向山型算数教え方教室 2003年8月号
“たった一問”挑戦だから燃えるザ難問

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向山型算数教え方教室 2003年8月号“たった一問”挑戦だから燃えるザ難問

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ジャンル:
算数・数学
刊行:
2003年7月
対象:
小学校
仕様:
B5判 92頁
状態:
絶版
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目次

もくじの詳細表示

特集 “たった1問”挑戦だから燃えるザ難問
向山洋一氏をも悩ませた「難問1問選択システム」
木村 重夫
1年生から熱狂的なアンコール! そして,数々のドラマが…
小林 幸雄
45分間,教室ヒートアップ!
田村 治男
小さな違和感を変え,大興奮をもたらす
松井 靖国
難問での自信が単元テストにも現れた
浅川 清
システムは,正しく使ってこそ熱中する子どもを作る!
有村 春彦
授業もクラスも超えて広がる「難問」
鈴木 はるみ
ミニ特集 私の実力をアップさせたライブ&サークル
模擬授業で挑戦! フラッシュサイト作り
鈴木 恭子
サークルで斬られるから身につく
渡辺 佳起
ライブで何回聞いても身につかなかったもの〜あかねこ計算スキル〜
行實 克彦
授業が変わった! 私を変えたあの一言
山口 浩彦
サークルの模擬授業はやめられない
奈良 満
授業の腕の向上を保証する模擬授業
柴田 泰士
グラビア
「温故知新」それも向山型です。
渡辺 康夫
向山型算数キーワード
2つの向山型難問
木村 重夫
論文ランキング
5月号
木村 重夫
巻頭論文 算数授業へのこだわり
赤えんぴつ指導はなぜ効果があるのか
向山 洋一
学年別向山型難問この1問こう授業する
1年
かたちあそび
浅野 光
この図形に三角形は何こかくれているのか
東田 昌樹
2年
三角形と四角形
高橋 一行
くふうして計算しよう
渡辺 哲朗
3年
かけ算
西山 喜一郎
子どもが夢中で悩む問題の追試
□□□□□
4年
面積 くふうして面積をもとめよう
佐藤 郁子
ちがいに目をつけて
喜屋武 仁
5年
100をつくろう
太田 健二
数と計算・図形
鈴木 真
6年
たりない看板は何個?(植木算)
鎌田 信美
いくつに分けられる!?
大島 英明
向山型算数に挑戦/論文審査 (第45回)
「一対一対応」そして「一目で分かる方法」
向山 洋一
向山型算数実力急増講座 (第47回)
TOSSデー向山型算数「解説」模擬授業
木村 重夫
向山型算数の原理原則と応用 (第47回)
向山型算数は,流れるような指導でスッキリわかる!
岡田 健治
向山型算数と出会ってTT授業・少人数授業が変わる (第16回)
私の授業を激変させてくれた向山型算数
小野 宏二
向山型算数WEBサロン (第41回)
変化のある繰り返しを使うから説明しなくても子どもが分かる
赤石 賢司
中学校からの発信!「向山型数学」実践講座 (第41回)
中学校でもノートはやっぱりTOSSノート
井上 好文
「親と子の証言!」向山型算数は公文を超える! (第5回)
あたたかな雰囲気と笑いで包まれる個別懇談
松崎 力
『教え方大事典』を活用した算数授業体験
低学年/「0」の指導は,子どもの体感に訴えよ
伊藤 秀謙
中学年/時こくと時間はこの生活表でばっちり
春川 あゆみ
高学年/「だめ〜」「言わないで!」の大合唱
竹森 正人
中学/不等号≧で討論をする
山本 雅博
もう一つの向山型算数 難問良問1問選択システム (第47回)
低学年
本井 訓
中学年
浅野 貴宏
高学年
伊藤 浩幸
衝撃のライブ体験「向山洋一の介入模擬授業」を受けて
あれども見えず〜原点に返れ!〜
千葉 康弘
視線を意識した授業
楢原 八恵美
向山型算数セミナー
12月の箱根は向山型算数授業ビデオ解説を初公開します!!
板倉 弘幸
腹の底からの実感!向山型算数を知る前と後
教師の意識の改革から出発
朝長 唯
説明をしないから分かる
星野 昌子
「お母さんに見せるんだ」
浅野 しのぶ
TOSSノート・赤鉛筆のドラマ
西岡 正樹
自分も,子どもも変わった!
沖平 和生
赤鉛筆でなぞらせることからの出発
平岡 大祐
成功体験が子どもを変える
森本 雄一郎
自由投稿フリーページ
木村 重夫□□□□□
実物ノートと指導のポイント
こだわりから見えてきた「ノート」
山口 美智子
読者のページ
教室からの発言「百マス計算の問題点!」
編集後記
木村 重夫赤石 賢司
TOSS最新情報
向山型算数に挑戦/指定教材 (第47回)

