- はじめに /前田 真証
 - 第一部 対話能力の育成を目指して
 - ─基本的考え方を求めて─ /山元 悦子
 - 第一章 対話の価値の発見
 - 第一節 社会的行為としての対話
 - 第二節 教室における対話能力指導の重要性
 
- 第二章 対話行為の心理過程
 - 第一節 対話隣接対の心理過程
 - 第二節 対話展開の過程─親睦のための対話の場合─
 - 第三節 対話能力の発達
 
- 第三章 対話能力の向上をとらえる指標
 - 第四章 対話能力を育成するために
 - 第一節 対話能力を育てる教室の条件
 - 第二節 対話能力育成の指導計画
 - 第三節 対話能力を育てる学習指導への手かかり
 
- 第二部 対話能力育成への実践事例
 - 第一章 対話能力の根底を耕す学習指導の実際
 - 第一節 日常的継続的な指導事例
 - 【実践1】「よい聞き手になろう」(全学年) /北谷 真司
 - 1 対話能力を支える日常的継続的な指導について
 - 2 指導の実際
 - 3 実践のまとめ
 
- 【考察】 /前田 真証
 - 1 実践の性格について
 - 2 指導目標、指導の実際について
 
- 第二節 対話の価値に気づかせる指導事例
 - 【実践2】単元「夢を語ろう」(中学一年) /北谷 真司
 - 1 夢を語り合うこと(単元の目的)
 - 2 初めての対話学習に向けて
 - 3 対話学習のための手だて
 - 4 指導の実際
 - 5 実践を終えて
 
- 【考察】 /中谷 雅彦
 - 1 単元の性格について
 - 2 単元目標について
 - 3 指導計画、指導の手だてについて
 
- 第二章 対話能力そのものを育てる学習指導の実際
 - 第一節 社会的通じ合いのための対話の学習指導
 - 【実践3】単元「どうぞよろしく─もっと知り合おう、仲良くなろう─」(中学一年) /末永 敬
 - 1 単元設定の理由
 - 2 単元の目標と学習計画
 - 3 指導の手だて
 - 4 学習指導の実際
 - 5 実践のまとめ
 
- 【考察】 /山元 悦子
 - 1 単元の性格について
 - 2 どのような対話が営まれたか─対話に選ばれた話題と対話展開の弾みとの関係について─
 - 3 単元の計画、指導の手だてについて
 
- 【実践4】単元「おすすめの場所について対話をしよう」(中学一年) /西村 雄大
 - 1 単元設定の理由
 - 2 単元の目標と学習計画
 - 3 指導の手だて
 - 4 指導の実際
 - 5 実践のまとめ
 
- 【考察】 /前田 真証
 - 1 単元の性格について
 - 2 単元目標について
 - 3 学習計画、指導の手だてについて
 - 4 どのような対話がなされたか
 
- 【実践5】単元「面接での答え方を学ぼう」(中学三年) /西村 雄大
 - 1 単元設定の理由
 - 2 単元の目標と学習計画
 - 3 指導の手だて
 - 4 指導の実際
 - 5 実践のまとめ
 
- 【考察】 /中谷 雅彦
 - 1 単元の性格について
 - 2 単元の目標について─どのような対話能力を育てようとしたか─
 - 3 単元の計画、指導の手だてについて
 - 4 どのような対話がなされたか
 
- 第二節 文化的通し合いのための対話の学習指導
 - 【実践6】単元「あいさつ言葉について考えを深めよう」(中学一年) /相良 誠司
 - 1 単元設定の理由
 - 2 単元の目標と学習計画
 - 3 指導の手だて(対話指導に関するもの)
 - 4 指導の実際
 - 5 実践のまとめ
 
- 【考察】 /山元 悦子
 - 1 単元の性格について
 - 2 単元の目標について─どのような対話能力を育てようとしたか─
 - 3 単元の計画、指導の手だてについて
 
- 【実践7】単元「インタビュー─若者言葉についてどう思いますか?」(中学三年) /石塚 京介
 - 1 単元設定の理由
 - 2 目標と指導計画
 - 3 目標達成のための指導の手だて
 - 4 指導の実際
 - 5 実践のまとめ
 
