- はじめに 本書の活用の仕方
- T 自分なりの価値を求めて楽しく表現するために
- 1 図工・美術への好感度の変化
- 2 評価の高い絵
- 3 線遠近法
- 4 児童画の写実性
- 5 「画家」のイメージ
- 6 テーブルを囲む家族
- 7 下手なリンゴ
- 8 子どもの描画発達
- 9 生涯にわたって美術と親しむ
- 10 絵画学習の基礎基本
- 11 絵画の授業
- U 基礎基本を育てる絵画の授業プラン集
- 1 線をいかした表現−1
- 事前の指導/ 授業−1/ 授業−2/ 授業−3/ 評価
- ラクガキ大作戦/ 音楽に合わせて/ クレヨンの散歩道/ らくがき交換ゲーム/ コンピュータの中に住む生き物−1/ 線を見つけよう/ コンピュータの中に住む生き物−2
- 2 線をいかした表現−2 物語から
- 授業−1/ 授業−2/ 評価
- 魔法のチョーク/ イメージトレーニング/ ふでペンであそぼう/ ○△□のやさしいかいじゅう
- 3 水彩絵の具との出会いを楽しむ
- 授業−1/ 授業−2/ 評価
- どうぶつの足あと/ おしゃれなシマウマ/ 色のようせい/ ふしぎな穴
- 4 ファンタジーの世界で
- 授業−1/ 授業−2/ 授業−3/ 評価
- 不思議な足あと/ すてきなじゅうたん/ 魔法のステッキ/ 魔法の旅/ 不思議な島の地図/ 不思議なお城
- 5 思いをあらわす
- 授業−1/ 授業−2/ 授業−3/ 評価
- 気持ちをこめて/ どんな感じ?/ 色のイメージ/ つづきの形/ 形を見つけよう/ イメージ自画像
- 6 抽象的な表現
- 授業−1/ 授業−2/ 授業−3/ 評価
- 4本の線/ はね返りクレヨン/ ラクガキから/ 4つの形/ 技法の宝箱/ 光の国の生長する植物/ 光のかけら/ 「光の国の生長する植物」の続き
- 7 コラージュによる表現
- 授業−1/ 授業−2/ 授業−3/ 評価
- 切ってはって/ カラーコラージュ/ いろんな素材で/ 写真であそぼう(シフティング)/ 意外なイメージ/ ボタン人間/ 見かけはコワイが…
- 8 風景をかく
- 授業−1/ 授業−2/ 授業−3/ 授業−4,5/ 評価
- なつかしい場所/ なつかしい風景/ 昔の話を聞こう/ 遠近表現を考えよう/ 構成を考えよう/ 色の妖精・色のぬり方
- 9 絵画の枠を広げる表現
- 授業−1/ 授業−2/ 授業−3,4/ 評価
- 考えないでかこう/ オートマティズムに挑戦しよう/ アクションペインティングに挑戦しよう/ 絵をかく道具をつくろう/ いろんなものにかいてみよう/ 画面の形/ レリーフ・ペインティング
- あとがき
はじめに
子どもたちが生涯にわたって美術とのかかわりを深めていけることを願っています。
たとえ今,1枚の「上手な絵」をかいたとしても,大人になって美術館に足を運ぶこともないというのでは寂しいことです。小学校・中学校における子どもたちの造形経験が,学校教育の中だけで閉じられてしまうのではなく,将来,文化的な生活の基礎となってはたらくように指導する必要があるのではないでしょうか。
そのためには,美術が楽しく,自分とかかわりの深い活動であるということを感じ取れるようにすることが大切です。しかし,自由に伸びやかにえがいていた子どもたちが,絵に自信をなくし寂しい表現しかできなくなるということはしばしば指摘されているところです。子どもが自分の絵に自信をなくしていくのは,「絵は上手くなければならない」といった思いにとらわれてしまうからではないでしょうか。上手い絵とは,一般的には写実的・再現的によくかかれた絵のことと考えて差し支えないでしょう。写実性を規準として子どもの絵を上手い・下手と判断しがちな私たちの価値観自体を問い直すことがまずは重要であると思います。そして,子どもたちが失敗をおそれず自信をもって表したいと思うものを表すということ,つまりは伸びやかな自己表現を保障していく必要があると思います。
しかし,子どもの自己表現を安易に語ることへの批判もしばしば耳にするところです。つまりそもそも自己表現を伴わない表現はありえないのだから,自己表現を目標にした美術教育では子どもの表現力を育てることはできないといったものです。果たしてそうでしょうか。結果として作品に自己が投影されることはあっても,自ら進んで楽しく取り組んだものでなければ,真に自己を表現したとはいえないのではないでしょうか。また,楽しく自己表現をしておればよいというのでもなく,よりよく自己を表現するための基礎的基本的な技術の取得が必要となってくることはいうまでもありません。
本書では,写実的に上手くかくのではなく,子どもが自分なりの価値を求めて楽しく自己表現を行っていくことができるような授業プラン〔単元計画〕を紹介します。授業プランでは,ひとつの単元に複数の課題を組み込み,子どもの意識の連続性・発展性を保障すること,ワークシートを用いて描画を行う上で最低必要な造形要素・技術の習得を図れることなどを重視しました。また単元ごとに評価基準表を設け,指導や総括評価に活かせるようにしました。
子どもの自己表現を支え,子どもが生涯にわたって美術とかかわっていけるような指導のあり方について,少しでも参考にしていただければ幸甚です。
2005年6月 /初田 隆
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- 明治図書