- T 言語技術教育としての「詩の読み方指導」
- 1 言語技術教育としての「詩の構造よみ」
- 高村光太郎「ぼろぼろな駝鳥」
- 2 言語技術教育としての「詩の技法よみ」
- U さまざまな詩の技法の定義と基本的な効果と指導上の留意点
- 〔音楽的な技法〕
- a 繰り返し
- @リフレイン(同一文・類似文の繰り返し)
- 中江俊夫「ひみつ」/ 室生犀星「ふるさと」/ 草野心平「河童と蛙」/ 宮澤賢治「永訣の朝」
- A 同語・同語句反復 類語・類語句反復
- 与田準一「おちば」/ 佐藤春夫「少年の日」/ 中原中也「汚れっちまった悲しみに……」
- B 同音反復 類音反復
- 谷川俊太郎「かっぱ」/ 島崎藤村「小諸なる古城のほとり」/ 中原中也「一つのメルヘン」/ 高村光太郎「レモン哀歌」
- b 律外在律
- 〜五七調と七五調
- 小野十三郎「えんそく」/ 島崎藤村「小諸なる古城のほとり」/ 室生犀星「小景異情(その二)」
- c 韻 頭韻・脚韻
- 中村真一郎「真昼の乙女たち」/ 尚今居士「春夏秋冬」
- d 擬声語・擬態語
- @ 擬声語
- 有馬敲「かもつれっしゃ」/ 萩原朔太郎「遺伝」
- A 擬態語
- 谷川俊太郎「どきん」/ 長谷川摂子「こねこをだいたことある?」/ 武鹿悦子「はくさいぎしぎし」
- コラム 音韻的効果
- 〔意味的な技法〕
- a 比喩
- @ 直喩
- 三好達治「土」/ 吉野 弘「虹の足」/ 宮澤賢治「永訣の朝」
- A 隠喩
- まど・みちお「イナゴ」/ 谷川俊太郎「朝のリレー」/ 高村光太郎「レモン哀歌」
- B 寓喩(寓話)
- 高村光太郎「ぼろぼろな駝鳥」/ 金子光晴「くらげの唄」
- b 擬人法
- 阪田寛夫「夕日がせなかをおしてくる」/ 吉野 弘「虹の足」/ 新川和江「わたしを束ねないで」
- c 倒置法
- 室生犀星「ふるさと」/ 北川冬彦「球根」/ 高村光太郎「ぽろぽろな駝鳥」/ 吉野 弘「虹の足」
- d 対 句
- 高野辰之「ふるさと」/ 谷川俊太郎「朝のリレー」/ 原民喜「永遠のみどり」
- e 体言止め
- 小野十三郎「えんそく」/ 長谷川摂子「こねこをだいたこと ある?」/ 吉原幸子「しろい春」
- f 連用中止法
- 石垣りん「空をかついで」/ 金子光晴「くらげの唄」
- g 文末表現の変化
- 高村光太郎「ぼろぼろな駝鳥」/ 金子光晴「くらげの唄」
- h 漢字と平仮名の使い分け
- 室生犀星「小景異情(その二)」/ 宮澤賢治「永訣の朝」
- i 平仮名書き
- 萩原朔太郎「殺人事件」/ 宮沢賢治「永訣の朝」
- j 片仮名書き
- 原民喜「水ヲ下サイ」
- k 特定語の使用
- @ 否定語
- 島崎藤村「小諸なる古城のほとり」/ 中原中也「汚れっちまった悲しみに…」/ 中野重治「浪」
- A 呼びかけの語
- 高村光太郎「ぼろぼろな駝鳥」/ 宮澤賢治「永訣の朝」/ 中野重治「歌」
- B 類義語
- 黒田三郎「夕方の三十分」
- l 特定品詞の多用
- 萩原朔太郎「青樹の梢をあおぎて」/ みずかみかずよ「馬でかければ〜阿蘇千里」/ 金子光晴「落下傘」
- コラム ルビの振ってない語の読み/ 口語詩における文語の一部使用/ ローマ字書き/ 省略法/ 反語法
- 〔視覚的な技法〕
- a 視覚的構想
- 山村暮鳥「風景 純銀もざいく」/ 関根栄一「かいだん」/ 草野心平「天気」/ うちだみのる「か」
- b 行の長短
- 中野重治「しらなみ」/ 金子光晴「落下傘」
- c 字下げ
- 阪田寛夫「夕日がせなかをおしてくる」/ 鶴見正夫「あめの うた」/ 有馬 敲「かもつれっしゃ」/ 萩原朔太郎「遺伝」/ 吉原幸子「無題」
- d 字空け
- 吉野 弘「夕焼け」
- e 記号
- @ 句読点
- 石垣りん「空をかついで」/ 萩原朔太郎「竹」
- A リーダー・ダッシュ
- まど・みちお「てつぼう」/ 間所さひこ「ざんざん雨」/ W・オーウェン「なきがら」
- コラム 「!」と「?」
- V 詩の技法
