国語科新単元学習による授業改革6情報活用能力を育てる新単元学習

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情報活用能力を育てる新単元学習の年間指導計画/聞く力・話す力を育てる/映像から言葉を育てる/総合的な学習活動を取り入れる/評価の課題。


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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-656806-5
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
中学校
仕様:
A5判 216頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
序章 なぜ新単元学習で情報活用能力を育てることができるか
1 「情報」とは?
2 情報化社会における国語科新単元学習
3 新単元学習でつける学力──「情報力」の観点から
4 新単元学習で何ができるか
5 なぜ新単元学習が情報活用能力を養うのに有効か
T 新単元学習の年間指導計画への位置づけ
1 年間学習指導計画
2 学年の発達段階を考える
3 新単元学習のテーマ
4 新単元学習の年間指導計画と今後の課題
U 聞く力・話す力を育てる
一 学習の手引きを活用した話し方の指導
1 話し方・聞き方訓練
2 話すことに関する学習の手引きの実例
二 単元「言葉上手が消えていく」(一年)
── 実際に調査研究しながら情報としての言葉について考える ──
1 単元の設定に関して
2 指導の過程
3 単元の指導を終えての考察
三 単元「日本ってどんな国?」(三年)
── 音声言語による語彙習得のために ──
1 単元の設定に関して
2 指導の過程
3 単元の指導を終えての考察
V 映像から言葉を育てる
一 単元「出会い──私をめぐる人々」(二年)
── 文学作品と映像とを組み合わせた指導 ──
1 単元の設定に関して
2 指導の過程
3 単元の指導を終えての考察──映像を国語の授業に活用することの意義──
二 単元「一枚の写真から」(三年)
── 映像を言葉で表現する ──
1 単元の設定に関して
2 指導の過程
3 生徒の作品より──単元の学習成果としての組写真集
4 おわりに
W 総合的な学習活動を取り入れる
一 単元「王朝びとの見た自然」(三年)
── 新聞作りを通して意欲的に古典学習に向かわせる ──
1 単元の設定に関して
2 指導の過程
3 単元の指導を終えての考察
二 単元「平和を考える」(二年)
── 戦争を語り継ぐことにより平和な日本・世界に目を向ける ──
1 単元の設定に関して
2 指導の過程
3 おわりに──単元の冊子より
三 単元「そのとき、私は」(二・三年)
── 逆境に立ち向かう人の姿から将来の生き方を探る ──
1 単元の設定に関して
2 指導の過程
3 単元の指導を終えての考察
X 新単元学習における評価のあり方と課題
1 新学力観で求められている評価
2 新単元学習における評価の実際
3 新単元学習における評価のあり方──今後の課題として
解説

まえがき

 高度に情報化が発達した現在、この情報化社会にどのように対応していくかという能力はこれからの社会を生きていく上でどうしても身につけなければならないものであろう。国語科では、この情報化社会の進展にともない「情報処理能力」を養うことが課題とされてきたが、近年では情報を「処理」するだけにとどまらず「活用」すること、すなわち「情報活用能力」を育てることに重点が移りつつあると言えよう。情報化社会を主体的に生きるためには、新たな情報の発信者となることが要求されるのである。

 ここで「情報処理」という概念は大きく二つに分けられる。一つはコンピュータを始めとする情報機器を有効に使いこなすことであり、もう一つは言語や文字、映像といった媒体を通してその内容を把握することである。後者に関しては国語科が最も関わるべき部分であり、子どもを育てる上でその責を担う部分ではないか。それ故に国語科という教科を広く情報科ととらえることも可能であるという見方もできる。ただし、国語科で育てる能力としては、情報を理解する(処理する)にとどまらず表現する(発信する)ことまでも視野に置いて、「情報活用能力」として位置づける必要がある。しかし、従来の国語科の授業に見られた教科書中心の理解指導や表現指導で十分な情報活用の能力が備わるであろうか。それには疑問符を打たざるを得ない。そこで、情報活用能力を育てる有効な学習として新単元学習の実践に取り組んできたのである。

 私は一九八三(昭和五八)年に神戸大学教育学部附属住吉中学校(現神戸大学発達科学部附属住吉中学校)に赴任し、そこで初めて単元学習と出会った。国語人として不勉強なことであるが、それまでは単元学習がどのようなものかも自分の中では不明であったし、先達である大村はま氏のお名前も「聞いたことがある」という程度のものであった。当時の附属住吉中学校では、神戸大学の浜本純逸氏の強い薦めもあり、国語科の取り組みとして、総合単元学習という名称で単元学習を始めた頃だと聞いている。単元学習の右も左もわからない私が、『大村はま国語教室』の全集を教科書として勉強会を始めたのが単元学習との関わりの第一歩である。浜本氏を交えて毎月一回のペースで続けたこの勉強会が、私にとって大きな転機であった。

 一九八四年、附属住吉中学校は「大村はま国語教室の会」の西日本拠点校となり、一一月に「第一回総合単元学習授業研究発表会」を開いた。この授業研究発表会は一九九五年一月の阪神・淡路大震災による影響で中断するまで一一回を数えた。第一〇回までは倉澤栄吉先生が全て参加され、先生からいただいたご指導ご助言が大きな糧となったことは言うまでもない。また、長谷川孝士、野地潤家、湊吉正、田近洵一、大槻和夫、桑原隆の諸氏も参加して下さり、この授業研究発表会でご指導いただいたことは有形無形の資産となっている。

