生活指導 2009年9月号
学級づくりの評価と展望―二学期を豊かにスタートする

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生活指導 2009年9月号学級づくりの評価と展望―二学期を豊かにスタートする

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ジャンル:
生活・生徒・進路指導
刊行:
2009年8月5日
対象:
小・中
仕様:
A5判 123頁
状態:
絶版
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目次

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特集 学級づくりの評価と展望―二学期を豊かにスタートするために―
特集のことば
学級づくりの評価と展望―二学期を豊かにスタートするために―
今関 和子
小学校
学級づくりを中心に
3年生に「学級内クラブ」の意味を問う
泉 克史
学年づくりも視野に入れて
きみたちはだめな奴じゃない!
田中 亨
コメント
実践には分析と方針が必要であって、その実践の成果は新たな課題を生む
今関 和子
中学校
学級づくりを中心に
1年3組の学期末
嶋村 純子
学年づくりも視野に入れて
自治の力をもつ集団をめざして
中沢 照夫
コメント
一学期の第一歩、二学期の第二歩
佐藤 くみ子
第2特集 「貧困」と「格差」の中に生きる子どもたちへの共感と指導〈埼玉特集〉
埼生研の今
石井 幸雄
二〇〇九年度埼生研基調提案
「貧困」と「格差」の中に生きる子どもたちへの共感と指導
埼生研基調提案小委員会
実践記録・小学校
Rとお母さんとどうつながったか
本庄 勇介
【コメント】孤立した子どもたちの居場所を広げる
関口 武
実践記録・中学校
つながりを求めて
猪俣 修
【コメント】猪俣実践から批判的に学ぶ……
田邊 一馬
若い風
埼生研と私たち
松嶋 哲哉
元気なサークル
埼生研・狭山サークル
明松 みどり
ほっと一息埼生研ツアー
カサハラ アキオ
今月のメッセージ
2学期に、新しい物語をつくりだそう
山田 綾
私の授業づくり (第6回)
小学校〈道徳〉/やさしさ郵便
井上 紘幸
中学校〈道徳〉/「イスとりゲーム」をめぐって
佐藤 くみ子
実践の広場
子ども文化の世界
子ども同士の出会いの場を
永井 公一朗
貧困・格差と子どもたち
日本の学校生活になじめない親子
千葉 夏子
学級のイベント
子どもも父母も夢中になってつながる「きもだめし大会」
河野 修三
学年・学校行事
クラスと学年をつなげたにこにこドキドキ祭り
伊藤 均
部活動・クラブの指導の工夫
今度は野球部
坂本 太郎
職員室の対話
学年教師間の交流を!
斉藤 太美雄
手をつなぐ―親と教師
川柳で交流する
高波 勉
私が教師を続けるわけ
私がこの県の教育界を救う?
平野 博通
若い教師のメッセージ
「私の心得」三つのこと
阿部 奈緒子
案内板 集会・学習会のお知らせ
教育情報
障害を抱える人々の「自立」
間宮 正幸
風の声―この人に聞く
離れてみて改めて、「学校とは」「教育とは」を思う
境 悠紀子
読書案内
『「宮崎アニメ」秘められたメッセージ』
鈴木 和夫
読者の声
7月号を読んで
報告/全生研「指標」改定について
全生研常任委員会
全生研の窓
編集室だより
編集後記
井本 傳枝

今月のメッセージ

2学期に、新しい物語をつくりだそう

愛知教育大学 山田  綾


本誌二〇〇九年六月号の特集で取り上げられたように、今、子どもの貧困にどのように向き合うかが、問われている。日本では、子どもの貧困は、企業主義・家族主義の福祉によりもたらされている。

子どもの経済的/物質的基盤と人間的関係基盤の責任を家族に求めるしくみは、マイノリティ家族、特に母子家庭の子どもに多くの負荷をもたらしてきた。その理不尽さは、定額給付金の支給に関する東京都の対応に象徴的である。都は、養護施設にいる子どもの申請書を保護者に送付し、親受給の原則を示した(朝日新聞、二〇〇九年六月四日朝刊)。子どもが給付金を手にできるよう、代理申請に理解を求める保護者へのお願い文を用意した施設も方針を変えたという。虐待により満杯状態の養護施設で、申請できない自分の給付金。暴れた中高生もいたと記事は伝えている。この国で、ひとりの市民として扱われないことへの絶望。それでも、子どもは、学校や地域のさまざまな場に身を置き、学びを介して社会に参加し、新しい物語をつくりだすことで生きていけているのではないだろうか。夏休みが、子どもにとって、学校という、もうひとつの生きる場を失うという意味をもつこともある。2学期を迎え、総括するとき、そのことをあらためて考えたいと思う。

3年生のあるクラスで、隣に座った私に、そっと耳打ちし、子どもの名前やクラスの出来事を教えてくれる愛子は、時折りおどおどした様子を見せた。父親の暴力により転校してきた彼女は母と実家に身を寄せたが、居場所はなく、大変なのだと聞いた。愛子は、どんな夏休みを過ごしたのだろう。

2学期に「元気だった?」と声をかけずにいられなかった愛子は、次々に立ち上がる学びに集中しているようだった。1学期に収穫したトマトを使ったトマトケチャップつくりから総合学習が始まり、国語の『モチモチの木』の読み取りでは、1学期最後に起き始めたガイド=i班学習のリーダー)を中心に班話し合いが行われていった。愛子は、国語の公開授業で、「豆太はいつも優しく世話をしてくれるじさまのために勇気をだした」という真太の主張に対し、「豆太は、じさまでなくても、誰が苦しんでいても、勇気をだして助けたと思う」と発言し、豆太の成長物語を創造してみせた。大きな三世代農家の長男真太とは異なる愛子の世界。二人は互いの違いを知った。トマトの調査学習では、ソース工場で大量生産のために莫大な「エネルギー」が使われ、材料が海外から輸送されていることを発見し、愛子は「トマトから世界がみえてきた」と綴った。化石燃料と環境破壊に関するビデオ『46億年の贈り物』について書いた手紙には「私が今ここにいる意味がわかった」とあった。同じ頃、靴隠し事件が起こっていた。

3学期に、女の子のトラブルを顕在化させる取り組みを行うなかで、それが愛子の仕業であることがわかる。愛子も、揺れていたのだろうか。3学期のメディアリテラシーの班話し合いで、「お父さんに殴られる」と漏らした信士も、夏休みあけに怖い顔で肩で風を切って歩いていたことを思い出す。

愛子は、クラスのみんなと現実を探求する学びの世界を生きていた。愛子の「靴隠し」は、意識していたかどうかは別にして、女の問題を捨て置く社会と学級という現実への抗議だったのではないか。1学期に男子のトラブルばかりが公的に出され話し合われた学級で、2学期には関係者(=男の子たちだけ)が自分たちで会議を開き、事実を出し合い、解決策を議論できるようになっていたからだ。

3学期に女の子のトラブルに取り組み、進級した愛子たちは、今、始まったクラブ活動に夢中のようだ。愛子がいつか、この国のジェンダーと家族、社会の問題に向き合える学びと出会えることを願ってやまない。

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