- まえがき
- 第一章 総合的な学習をめぐる諸課題
- T 「総合的な学習の時間」が設けられるまで
- 一 「総合科」から「総合的な学習の時間」に至る経緯
- 二 「総合的な学習の時間」のねらいと究極のねらい
- U 総合学習と「総合的な学習の時間」
- 一 四タイプの総合学習
- 二 脱教科としての総合学習
- 三 教科外の総合学習
- 四 新教科としての総合学習
- 五 教科内の総合学習
- 六 国語科内の総合学習の要諦
- 七 国語科内の総合学習の実践事例
- V 学習課題と学習過程
- 一 学習課題の推移
- 二 実践事例集に見る学習課題
- 三 総合的な学習の学習過程
- W 具体的運用案
- 一 はじめに
- 二 教育課程のモデルパターン
- 三 総合的な学習を試行するための時間の算出
- 四 試行のための学習課題とその配当時間の目安
- 第二章 学力問題
- ――国語科と総合的な学習と――
- T 総合的な学習ブームと国語学力
- 一 総合的な学習ブームの状況
- 二 「総合的な学習の時間」のねらいと国語科の位置
- 三 これからの「学力」の三形態
- 四 「国語学力」の全体像
- U 総合的な学習をめぐる学力問題
- 一 総合的な学習と学力
- 二 新しい時代の学力観
- V 国語学力の基礎・基本と総合的な学習
- 一 はじめに
- 二 国語学力の基礎・基本とは何か
- 三 国語学力の構造
- 四 国語学力と総合的な学習
- 第三章 総合的な学習の実践事例
- T 事例1 国語学力との関わりを捉えた実践
- 一 実践の概要
- 二 子どもの願いとしての学習意欲の醸成過程
- 三 授業者の願いと支援
- 四 本時(授業時間六十分間)の活動
- 五 実践の考察
- U 事例2 効果的な活用段階を設定した実践
- 一 実践の概要
- 二 子どもたちの思いや願いと直結した学習課題
- 三 学習過程に活用段階を設定したねらい
- 四 育てるべき国語学力
- 五 単元構造図と展開の実際
- 六 活用段階を設定したことの効果
- 七 活用段階での自己評価の実際
- V 事例3 学級を開き、教科を開き、情報を開いた実践
- 一 実践の概要
- 二 実践研究の基本構想
- 三 子どもの思いや願いと教師の思いや願い
- 四 学習活動の展開と支援
- W 事例4 年間計画との関わりを捉えた実践
- 一 実践の概要
- 二 実践研究の全体構想
- 三 子ども、教師、保護者の思いや願い
- 四 年間計画における本単元の位置付けと展開
- 五 本時の展開と国語学力との関わり
- X 事例5 地域の教育力を活用し、「実の場」を設定した実践
- 一 実践の概要
- 二 研究主題と研究仮説
- 三 子どもの思いや願いの醸成――教師の願い
- 四 学習指導計画(略案)
- 五 本実践の評価――本実践から学ぶこと
- 附章 言語のレベルを考慮した国語学力と総合的な学習
- 一 読売新聞社の教育改革提言と文部省の方針転換
- 二 言語のレベルを考慮した国語学力の全体構造と基礎・基本
- 三 総合的な学習と国語学力
- 初出一覧
まえがき
「ゆとり教育論争」で二十一世紀の教育界は幕を開けた。
新年早々読売新聞が「文部省は四日、二〇〇二年度から導入する新学習指導要領で実現を目指す小、中学校などの「ゆとり教育」のあり方を抜本的に見直す方針を決めた」(一月五日付朝刊)と報じると、文部大臣(当時)は同日「今まで進めてきた路線をしっかり進めていく」とコメントし、文部科学省が「抜本的見直しは考えていない」と都道府県教育委員会などに非公式に伝えた(一月十九日付『日本教育新聞』)。すると、読売新聞は「文部科学次官が、読売新聞社のインタビューに答え、ゆとり教育を抜本的に見直す方針を認めた」(一月十三日付朝刊)と報じ、さらに一月二十四日の都道府県教育長協議会での同次官の行政説明を「ゆとり教育の進め方を見直す考えを事実上、明らかにしたものだ」(同日付夕刊)と報じた。しかし、『日本教育新聞』は、同協議会での同次官の説明を「文部科学省はゆとり教育を推進している。これまでと変わらない」「新学習指導要領の基本的な考え方を見直すとの誤解を与えかねない報道が一部にあった」(二月二日付)と報じ、同協議会の「文部科学事務次官行政説明メモ」を全文掲載した。その一部を引用する。