巻頭論文

算数授業へのこだわり

赤えんぴつ指導はなぜ効果があるのか

萩本氏は言った「舞台でやる芸を客席から見てもね、絶対に覚えられないの!」

向山洋一


 勉強ができない子に,赤えんぴつで援助するときがある。

 できない問題の答を,ノートにうすく書いてあげるのだ。子どもは,それをなぞってくる。小学生なら,ほぼ全員が,こうした教師の援助を喜んで受け入れる。

 「こんなことで,本当の学力はつかない」という教師もいる。頭でっかちの,口先だけの人間だ。実力が極端に低いのも共通している。「人様がいい」ということに,疑問をはさみ文句をつけるのが大好きなのだ。

 はっきり言って,幸運の神様が,まっ先に見離すタイプだ。

 こんな人と一緒にいると自分の運も逃げてしまうので,私は昔から「けがれるから」と言って,ほとんどかかわりを持たないできた。

 その人の名前さえ覚えない。わずか30 人ぐらいの教員室で,3年一緒にいても,名前を覚えないのだ。フレームカットで,その人のことは,素通りする。

 (でも,子どもの名前は一日で覚える)

 野球でも,将棋でも,プロまで上達する人間の見分け方は同じだ。

 第一にそのことが大好きなこと。

 第二に素直な性格であること。

 教師も同じだ。疑い深い教師は,ジャージを着て授業をし,人の言うことに文句をつけ,研究会で無内容で無知な話を声高にする人と決っている。

 「赤えんぴつの指導で,できない子が伸びた」ということを聞けば,素直にやってみればいいのである。

 教師が使うのは,赤えんぴつであって,赤ペンではない。プロの教師なら必ず赤えんぴつを使う。赤えんぴつだからこそ,うすく書いてあげて,なぞらせることができるのだ。

 赤ペンで書いてやると,子どもは「プイッ」と怒って,そっぽを向く。ノートを汚されたと思うのだ。

 「なぞってごらん」という事も,小さく,ささやくように言う。

 これを,大きな声で言う無神経な教師がいてあきれる。仏を作って魂入れずだ。

 本当は,赤えんぴつで全部を書くのではなく,最初の所ぐらい自分でやらせるのがいい。

 そんなときは,「ここは,自分でやるんだぞ」と大きな声で言ってやる。みんなに聞かせるためだ。

 「できました」と持ってきたら,「よくやった」,「ここは自分でやったんだよな」と,更赤えんぴつ指導はなぜ効果があるのか萩本欽一氏は言った「舞台でやる芸を客席から見てもね,絶対に覚えられないの!」に大きな声で言ってほめるのである。

 赤えんぴつを使いこなすのだって,ことほどさように,いろいろな場面があるのだ。

 勉強好きで,素直な人間が,学んでいけるのである。

 「赤えんぴつ指導は効果がある」のは「なぞる」からだろうか。

 それもある。

 しかし,もっと,大きな原理が作用している。これまで,教育界ではあまり,言及されてこなかった。

 関連することを,思いつくままに列挙してみよう。

 30 年前,京浜教育サークルは,自然地理の系統案を作っていた。

 低学年の子に,空間認識の力を育てたいと思っていた。

 下駄箱を使って,「ここから上」とか「ここから左」とかを授業してみた。

 しかし,予想を越えて困難だった。

 雪ヶ谷小で,3年生に,校門から百メートルまっすぐにのびる道路の主な店を地図に記入させたことがある。

 白地図を渡してである。しかし「白地図」と「実際の建物」は,一致しなかった。

 一本の道路でさえ困難だった。

 (それなのに,白地図に学区域の店調べを記入させる教師がいる。ムチャだ)

