- はじめに
- 第T章 子どもたちをとりまく生活は20年間にどう変わったか
- 1.1980年代の家庭生活の状況
- 2.家族の働きはどう変わったか
- 3.家庭生活についての全国調査の概要
- 4.調査対象者の概要
- 5.子どもたちの人間関係はどう変わったか
- 第U章 子どもたちは家庭生活で何をしているか
- 1 食べること、着ること
- (1) 食べることに関する家事の実践率 /(2) 着ることに関する家事等の実践率 /(3) 食べること、着ることに関してもっと上手にできるようになりたいこと
- 2 住まうこと・環境・消費生活、対人関係
- (1) 住まうこと /(2) 環境のこと /(3) 消費生活のこと /(4) 対人関係について /(5) 「もっとすすんでするようにしたいと思うこと」とその理由
- 3 お金と時間
- (1) 時間についての自己管理 /(2) 金銭と消費生活についての自己管理
- 4 選ぶ、決める
- (1) 服を買うときに重視していること /(2) 自分の部屋で大切にしていること /(3) 休日の昼食を用意するときに重視していること
- 5 家庭の働きについての願い
- (1) 学校や外から帰ったときの気持ち /(2) 家庭の働き /(3) 1982年調査との比較
- 6 大切にしていること
- (1) 現代の子どもの生活価値観 /(2) 学年が上がるにつれてどう変化するか
- 第V章 学校の家庭科では、いま
- 1.家庭科での学習
- (1) 家庭科の学習効果を高く評価 /(2) 求められる高校生への知的刺激 /(3) 家庭科学習における実習 /(4) 学習効果の男女差をうめる工夫とジェンダー教育
- 2.家庭科の実践事例にみる学習効果
- bP 試食で気づくおいしさの違い
- bQ 1人・1品・3まわりの調理実習
- bR 環境に配慮した食生活をめざそう
- bS 意思決定能力を育てる衣の授業
- bT 幼稚園訪問で幼児とふれあおう
- bU 技能の習得と家族とのかかわり
- bV 父親の育児参加について考えよう
- bW 共に生きる家族を考えよう
- bX 食のくらしを通して地域の高齢者とつながろう
- 3.できる、わかる、気づく、考える学習
- (1) 学習課程における「考える」学習の位置づけのいろいろ /(2) 事例から学ぶ、学習効果を上げるための提言
- 第W章 家庭科で育つ力
- 1 衣食住をいとなむ力
- (1) 衣食住の仕事をする力 /(2) 資源とかかわる力 /(3) 人とかかわる力 /(4) 家の仕事の実践状況 /(5) 家の仕事の実践意欲
- 2 選ぶ・決める力
- (1) 食生活に関する意思決定 /(2) 衣生活に関する意思決定 /(3) 住生活に関する意思決定
- 3 人とかかわる力
- (1) 幼児とかかわる力 /(2) 家族・地域社会の人々とかかわる力 /(3) 人とかかわる力への価値観の影響 /(4) 人とかかわることの重要性の認識
- 4 家庭の働きと家族についての意識
- (1) 家庭生活の働きとして大切なこと /(2) 家族とのつながりへの希望 /(3) 家庭を明るく・楽しくする方法 /(4) 家に帰ったときの気持ち
- 5 価値観
- (1) 生活にかかわる価値観の構造 /(2) 生活にかかわる価値観の形成状況
- 資料 家庭生活についてのアンケート
はじめに
近年、日本人の家庭生活や家族の在り方についての意識の変化は著しい。生活環境や家庭生活の変化、人々の意識の変化が、子どもたちの発達や意識、行動に与えるさまざまな影響について、今日大きな問題となっている。科学技術や情報技術の進展が進む中で、子どもたちの生活技能の低下や価値観の変化を嘆く人も少なくない。
家庭科教育は、子どもたちが自分たちの生活を見つめ、見直し、よりよく生きるための力を育てることをねらいとしている教科である。平成10年に告示された新学習指導要領以降、小・中・高等学校の家庭科は、男女共同参画社会の推進、少子化、高齢化への対応を考慮して、家庭の在り方や家族の人間関係、子育ての意義などの内容が、一層充実されるようになった。家庭科教育が子どもたちの生きる力を育てる教科として真に効果をあげるためには、子どもたちの生活技能の実態や生活時間・消費生活などの自己管理能力、家族や家庭の在り方についての意識、価値観などの実態を把握することは緊急の課題である。