総合的な学習の時間は各教科等の時間と切り離して考えるものではなく、各教科等で学んだ知識や技能を自らのものとし、その後の各教科等の学習を深める観点からも重要な意義を有するものであります。総合的な学習の時間と各教科等の指導の有機的な連携にさらに意を用いていただきたい。
ところで、総合的な学習の理念なり方法なりはとりわけ新しいというものでもない。戦前から信濃教育会では総合学習が行われていたし、奈良女高師附属小学校訓導の山路兵一は大正デモクラシーの自由教育の潮流の中での子ども主体の学習を自ら「綜合学習」と称していた。しかし一方、今回の一連の教育改革の中で教育界の話題をまさに席巻してしまっているのも総合的な学習なのである。いわゆる「総合的な学習の時間」である。
当然のこととして、国語科教育界においても総合的な学習と国語科との連携の在り方が新教育課程の課題として顕現化してきている。
単なる活動レベルで関連を図るだけならば、国語科と総合的な学習との連携は容易である。しかし、総合的な学習が「各教科等で学んだ知識や技能を自らのものとし、その後の各教科等の学習を深める」(前掲、文部科学事務次官行政説明メモ)ものであるならば、国語学力のいかなる部分が、いかに総合的な学習と連携するのかを明確にしなければなるまい。然るに、そもそも国語学力についての、さらにはその基礎・基本についての定見を見ないのが国語科教育界の現状である。新教育課程の完全実施を目の前にしても、「道いまだ遠し」の感は免れない。
本書は、国語科と総合的な学習との連携に関する課題や展望等について、とりわけ国語学力の面から論究するものである。そして、国語科を核とした総合的な学習の具体的実践事例を分析しながらそれを検証するものである。
まず、第一章では、今回の一連の教育改革において「総合的な学習の時間」が設定されるまでの経緯を整理した。そして、総合的な学習をめぐる諸課題について考察した。具体的には、「総合的な学習の時間」と総合学習との相関関係、総合的な学習の学習課題及び学習過程、移行期の具体的運用案等などである。
第二章では、本書の中核となる学力問題について論じた。すなわち、総合的な学習をめぐる学力問題とは何か。国語学力の基礎・基本とは何か、そしてそれは国語学力の全体構造といかに関わるのか。その上で、国語学力と総合的な学習との関わりについて論究した。
第三章は、国語科を核とした総合的な学習の具体的実践事例の分析的紹介である。いずれも、ここ一、二年の実践事例である。それぞれの実践の特色は、国語学力との関わりを捉えた実践(事例1)、効果的な活用段階を設定した実践(事例2)、学級を開き、教科を開き、情報を開いた実践(事例3)、年間計画との関わりを捉えた実践(事例4)、地域の教育力を活用し、「実の場」を設定した実践(事例5)である。
附章は、第二章のVで論究した国語学力をさらに言語レベルから考察したものである。国語学力と総合的な学習との関わりをより一層明確にするための補説的な章である。
最後に、実践事例の紹介を快諾してくださった各先生方、また、本書の刊行に際しご助言とご支援をたまわった江部満氏には、心からのお礼を申し上げたい。
二〇〇一(平成十三)年 初夏 /大熊 徹
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- 明治図書