 このように総合単元学習の実践を重ねていくにつれて、次第に問題意識として芽生えてきたのが音声言語面での指導と情報活用面での指導の不十分さという点であった。とくに教科書教材を中心にし、旧態依然として行われていた国語の授業が時代の流れに即していないのではないかと感じはじめたのが、単元学習を始めて五年程たった頃であった。コンピュータとまではいかなくても、教室を見回すとテープレコーダ、テレビ、ビデオ、OHP、OHVなどいろいろな機器がある。これらを有効に使って単元を構成することができないかと考えるようになったのである。これらの機器を駆使して映像の言語化を図ろうと考えたのもちょうどこの頃であった。

 折しも一九九一(平成三)年、全国大学国語教育学会にシンポジウム発表者として参加する機会を得、その場所で田近洵一氏から「教科書の文章は情報か否か」と質問されたことにより、自分の内では「国語科と情報」ということを強く意識するようになった。私の持っている答えは、「教科書の文章は子ども一人ひとりが課題を意識し解決するための情報の一つであって、教室全体で共通のある解答を導き出すための単なる教材ではない」ということになる。そしてこれが一人ひとりの学習を大切にしようとする新単元学習の発想につながるものであると言えよう。今考えると、「情報活用能力を育てる新単元学習」のスタートはこの時点にさかのぼることができる。

 われわれ実践家にとって、理論を構築することももちろん大切ではある。しかし、その理論に裏打ちされた実践によりどれだけ子どもの学習力の定着が実証できるかというところに価値があると常々考えている。

 序章に挙げた「情報活用能力」については、中学校現場での情報教育という考え方がどうも情報機器を扱う技能面に限定されているところへ一石を投じたかったのである。情報の内容そのものをハードの部分ではなくソフトの部分でどのように処理するか、これを指導することこそ国語科の使命ではないかと考え始めたのがきっかけであった。ただ、そのためには従来の一斉学習や教科書中心の学習では限界が感じられ、ダイナミックな学習展開や一人ひとりの学習への対応が可能な新単元学習で実践しようといった提案となってまとまったものである。

 第一章では新単元学習の年間学習指導計画への位置づけについて述べた。新単元学習は、従来の教科書単元の配列に即した学習指導とは、言ってみれば異質なものであろう。しかし、それを年間指導計画へ位置づけるとき、特にそれまでの配列の中にあった何かを削るわけではない。それらを含んだ上で、さらに付加価値をもった置き換えと考えている。このような発想の下に、新単元学習で一年間を通すことを目指していきたいと考えている。

 第二章から第四章までは実践の報告である。第二章では情報活用の上で欠くことのできない音声言語の能力に目を向けた新単元学習の実践を、第三章では情報の言語化を図るとき、今日の子どもたちが最も頻繁に触れているであろう映像を題材とした新単元学習の実践を紹介している。この映像を学習材とした学習活動は、新単元学習の特徴の表れた学習であるとともに、新しい国語学習の方向でもあると考える。

 ここで、第四章の総合単元学習について少し説明を加えておく。「総合単元」という言葉そのものは、新単元学習が系統的に確立していく過程で、神戸大学附属住吉中学校での実践として用いていたものである。ここでは「読む・書く・聞く・話す」の四つの活動の総合、さまざまなジャンルの学習材の総合、一斉学習から個別学習までの学習方法の総合などの意味を含んでいた。ここでいう総合単元も、その流れに沿っているものであるが、新単元学習の内容の一つとして、右に挙げたそれぞれを念頭においた総合的な学習展開を試みた単元として位置づけた。新単元学習の最も新単元学習らしい展開であるととらえている。

 第五章は評価のあり方に関して述べた。新しい学力観が論じられ、近年は評価に関してもこれまで以上に論じられる機会が多くなってきているように思われる。新単元学習における評価として、ペーパー・テストはそぐわない。では、どのようなものが望ましいのであろうか。難しい課題ではあり、未だ十分に論じられていない課題ではあるが、現時点での考えを述べて、新単元学習の評価について論じられる緒としていただければ幸いである。

 本書の内容は、これまで研究の成果として残してきたものに加筆してまとめたものである。いささか面映ゆい点もないではないが、ご一読いただき、ご批判・ご教示いただければ幸甚である。

 神戸大学発達科学部附属住吉中学校で実践が始められた総合単元学習は、その後も実践を重ね現在の新単元学習に昇華してきた。その過程の中で受けた数々の刺激が本書をまとめる動機となったとも言える。その刺激の中でも、前述の総合単元学習授業研究発表会で毎回ご指導下さった日本国語教育学会会長の倉澤栄吉氏、月例の大学附属共同研究会で多くの興味あるご助言、ご示唆を下さった浜本純逸、井上一郎両氏には特に感謝の意を捧げるものである。また、共に単元学習の実践に取り組んだ附属住吉中学校国語科の諸氏からも多くの教えをいただいた。重ねて感謝する次第である。そして、もう一つ忘れてはならないことがある。このように新単元学習の実践を続け、まとめることができたのは、何と言っても附属住吉中学校の子どもたちがいたからこそである。この子どもたちに最大の感謝の意を表したい。

 なお、本書の刊行にあたり、明治図書企画開発室の江部満氏には甚大なるご配慮をいただいた。ここに記して、心より感謝申し上げたい。


  一九九八年二月   /唐 雅行

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      明治図書

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