- まえがき
- T 子どもと新しい教育のねらい
- §1 子どもと新しい教育
- §2 子どもと新しい図画工作
- U 子どもと新しい図画工作の表現世界
- §1 子どもと新しい図画工作の成り立ち
- §2 子どもの新しい図画工作の成り立ちの要点
- 1 子どもの論理としての目標
- (1) 子どもの論理を明確にした「教科目標」
- (2) 子どもの表現の連続性を受け止める「学年目標」
- 2 子どもの論理が生きる新しい内容世界
- (1) 子どもの論理の総合性・連続性を受け止めるゆとりの「内容世界」
- (2) 子どもの学びが生きる新しい「内容世界」
- §3 子どもと新しい図画工作のポイント
- 1 新しい目標の成り立ち
- (1) 教科目標
- (2) 学年目標
- 2 内容の成り立ち
- 3 新しい内容のポイント
- (1) 子どもからのアプローチ「造形遊び」
- (2) 子どもからのアプローチ「絵や立体,つくりたいものを表す」
- 4 子どもの新しい意味をつくりだす「鑑賞」
- V 子どもと教育の現在
- §1 子どもの現在と論理
- §2 私たち大人の現在
- W 子どもと新しい図画工作の理解と実際
- §1 図画工作科の目標
- §2 第1学年及び第2学年の目標と内容
- 1 第1学年及び第2学年の目標
- 2 第1学年及び第2学年の内容
- 3 学習活動例
- ▲第1・第2学年の活動例(1)
- ▲第1・第2学年の活動例(2)
- 4 第1・第2学年の年間学習活動プラン例
- §3 第3学年及び4学年の目標と内容
- 1 第3学年及び第4学年の目標
- 2 第3学年及び第4学年の内容
- 3 学習活動例
- ▲第3・第4学年の活動例(1)
- ▲第3・第4学年の活動例(2)
- 4 第3・第4学年の年間学習活動プラン例
- §4 第5学年及び6学年の目標と内容
- 1 第5学年及び第6学年の目標
- 2 第5学年及び第6学年の内容
- 3 学習活動例
- ▲第5・第6学年の活動例(1)
- ▲第5・第6学年の活動例(2)
- 4 第5・第6学年の年間学習活動プラン例
- X 子どもと新しい図画工作の指導計画
- Y 子どもの図画工作の学び
- 1 子ども観の転換と学び
- 2 子どもの遊びの世界と学び
- 3 子どもの相互作用や相互行為による学び
- 4 子どもの意味生成の学びと教師のかかわり
- 付録
- 学校教育法施行規則(抄)
- 小学校学習指導要領「総則」
- 小学校学習指導要領「図画工作」
まえがき
子どもたち一人一人は,自分にとってのかけがえのない今を,自分の感じ方や考え方,表現の仕方などを頼りに,自分たちの世界を駆けめぐるように生きたいと願うとともに,自分は,他の誰ともとりかえることのできない,かけがえのない〈私(自分)〉であることを実感しながら生きることを楽しみにしていると思います。
このことは,自分と同じように,それぞれの自分の願いと楽しみをもって生きようとしている友だちとともに笑顔で学び合うことができたときはじめて実現することができるのではないでしょうか。なぜならば,子どもたちは,友だちという〈他者〉との豊かなかかわり合いを続けることによってはじめて〈私(自分)〉となれるとともに,〈私(自分)〉であり続けることができるからです。つまり,子どもたち一人一人の生きる根拠となる心身が分けられることのない身体性を働かせた自分の感じ方や考え方,表現(行為)の仕方などをもとに,友だちをはじめとする自分をとりまく世界にかかわり,そこに新しい意味をつくりながら相互にかかわり合うことによって,お互いが,かけがえのない〈私(自分)〉であることが実感できるようになるのです。新しい学校と教育は,常にこのことを実現することをめざしているものでなければならないといえるでしょう。
ところが,今日,子どもたちをとりまく世界,すなわち,社会や学校が,子どもたちが,自分のかけがえのなさである可能性としての〈感じることや考えること,表現すること〉の能力(よさ)を発揮してかかわり合うことをさまたげているものがあって,子どもたちは,〈私―自分〉のことがわからなくなっていたり,したがって,〈他者〉である友だちのこともわからなくなっていたりすることが,今日の「いじめ」をはじめとするさまざまな問題の状況をつくりだしているといえるからです。
いずれにしても,このような子どもたちの論理による教育を実現するためには,まず,子どもたちの教育にかかわろうとする私たちは,従来の学校や教育の,そして,私たち自身の問題性に気付く必要があるのです。従来の学校や教育は,合理性や効率性,客観性などを重視する大人の論理に基づいて成り立ってきたものであって,常に,それに基づく基準などをもち,それを子どもたちに押し付けがちになっていることを自覚する必要があるといえるでしょう。そして,なによりも,子どもたち一人一人の身体性によるそれぞれの〈感じる,考える,表現する〉を働かせて思いのままに行為・表現するという子どもの論理の世界の成り立ちを理解しなければならないでしょう。
それには,子どもの論理の世界に降り立ち,大人の論理がつくりだした世界が,いかに,子どもたち一人一人の論理が成り立ちにくいものであるかを肌(身体)で感じるようにしなければならないでしょう。もし,私たちが従来の論理によって,子どもたちの学びに関与するならば,子どもたち一人一人の感じること,考えることなどのなかの,大人の論理に合ったもの,例えば,表現方法などに合ったものしか立ち表せないことになり,子どもたちの〈私(自分)〉の多くの感じ方や考え方などが隠されてしまうことになります。
そして,子どもたちは,常に互いの〈私(自分)〉の一部だけを表しながらかかわり合うことになり,相互理解は成り立たなくなるでしょう。となれば,子どもたちは,〈私(自分)〉であることの意味を実感することができず,満たされない気持ちや不安感をもちつづけることになるとともに,かけがえのない〈他者〉である友だちのこともわかりえないことになるでしょう。つまり,〈他者〉の痛みや悲しさなど,もちろん,喜びもわからないということになります。
以上のような主旨から,可能な限り子どもの論理まで立ち返りながら,子どもたちと私たち大人の現在,教育の現在の意味をとらえ返し,それによって,子どもの〈生きる〉を支援する新しい教育の本意をとらえることができるように留意しながら本書を著しました。
1999年10月末日 上越教育大学教授 /西野 範夫
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- 明治図書