 黒板にかいた図をノートに書かせるとき,一年生などでかけない子がいる。

 黒板とノートは離れており,一致しないのである。

 インターネットを使った授業の時,「教師」と「画面」の位置が大きく離れているときがある。横山浩之ドクターは,「子どもの視線が分離してしまい大問題だ」と言われたが,私も全くその通りだと思う。

 インターネット活用の授業は,教師が子どもに見える位置で授業するのが前提だ。

 だから「パソコン操作」は,授業に向かない。「タッチパネル型」が絶対に必要だ。

 その上で「スクリーン」と「教師の位置」を常に考える必要がある。

 ここまで書いたが,まだ問題の入口だ。

 さて,ずっと昔「NHKクイズ面白ゼミナール」で,問題を出していた頃,不思議な指導を見た。

 習字である。

 子どもの前に先生がすわって,子どもの筆に手をそえて「さかさま」に書くのである。

 これは,「子どものうしろ」から「手をそえて一緒に書いてやる」ことから発展したものだ。

 学習する文字が,教師と子どもで,同じ方向になっている。

 昔,習字の師匠の中には,このようなことができた人がいた。今や極めて少ない。

 ちなみに,TOSS関西中央事務局の神谷先生は,これができる。

 ここでのポイントは「教材」の「向き」なのだ。

 教師が持っている「教材」と子どもが使っている「教材」の向きなのだ。

 普通は,教師と子どもの教材は,反対方向になっている。

 教師は自分向き,子どもも自分向きになっているので,結果として,反対方向になる。

 それが,何だと思う人もいるだろう。

 「考えたこともない」という人がほとんどだろう。

 しかし「学ぶ」ときに,これは大問題なのだ。現在絶版だが『言葉の達人たち』(阿久悠編扶桑社,1993 年)の中で,萩本欽一氏は,実に分りやすく次のように語っている。逆の動きでは覚えられない

 僕は,芸を浅草で覚えてきたわけですよ。で,一つ気づいたことがあるんですね。

 僕,浅草で芸を覚える前に,映画を見ていたり舞台を見てたりしてたんですよ。でもうまくならないんですよね。いい役者さんやコメディアンを見ればうまくなると思うじゃないですか。ところが,いくら見てもうまくならないんですよ。

 どうしてうまくならないか知っています?舞台でやっているのは,全部逆側を見せてるんです。客席のみなさんは,舞台と向かい合ってるわけだから,全部実際とは逆の動きを見てるんですよ。

 逆をいくら見ても覚えられないんです。だからわれわれは,芸を見るときには,舞台の袖で同じように動いて覚えるんですよ。横からじゃないと覚えられないんですよ。

 となるとさ,面白いでしょ。踊りのお師匠さん,どうやって教えてます?

 正面で,生徒に向き合って教えてますよ。「はい,そうじゃないの。もっとこういう感じで,チントンシャンでしょ」って。逆の動きを見てるわけだから,生徒はなかなか覚えられない。だから月謝を長ーく払うの(笑い)。

 学校もそうでしょ。先生と生徒が向き合ってるから,逆で教えてる。だからずーっと覚えられない。逆ってね,人間,気持ちが悪いんですよ。だから逆らうヤツが出てくるの。本当は,先生が生徒の横へ行って,同じ向きで教えてあげるといいんじゃないかと思うんですけどね。

 僕たち,芸を本気で教えるときには横で教えるの。するとすぐに覚えちゃう。で,教えたくないヤツには前で教える。「こうやるんだよー,お前」

 いくらやっても覚えませんから,そりゃそうですよねえ。逆に動いてますから,絶対に覚えられない。

 これを読んだ時(もう10 年も昔であるが),赤えんぴつと同じだと思った。

 教師が,赤えんぴつをかいてやる時,授業中全員が練習問題にとりかかった時だ。

 うしろから,そっと近より,子どもの横によりそって,ノートにうすくかいてやるのだ。

 子どもは目の前で「同じ方向」にかいてくれる教師の赤えんぴつを見ているのだ。「なぞる」ようにうすくかくことも大切だ。

 身体をよりそうようにしているのも大切だ。

 そして「文字」「教材」の方向が,先生と子どもが同じ方向というのもとっても大切なことなのだ。

 教師の行為は,このように一つ一つが意味があり奥が深い。

 それを考えると百マス計算をストップウォッチで尻を叩くという方法は,いかにひどい方法かが分かる。

 教師のやるべきことを,全くやってないのが百マス計算だ。


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