- まえがき
- 第一部 語彙指導の方法的展開
- 第1章 語彙指導の枠組み
- 語彙指導の現状/ 語彙指導不振の原因/ 「語彙指導」=「取り立て指導」か/ 枠組みの見直しを/ 新しい枠組みから見た語彙指導/ 語彙指導の方法
- 第2章 語彙指導の方法 ──現在までの実践例の検討──
- 第1節 取り立て指導(第1象限・第4象限)
- A 語彙論の指導(第1象限)
- @児言研/ A教科研/ B安達隆一/ C福沢周亮/ D田近洵一・宮腰賢
- B 各種基本語彙の指導(第1象限・第4象限)
- @児言研・52/ A福沢周亮
- C 言語感覚を磨く指導(第4象限)
- @大村はま/ A浜本純逸/ B倉沢栄吉・青年国語研究会
- 第2節 読解における指導(第2象限・第3象限)
- A 取り出し指導(第2象限・第3象限の接する線上)
- @斎藤喜門/ A宮島達夫/ B川上繁
- B 作品の語彙構造に着目した指導(第2象限)
- @甲斐睦朗/ A須田実/ B菅井建吉・湯沢正範/ C塚田泰彦
- *コラム(1) 二五分の読書で一千語が自然に覚えられる
- 第3節 表現における発想指導・他(第1象限・第4象限の接する線上)
- @浜本純逸/ A田近洵一
- *コラム(2) あなたは語彙指導をどう考えているか
- 第二部 語彙指導の歴史的展開
- 第1章 語彙指導の歴史的展開と現在
- 第1節 語彙指導の考え方の背景にあるもの
- 第2節 研究・実践の枠組み
- 第3節 語彙指導研究の展開の構図
- 第2章 語彙指導の認知論的アプローチ
- 語彙習得における質と量の問題/ 語彙習得と語彙のネットワーク/ 改善の焦点
- *コラム(3) 意味素性分析法で楽しいことば比べをしよう
- 第3章 語彙指導の新しい実践的枠組み
- 第1節 自然な語彙の習得に近づけて
- 第2節 「意味マップ」の楽しみ
- 第3節 新しい語彙指導の単元とは
- 第4章 語彙指導の新しい実践
- 第1節 単元「わたしたちの生きる地球」の実践
- 単元観/ 教材名/ 目標/ 単元展開/ 「一秒が一年をこわす」の要旨/ 「一秒が一年をこわす」の文章および語彙構造/ 指導の実際/ 実践を終えて
- 第2節 意味マップを用いた日記指導
- *コラム(4) 「論理」に関わる語彙はどう教えるのか
- あとがき
まえがき
語彙指導に関するこれまでの出版物は、一つの方法・立場を説明してこれに実践例を付して提案するというスタイルで書かれたものがほとんどである。また、わが国のこれまでの語彙指導の方法に関する成果を整理し、その全貌を明らかにしようという試みも十分には行われていない。
わが国のこれまでの語彙指導の方法に関する成果について、その全貌を視野に納めながら自分の実践を開拓したいという願い、これまでの成果を踏まえて実践を試みたいという願いは、多くの国語教師に共通のものであろう。本書は、このような願いに応えようとした一つの試みである。
第一部では、現在どのような考えに基づいてどのような実践が行われているかについて、広く文献資料を収集してその典型と見られるものを分類整理した。その際、「取り立て指導/ 読解、表現における指導」という従来の枠組みを見直し、「体系的―機能的/ 選定語彙―作品語彙」という新しい枠組みを提案した。その上で、わが国の語彙指導の現状を一つの全体像として視野に納めるよう努めた。また、一つ一つの典型例の紹介とその批判も行った。
第二部では、語彙指導がどのような考え方の展開の結果、現在の多様性を実現することになったのかという視点から歴史的展開の諸相を検討した。そして、それを踏まえて、語彙指導についての筆者らの基本的な考え方とそれに基づく指導方法を提案した。本書の主張は、認知論的アプローチによる語彙指導が今後の実践研究をリードするのではないかということである。具体的には、語彙指導を「学習自身の既有のことばの体系を活用して、その学習者の意味のネットワークに新たな変容をもたらすこと」と定義し、「意味マップ法」を学習活動の中心にすえた単元学習を提案している。
さらに、語彙指導の焦点と目されるいくつかの内容(「読書」「意味素性分析法」「論理に関わる語彙」など)をコラムとして取り上げ、新しい切り口を示してある。
第一部第二部いずれも、現在の語彙指導の成果と課題を明確にしてこれを実践上に適切に位置づけることが目的である。本書が、語彙指導に対する共通理解を深め新しい語彙指導の方法を開拓するきっかけとなれば幸いである。
本書に対する忌憚のないご意見、ご批判をお願いしたい。
一九九八年(平成一〇年) 六月 /塚田 泰彦 /池上 幸治
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- 明治図書