- 特集 学級づくりの評価と展望―二学期を豊かにスタートするために―
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今月のメッセージ
2学期に、新しい物語をつくりだそう
愛知教育大学 山田 綾
本誌二〇〇九年六月号の特集で取り上げられたように、今、子どもの貧困にどのように向き合うかが、問われている。日本では、子どもの貧困は、企業主義・家族主義の福祉によりもたらされている。
子どもの経済的/物質的基盤と人間的関係基盤の責任を家族に求めるしくみは、マイノリティ家族、特に母子家庭の子どもに多くの負荷をもたらしてきた。その理不尽さは、定額給付金の支給に関する東京都の対応に象徴的である。都は、養護施設にいる子どもの申請書を保護者に送付し、親受給の原則を示した(朝日新聞、二〇〇九年六月四日朝刊)。子どもが給付金を手にできるよう、代理申請に理解を求める保護者へのお願い文を用意した施設も方針を変えたという。虐待により満杯状態の養護施設で、申請できない自分の給付金。暴れた中高生もいたと記事は伝えている。この国で、ひとりの市民として扱われないことへの絶望。それでも、子どもは、学校や地域のさまざまな場に身を置き、学びを介して社会に参加し、新しい物語をつくりだすことで生きていけているのではないだろうか。夏休みが、子どもにとって、学校という、もうひとつの生きる場を失うという意味をもつこともある。2学期を迎え、総括するとき、そのことをあらためて考えたいと思う。
※
3年生のあるクラスで、隣に座った私に、そっと耳打ちし、子どもの名前やクラスの出来事を教えてくれる愛子は、時折りおどおどした様子を見せた。父親の暴力により転校してきた彼女は母と実家に身を寄せたが、居場所はなく、大変なのだと聞いた。愛子は、どんな夏休みを過ごしたのだろう。
2学期に「元気だった?」と声をかけずにいられなかった愛子は、次々に立ち上がる学びに集中しているようだった。1学期に収穫したトマトを使ったトマトケチャップつくりから総合学習が始まり、国語の『モチモチの木』の読み取りでは、1学期最後に起き始めたガイド=i班学習のリーダー)を中心に班話し合いが行われていった。愛子は、国語の公開授業で、「豆太はいつも優しく世話をしてくれるじさまのために勇気をだした」という真太の主張に対し、「豆太は、じさまでなくても、誰が苦しんでいても、勇気をだして助けたと思う」と発言し、豆太の成長物語を創造してみせた。大きな三世代農家の長男真太とは異なる愛子の世界。二人は互いの違いを知った。トマトの調査学習では、ソース工場で大量生産のために莫大な「エネルギー」が使われ、材料が海外から輸送されていることを発見し、愛子は「トマトから世界がみえてきた」と綴った。化石燃料と環境破壊に関するビデオ『46億年の贈り物』について書いた手紙には「私が今ここにいる意味がわかった」とあった。同じ頃、靴隠し事件が起こっていた。
3学期に、女の子のトラブルを顕在化させる取り組みを行うなかで、それが愛子の仕業であることがわかる。愛子も、揺れていたのだろうか。3学期のメディアリテラシーの班話し合いで、「お父さんに殴られる」と漏らした信士も、夏休みあけに怖い顔で肩で風を切って歩いていたことを思い出す。
愛子は、クラスのみんなと現実を探求する学びの世界を生きていた。愛子の「靴隠し」は、意識していたかどうかは別にして、女の問題を捨て置く社会と学級という現実への抗議だったのではないか。1学期に男子のトラブルばかりが公的に出され話し合われた学級で、2学期には関係者(=男の子たちだけ)が自分たちで会議を開き、事実を出し合い、解決策を議論できるようになっていたからだ。
3学期に女の子のトラブルに取り組み、進級した愛子たちは、今、始まったクラブ活動に夢中のようだ。愛子がいつか、この国のジェンダーと家族、社会の問題に向き合える学びと出会えることを願ってやまない。
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- 明治図書