- 【考察】 /山元 悦子
 - 1 単元の性格について
 - 2 単元の目標について─どのような対話能力を育てようとしたか─
 - 3 単元の計画、指導
 
- 第三章 対話能力を活用する学習指導の実際
 - 【実践8】単元「パソコンで俳句を楽しもう」(中学三年) /小津和 広昭
 - 1 パソコンを利用した、対話による俳句鑑賞の試み
 - 2 単元の目標と学習計画
 - 3 指導の手だて
 - 4 指導の実際
 - 5 実践のまとめと反省
 
- 【考察】 /中谷 雅彦
 - 1 単元の性格について
 - 2 単元目標について
 - 3 単元の計画、指導の手だてについて
 - 4 どのような対話がなされたか
 
- 【実践9】単元「類義語表現辞典をつくろう」(中学三年) /岡井 正義
 - 1 単元設定の理由
 - 2 目標と学習計画
 - 3 目標達成のための手だて
 - 4 指導の実際
 - 5 実践のまとめ
 
- 【考察】 /中谷 雅彦
 - 1 単元の性格について
 - 2 単元の目標について─どのような対話能力を育てようとしたか─
 - 3 単元の計画、指導の手だてについて
 - 4 どのような対話がなされたか
 
- おわりに /前田 真証
 
はじめに
福岡教育大学・三附属中学校は、昭和44年<1969年>以来、共同研究の実績を積み重ねてきた。平成元年度の「学習指導要領」の改訂によって、「音声言語の重視」が提言され丈のを契機に、平成3年度からそれまでの文字言語中心の実践的研究から音声言語教育に踏み出したいとの声が挙がり、何年かの模索の後、やはり対話能力の育成から着実に積み上げていくほかあるまいという結論に至った。そして、昨年(平成8年<1996年>)9月下旬に、福岡・久留米・小倉の各附属中学校において研究発表・公開授業を行ない、このたび本書『共生時代の対話能力を育てる国語教育』をまとめて報告することとした。
私どもが対話能力の育成に取り組むようになった内的要因としては、左に述べる三つが考えられる。
(1)共生時代における教育の拠点の一つとして…自然環境の悪化や国際関係の激変・緊密化は、「共生時代」の言葉を生み、どのような対立をも乗り越えて、手を取り合うことが、標傍されるようになってきた。これは好ましいことであるが、その一方で都市化が進み、社会としての規律・連帯感が失われ、無際限の自己主張がまかりとおることにもなっている。教室においても、状況は同じである。かなりの準備をして授業に臨んでも、果てしなく私語の続く場に直面して、「この子たちには学習集団としての連帯感はあるのか。」と疑いたくなった教師も、少なくないであろう。声なきものの声も聞きとって、絶えず自他の調和をはかって伸びていくのが「共生」だと思われるのに、そうでない事態が教育の場でしばしば見受けられる。しかし、そうした学習者であっても、ひとりひとりに語りかけると、驚くほど従順に耳を傾けようとする。このような場面を振り返ってみて、共生時代における教育の空洞化を防ぎ、授業の中でひとりひとりの生徒と心を通わせる場を確保し、国語の授業を新生させるために、対話に着目することは意味のあることと考えた。(「共生」のとらえ方については、梅原 猛氏の著作『共生と循環の哲学─永遠を生きる』小学館刊、平成8年<1996年>11月20日発行、全318ページに学んだことを盛り込んだ。)
(2)自らの生涯を見据え、自己内対話と相手を求めての対話を繰り返し、絶えず自己修正していく生徒たちを育てるために…今日、国と国との垣根が低くなり、研修・商用・観光などで気軽に外国に出る機会が得られるようになっている。また、国内にいても留学生など外国人と接することが多くなり、さまざまな価値観・生活習慣を理解し合う必要性が増してきている。学習者が大人になって活躍する21世紀には、そのような傾向が一層強まると予測される。生徒達の生涯を考えれば、対話によって人間関係を切り拓く必要性は飛躍的に大きくなるであろう。
