった。ソロバン塾に行ってなかったからだ。

 小学生のとき,計算が一番早かった子は,中学の成績は中以下だった。

 「自分の場合もそうだった」という人も多いだろう。

 もちろん,ソロバンは,すぐれた教材であり,ソロバンによって育つ面は大きい。

 「百マス計算」の比ではない。

 月とスッポンの違いがある。

 そのすぐれた教材,ソロバンにしても,計算が早くできるようになれば,一流大学に入学できるなどという馬鹿げた主張をする人は誰一人いなかったのだ。

 広島県の私立中学校の教師が,百マス計算について注目すべきレポートを報告している。

 中学への新入生41 名のうち,31 名が百マス計算を経験していた。

百マス計算で伸びたと思う    20%

百マス計算で伸びたと思わない  80%

 ここで大切なのは,私立中学の子だということだ。小学校のときは,クラスで上位にいた子である。その子でさえ,伸びたと思わない子が80%もいるのだ。

 この先生は,自分も実践してみた。そしてマイナス面を次のようにまとめた。

1 混乱する子がいる

 単純な計算に取り組みやすいと感じ意欲をわかせた子がいるのに対し,何回取り組ませても,集中力が続かず,記録も伸びず,やる気をなくし「百マスいやだー」と叫ぶ子が出てきた。まず,この百マスのやり方に混乱を覚えている子がいるように感じる。間違って書いて消したり,何度も確かめながら一生懸命枠の中に書こうとしているが,それではタイムが伸びない。

2 答え合わせの方法が難しい

 実は,答えを適当に書いたり,タイムを気にしすぎて無茶苦茶を書いてしまう子も多い。しかしそれらをなくすための手だてによい方法が見られない。教師から正解を言い,自己採点させているが,間違いを直せるような速さで言えば,だれてしまったり,非常に時間がかかったりする。その上,自己採点なので適当に丸をつけている子もいる。それらをいちいち確認し,全員分見るのは非常に大変な仕事であり,これに時間をかける意義薄い。

3 終わった子への手だてが難しい

 早い子は1分半で済む。遅い子は5分以上かかる。私のやり方で5分で制限時間を設けているが,問題が残ってしまう子も数名いる。そのような中で,全員に満足させてやりたいが,よい手だてが見つからない。特に気になるのが,早く終わった子である。見直しをするように言っているが,すぐにもう済んだとばかりに止めてしまう。その子たちが暇をもてあましてしまう。

4 たし算,ひき算とかけ算では性質が全く異なるのではないか

 かけ算は丸暗記で良い。しかし,たし算やひき算には原理があり,その種類もいくつかに分けられる。例えば,くり上がり・くり下がりのあるなし,答えが10になるもの,答えが0になるもの,等だ。それらが混在する百マス計算。難なくできる子は良いかもしれないが,学力不振児がいつまでたってもできるようにならなかった。

 どれも,もっともなことである。

 「勉強ができない子が混乱をする」ということは,やった人なら分かるだろう。

 しかも,ストップウォッチで尻を叩くから,よけい混乱は深まる。

 字も雑になる。すごく汚い字になる。

 デタラメに書く子も出てくる。

 それを防ぐには,答え合わせをするしかない。

 しかし,答え合わせが,時間がかかりすぎるのだ。

 「できない子をいじめる百マス計算」――それなのに商標登録までして商売しようとする人々がいるのだ。


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