- 〜小学校から高校までの指導系統案
- 1 小学校において指導する技法
- 2 中学校において指導する技法
- 3 高校において指導する技法
- W 教師の読みと作者の意図
- 〜一篇の詩をめぐって
- 1 「祝福 卒業していく少女に」についての長岡支部の読み
- 2 長岡支部の読みについての作者の感想
- 付録1・2 ファックス用・生徒に配る詩の技法と定義一覧
- あとがき /丸山 義昭
序文
/小海 永二
詩における技法の指導というのは易しくない。
それは、詩に限らず一般に文学的表現に用いられている数々の技法について、明確に、疑問の余地なく説明した本や参考書・辞典の類いが、現状ではほとんど---全くと言っていいほど---存在しないからである。現存する書物の説明に従って教育の現場で実際の詩における技法の指導を試みようとすると、細部で様々の疑問が生じてきて、困惑するというのが、実情であろう。
たとえば、リフレインという技法があり、詩ではこの技法がしばしば使用される。ところが、リフレインと一口に言っても、それは行のレベルで全く同一の表現がくり返される場合のみをさすのか、多少の類似表現のくり返しをもリフレインの技法の中に含めてよいのか、あるいは文や語句のレベルでのくり返しまでもリフレインと呼んでいいのか、つまり、どのような形のくり返しを、どのような範囲まで、技法としてのリフレインとして認めたらいいのか、実際の詩に当たって指導を行なう場合、定義のあいまいさに悩んでしまうことになる。そして、問題点をぼかしたまま逃げてしまうことになりかねないのではあるまいか。
日本言語技術教育学会長岡支部の皆さんは、こうした現状の中で多くの疑問に突き当たり、これらの疑問の解明をグループの研究課題とした。助言を求められて、わたしは、各種技法についてのわたしの定義の仕方を述べ、また会員の皆さんの研究の結果について意見を寄せるなどしてきた。二年にわたるこの現場教員グループの研究は、討議の中で修正を重ねられ、各種技法の単なる辞書的定義ではなく、現場での指導の実践に広く役立つ、肝どころを押さえた技法の説明書を作り出せるところまで仕上がって行った。それは一つの成果と言ってもいいだろう。
このグループの皆さんには、以前からの「読み」の科学的研究に基づく理論的な基盤があった。それは「詩の溝造よみ」や「詩の技法よみ」と呼ばれるものであり、今回の研究成果は、それらをふまえて、いっそう具体的に、小・中・高の国語科教育における詩の指導実践を容易ならしめる理論的一展開である。
それ故、この本は必ずしも詩作品に用いられている技法の全般にわたってその定義や解説のみを記した一般書ではなく、あくまでも国語教育の現場での実践的要請に応えるべく、明確化され、整理された詩的技法の説明の書であり、明瞭な定義に基づいて、教科書に採用されている詩作品の指導をどのように行なうべきかをさし示したハンディーな実践理論の書である。それは、現場での指導に直ちに役立つという使命を与えられて誕生した。誰よりもまず、研究の積み重ねをしてこの本の内容を執筆した皆さん自身が、明日からの実践に役立てようとしてこの種の本の誕生を必要としたのであった。
そのように、出発点は、差し迫った指導上の必要性にあった。従来の技法説明書における技法の名称をそのまま受け継いでいないもののあるのは、実地に活用して有効ならしめるためには、それにふさわしいネイミングを設けたほうが可であるという判断から出ている。奇をてらってのことではない。
この本は先にも述べたように、研究会の理論的一展開であって、実はここから、これらの指導理論をさらに生かした応用編として個々の詩の指導事例集を編む必要が出てくるはずである。そして、そのことは、本書に寄せられるであろう日本中の現場の教員諸氏の声や意見をふまえた上で、次の課題として一冊にまとめられることが望ましい。わたしはここに、研究・執筆の皆さんの次の成果への期待を記して、この本の「序文」としたいと思う。
一九九七年七月
ぜひ、復刊させて多くの方の手に再びわたると良いと思います。