しかし、そうであればあるだけ、内に話すべきものを蓄え、相手を求めて対話し、その後もこれぞと思う対話者を胸に宿して自己内対話を続けていき、国家社会における自己の役割を見定め、自らの可能性を実現していくために現在の自己を絶えず吟味し修正していく人が求められてくる。そのような自己形成の契機を国語科の対話指導によって得させたいと念じたのである。
(3)音声言語教育の起点としての対話指導の難しさを自覚するゆえに…音声言語は、もともと形に残りにくく、即決性が求められるため、事前の準備では済まず、教えにくい領域である。また、あまりに話し手・聞き手に密着したものであるだけに、生徒にそれを意識化させ、自覚を高めていくことが難しい。しかも、対象にする以上、教師の側でも自らの話しことばそのものが教材であるという教師自身の自覚も不可欠である。教師が日々教育話法への自己修練を怠っていないかどうか、つねに行動・生き方の裏づけをもった、誠実性のあることばを発し、心から生徒の一言を受けとめようとしているかどうかが、学習者の目にさらされるのである。(野地潤家博士著『話しことば学習論』共文社刊、昭和49年<1974年>12月15日発行、15〜17ページに負うところが大きい。)
このような音声言語取扱い上の困難さがあることにとどまらず、対話指導の場を作ることにはなお特有の難しさが伴っている。戦後、話しことば教育実践においても独創的な授業を作り上げた大村はま氏にしても、
「授業中、40人の子どもたちに学習をさせながら、生徒と二人きりで話をする場面を持つのは、非常に難しい。」(『聞くこと・話すことの指導の実際』<大村はま国語教室第二巻>筑摩書房刊、昭和58年<1983年>3月30日発行、140ページより要約引用したもの。)
と述懐されている。しかし西尾 実博士の説に従って、話し言葉教育の中で対話が占めるべき枢要な役割を深く信ずる大村はま氏は、また、
「一単元十何時間を展開する間に、一対一のほんとうに二人だけで話す場面が一つも作れないのであれば、話しことばの指導の面では、欠けている案というべきではないか。」(同上書、141ページより要約引用)
とも述べられている。このような提言は、現在さまざまに試みられている話しことば教育実践を念頭に置いてみても、なお衝撃的であり、私どもの授業構想の根幹に欠けていたところだとしきりに反省させられる。それゆえ、教師の自己研修としての意味もこめて、対話の指導に正面から取り組んでみることにしたのである。
本書は、理論的にも実践的にも、試行の途上にあるものを、現時点で集成したものである。ここに公にして多くの方々から助言を得、共同研究を着実に成長させていきたいという共同研究者一同の熱意に発している。仮設的理論に立つ実践事例であるだけに、これから検証していかなければならないことばかりである。どうか忌憚のないご叱正をお願い申しあげる次第である。
なお、本書を仕上げる際に、鳴門教育大学学長野地潤家博士のご助言をたまわった。時間が許せば、これまでに共同研究を推進してこられた、神戸大学教授浜本純逸博士、広島大学学校教育学部教授森田信義氏、九州女子大学教授根本今朝男氏、安田女子大学教授大西道雄博士にご意見をいただければと願っていたが、果たさなかった。これからのご指導をお願い申し上げたい。
本書が成るに際しては、九州大谷短期大学の原 榮一先生にお勧めいただき、明治図書編集部への仲介の労をとっていただいた。はるか後輩である私どもへのお励ましと受けとめ、感謝申し上げる。出版できたのは、ひとえに明治図書の江部 満氏と樋口雅子氏のご芳情による。樋口雅子編集長には、本書の書名をはじめ、全般にひとかたならぬお心配りをいただいた。深く感謝申し上げたい。
平成9年(1997年)5月23日(金) 福岡教育大学国語科研究室 /前田 真証
- 
明治図書- 話す・聞くの実践書としては、出版当時先駆者的実践書として読まれた本です。再度、手に取って読みたい本です。2022/3/26雄大
 - 話す・聞く活動の先駆的実践書です。是非、復刻してほしい一冊です。2021/12/26ゆうだい
 
 















