文学言語を読むU「やまなし」「少年の日の思い出」他 表現技法からのアプローチ

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読書百遍とは古来言い古されてきた方法。反復熟読するには読むたびに新しい観点を導入するのが効果的。表現技法の観点から読む学習例を提示。


復刊時予価: 3,641円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-652715-6
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 312頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
T 表現技法から読む〈その1〉
第一章 反復表現から
1 作品展開の順に反復表現を取り出して 〜『やまなし』
2 反復表現の機能 〜『木琴』
3 構成の軸となる反復表現 〜『たぬきの糸車』
4 反復語彙が受け持つ役割分担 〜『スイミー』
5 人物と人物を結ぶ反復表現 〜『かさこ地ぞう』
6 クライマックスにおける反復表現 〜『モチモチの木』
7 作品全体を貫く一語の反復表現 〜『一つの花』
8 結末部における反復表現 〜『大造じいさんとガン』
9 一体・対立・分離=ストーリーの展開を担う反復表現 〜『少年の日の思い出』
10 作品を構築する反復表現 〜『字のないはがき』
11 会話文における反復表現 〜『故郷』
12 意味内容の表現と表現の意味内容を支える反復表現 〜『三四郎』と『わらぐつの中の神様』
13 反復表現の多彩な活用 〜『最後の一句』
第二章 時間表現から
1 作品展開の順に時間表現を取り上げて 〜『よだかの星』
2 時間の長さと叙述の長さ 〜『大人になれなかった弟たちに……』
第三章 空間表現と構成法から
1 距離によって激変する心情表現 〜『大造じいさんとガン』
2 枠組みの構成法を中心に 〜『わらぐつの中の神様』
U 表現技法から読む〈その2〉
1 国語勉強法
[1] 冒頭文に注目する 〜『雪国』その1
[2] 精読の第一歩・符号をつける 〜『雪国』その2
[3] 映像を生む言語表現 〜『山椒大夫』その1
[4] 首尾照応の見事さ 〜『山椒大夫』その2
[5] 首尾照応の復習 〜課題『ひばりの子』から
[6] くり返しの表現 〜『山椒大夫』その3
[7] 人物表現の効果 〜『山椒大夫』その4
[8] 構成された会話表現に着目 〜『山椒大夫』その5
[9] 劇的変化を示す会話表現 〜『くるみ割り』
[10] ラスト・シーンの会話 〜『山椒魚』
[11] 漸層的な会話表現 〜『走れメロス』その1
[12] くり返し表現の平行移動 〜『走れメロス』その2
[13] 人生観示すくり返し表現 〜『走れメロス』その3
[14] 構成を示す同語反復 〜『鼓くらべ』その1
[15] 人物の具象化 〜『鼓くらべ』その2
[16] 小説と日常生活 〜『濠端の住まい』その1
[17] 対照が示す運命の姿 〜『濠端の住まい』その2
[18] 選択が示す死への歩み 〜『濠端の住まい』その3
[19] 冒頭の比較から 〜漱石と鴎外の『蛇』その1
[20] 体験≠ニ説明=@〜漱石と鴎外の『蛇』その2
[21] 神秘感と合理性 〜漱石と鴎外の『蛇』その3
[22] けがれた思い出の場合 〜『少年の日の思い出』
[23] 明るい思い出の場合 〜『くるみ割り』
[24] 社会的性格の思い出 〜『故郷』
[25] 音読を通して 〜古典を楽しく学ぼう
[26] 和歌・俳句を詩に 〜古典を身近に
[27] パロディを作って 〜百人一首に親しむ
[28] 漫画を描く 〜『徒然草』
[29] 感動と形式 〜詩の言葉
[30] 内容・思想を示す表現 〜『最後の一句』
2 中学国語・指導事項焦点化の試み
[1] 「書きだしと結び」の機能に着目させて
[2] 「書きだしと結び」から、筋(ストーリー)へ
[3] 図式を生かして、全体構造をとらえる 〜ロラン・バルトの方法から
[4] 人物造形の仕方に着目して 〜登場人物の分析法(1)
[5] 逆変転(どんでん返し)と発見的再認の視点から 〜登場人物の分析法(2)
[6] 人と人との関係が登場人物の姿を現す 〜登場人物の分析法(3)
[7] 構成を支え、テーマを導く空間(場所)と時間の表現
[8] 物語が示す時間表現(時間配分)に注目する
[9] 時間の重層表現が生む効果に目を向けて
[10] 二つの時間軸から『故郷』を読む 〜応用的復習(1)
[11] 『故郷』の構成をとらえる 〜応用的復習(2)
V 読み方を求めて
1 アリストテレス『語学』から
2 コールリッジ『文学評伝』から
3 夏目漱石『文学論』から
Y 私の一冊の本/回想・この一冊
1 私の一冊の本 『徒然草』
2 回想・この一冊 福原麟太郎著『命なりけり』
「あとがき」に代えて 初出と参考文献

