- まえがき
- Part.1 子どもと教育の現在
- ◆子どもの現在
- ◆学校と教育の現在
- ◆親と教師の現在
- Part.2 子どもと新しい図画工作
- ◆子どもの願い
- ◆図画工作の改定の特徴
- 造形遊びのひろがり
- 子どもの活動のひろがり・つながり・深まりを可能にする
- 新学習指導要領のその他のポイント
- @ 新しい教科目標
- A 目標と内容が二学年まとめて示された意義
- B 低学年のポイント
- C 中学年のポイント
- D 高学年のポイント
- ◆新しい図画工作の可能性
- 新学習指導要領をとらえる視点
- 大人がかわらなければ
- 付録 改訂小学校学習指導要領/ 図画工作
まえがき
子どもたちは、自分にとってのかけがえのない今を、自分の感じ方や考え方、表現の仕方などを頼りに、自分たちの世界を駆けめぐるように生きたいと願っていると思います。そして、自分がかけがえのない〈私(自分)〉であることを実感しながら生きることを楽しみにしているとも思います。もちろん、そのような願いと楽しみをもって生きようとしている友だちとともにするとき、そのことがはじめて可能になります。なぜならば、子どもたちは、友だちという他者との豊かなかかわり合いがあってはじめて〈私(自分)〉になれるからです。つまり、子どもたち一人一人の心身が分けられることのない生きる根拠となる身体性を働かせた自分の感じ方や考え方、表現の仕方などをもとに新しい意味をつくりながら相互にかかわり合うことによって、互いがかけがえのない〈私(自分)〉であることをわかり合えるのです。
新しい学校と教育は、このことを実現することをめざしているものであるといえるでしょう。なぜならば、子どもたちは、自分のことがわからなくなっていたり、したがって、他者である友だちのこともわからなくなっていたりすることが、今日のさまざまな問題の状況をつくりだしているといえるからです。
いずれにしても、このような教育を実現するためには、子どもの教育にかかわろうとする私たちは、まず、従来の学校や教育は、客観性や合理性などを重視するといういわゆる大人の論理に基づくものであって、常に、それに基づく基準などをもったものとなっているということを自覚する必要があるといえるでしょう。そして、なによりも、大人の論理ではない、子ども一人一人の身体性によるそれぞれの〈感じる―考える〉を働かせて思いのままに行為(表現)するという子どもの論理を理解しなければならないでしょう。つまり、子どもの論理の世界に降り立つ必要があるでしょう。大人の論理がつくりだした世界では、子どもたち一人一人の論理は生かされにくいのです。つまり、子どもたち一人一人の感じること、考えることなどは、大人の論理に合ったもの、例えば、表現方法などに合ったものしか立ち表せないことになります。したがって、子どもたちの〈私(自分)〉の多くの感じ方や考え方などが隠されてしまうことになり、子どもたちは、常に互いの〈私(自分)〉の一部だけを表しながらかかわり合うことになり、相互理解は成り立たなくなるでしょう。となれば、子どもたちは、満たされない気持ちや不安感をもちつづけることになるとともに、他者である友だちのことはわかりえないことになるでしょう。つまり、他者の痛みや悲しさなどがわからないということになります。
私たちは、以上のような主旨から、可能な限り子どもの論理まで立ち返りながら、子どもたちと私たち大人たちの現在、教育の現在の意味をとらえかえし、それとのかかわりで新しい教育をとらえることが重要であるとの認識に立って、新しい教育と図画工作の可能性を語るかたちで表現しました。
平成十一年五月 /西野 範夫 /八田 慶子 /二瓶 真理子
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- 明治図書