本書は、日本家庭科教育学会が、現代の子どもたちの家庭生活の意識と実態を知ることを目的として2001年に行った全国調査の結果を報告し、子どもの実態に即した家庭科教育のための提案を行うものである。この調査は、全国270校、小学校4年、6年、中学2年、高校2年生11,000名を対象とした大規模なものであり、男女別、学年別の結果からは、発達と教育の在り方に貴重な課題を提起している。
日本家庭科教育学会は、1982年に小学校2年、4年、6年、中学校2年、高等学校2年生約1万名を対象として「家庭生活についての調査」を行い、日本家庭科教育学会編『現代の子どもたちは家庭生活をどう見ているか』(家政教育社 1984)『現代の子どもたちは家庭生活で何ができるか』(家政教育社 1985)を刊行している。今回の調査はちょうど20年後にあたり、調査の一部を20年前の結果との比較も行いながら、現代の子どもの生活の新しい実態と特徴を示すことができた。
また今回の調査では、家庭科の学習経験が、児童生徒の家庭生活の実態や、価値観の形成にどのような影響を与えるかの検討を行った。その結果、「家庭科」を学んで、「できるようになった」「わかるようになった」「気づくようになった」「考えるようになった」ことが、「あった」と答えた児童・生徒たちが、生活行動や生活意識の面でよい傾向を示していることが、明確に示されたのである。ある程度予想したとはいえ、この家庭科の学習効果を示す結果は家庭科教師に自信と勇気を与えるものといえる。
日本家庭科教育学会は、この家庭科の学習効果と家庭科教育の意義を広く教師や保護者に知ってもらいたいと考え、本書を刊行するものである。
第T章では、子どもをとりまく過去20年間の家庭環境の変化と2001年に実施した全国調査の概要を述べ、あわせて1982年の調査についても紹介する。第U章は、全国調査の結果から、現代の子どもたちの家庭生活の実態を浮かび上がらせる。第V章は、小・中・高校それぞれの学校段階でいまどのような家庭科教育が行われているのか、全国の家庭科教育学会会員が行っている家庭科の授業実践の中から、子どもたちが、どのように「できる」「わかる」「気づく」「考える」学習をしているかを紹介していく。第W章は、全国調査から、家庭科の学習効果について明らかになった結果をまとめて紹介する部分である。児童・生徒の環境に配慮する行動、意思決定の力、人とかかわる力などは、家庭環境や、地域環境、学校規模などの影響はみられなかったのに対して、家庭科での学習効果が、みごとに表れていることを、読み取っていただきたいと思う。
この研究は、平成13年度から平成15年度にわたって交付を受けた科学研究費基盤研究(A)(1)13308005『児童生徒の家庭生活についての意識・実態と家庭科カリキュラムの構築』(研究代表者 牧野カツコ)に基づいて行われたものである。平成14年度より「家庭科カリキュラム委員会」も別途発足させ、家庭科カリキュラムの構築にあたっての考え方について精力的に研究討議を重ね、理論的な整理を行ってきた。カリキュラム研究委員会の研究成果は、今後同じく明治図書出版から『衣食住・家族の学びのリニューアル―家庭科カリキュラム構築の視点』として刊行される予定である。われわれの研究成果は、すでに4冊の報告書としてまとめられているが、ここまでの成果は、3年間にわたり、全国の9地区で調査の実施とまとめに尽力された多くの日本家庭科教育学会会員、報告書の執筆に携わった地区評議員をはじめとする全国調査委員会委員の努力なしには実現しなかったことである。本研究に参加された多くの会員、調査に協力してくださった全国の小・中・高校の校長先生、多くの家庭科とその他の先生方、児童・生徒の皆様に、心からお礼を申し上げる次第である。
2004年5月
日本家庭科教育学会会長・お茶の水女子大学大学院教授 /牧野 カツコ
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- 明治図書