『岩�ｱ淳国語教育論集1 言葉の力を育む』の詳細情報

　勤務校で担当した教育実習生、各種の研究会でお会いした若手の先生方、講師として出講した大学で教えた学生など、若い方々は大いに悩んでいた。まじめな方ほど悩む。それはわるいことではない。迷いも悩みもないところでは、人は成長しない。

　原稿の依頼のあるたびに、若い人たちを応援するつもりで文章を書いている。もとより高所に立っての物言いではない。同じ場所でともに歩む者の一人としての提案である。

　折にふれて書いてきた文章の中から、学習指導に関するものを選び、加筆・修正してまとめて一書とした。通して読むと重複している部分もあるのだが、どこからお読みいただいてもいいように、あえてそのままにしているところもある。

　本書は大きく四つの部分から構成されている。第一章は、音声言語指導に関する活動をまとめている。学校教育の段階では、聞く力を育てることは、たいへん重要なことである。成長していく過程で、聞く力のある者とそうでない者とでは、大きな差が生じる。また、相手の話を聞かない・聞けないということは、相手をおとしめ、否定することでもある。話し手・聞き手がお互いを尊重する気持ちを持つようになったら、その国語教室は成功であると考えている。第二章は、文章表現に関する活動をまとめている。書くことは考えることである。書くことによって、人は思考を整理し、より深めていく。「授業時数が足りない」「生徒がいやがる」「評価しにくい」などの理由によって、文章を書く機会を設定しないのであれば、いちばんの被害者は学習者に他ならない。第三章は、読むことに関する活動をまとめている。国語科の授業では、読むことの活動の占める割合が大きく、授業の悩みもこの領域に関することが多い。読むことの指導全体にかかわることの他、教材に関すること、読書指導に関することなどについて述べている。第四章は、学習支援や規範意識に関することをまとめている。授業を成立させるために、授業以前に考えておかなければならない問題もある。教える内容について、指導者の知識が豊かで、環境がいかに整っていたとしても、それでよしというわけではない。雰囲気づくりが大切であるのは、小学校でも大学でも、すべての教室に共通している。

　先に「高所に立っての物言いではない」と書いた。わたくしは優れた指導者とはほど遠い存在である。授業計画を考えるときには、今でも迷いもあるし、悩みもある。「同じ場所でともに歩む者の一人」と書いたのはそうした意味である。

　すべての文章は中間報告である。本書は、わたくし自身の苦闘の記録であり、ある部分は敗退の記録でもある。

　　二〇一〇年一月　　　／岩�ｱ　淳