まえがき

 大学を卒業して島の高校に就職してから、国語という教科の教えにくさに直面しつづけてきた。大学院生として附属高校で三学期だけの講師をしたときにも、国語の一番よくできる生徒から、国語の勉強にはどんな仕方があるのか、英語と数学はある程度のみこめているのだが、という真剣な質問を受けた。高校の現代国語の学習参考書を書く機会には、その解答にどうすればよいか、と試みたこともある。以来、「読むとは」という課題を背負いつづけてきた。生徒・学生とともに考え、今日にいたっている。

 「読むとは」どういう営みを指すのか、いまも求めている最中である。正答は「読書百遍」のようである。附属の高校生が悩むよりも、もっとはやくから悩んでいたわたしは、野地潤家先生に、同じ質問を幾度も投げかけたことがある。学習参考書の原稿を見ていただきながら、先生のくり返し吟味される姿を実見したこともある。が、答えは先の「読書百遍」であった。「何回もくり返して読むんですよ。」というのが、先生のお教えである。古来の精読法といってよいだろう。

 ところが、この「くり返して読む」ことがなかなかできない。すぐに飽きてしまう。読み返しても、それまで読み取ったものと寸分違わないことしか読み取れない。これでは、読み返すのが苦痛になるばかりである。百遍はおろか、三遍で投げ出してしまう。ときには、少し読めると、それだけで安心してしまう。じゅうぶん読んだと自己満足して、徹底して読むことという教えをうけながら、実行できない。

 こんな悩みをもっていたとき、ある読書論から、読む度にそれまでとは異なる新しい角度から光を当てるようにして読む、という示唆をえた。これは力強い助言だと、その後、読む視点をさまざまにかえる着眼点を探した。印をつけながら読むという具体的で即効性のある方法も学び実行してみた。それらの結果が本書をなしている分析と解釈である。手探りで歩んできた道を、ここに出している。つまり、国語科教育の書物ではあるが、わたしにとっては、他人を対象にしたものではない。自分が少しずつ歩んできて、昨日の自分では見いだせないことを今日見いだしたというような、自分のたどたどしい歩みを自分が確認するために、文章に本にまとめてみたというところである。

 自分にできないこと、したことのない方法は、とうてい他人に伝えることはできない。指導という責任ある行為としては、さらに不可能なことである。人が人に伝えることのできるのは、せめて自分が経験したことに限られよう。それも経験の何分の一にすぎまい。独創性も大切であろうが、教育現場では、指導者の実践力が求められている。その実践力---つまり、他人への伝達可能な力---は、自分が経験して、自分をわずかでも向上させえたことしか、付けえないのではないか。すぐれた理論、外国の高名な理論も、自分で日本語の作品に適応してみて、その経験からの提案がなくてはならない。本書では、高度な文学理論を学ぶ前の準備トレーニングとしての、こつこつとテクストを読んでいく作業を取り上げている。昔からの精読法の一つを、再度、試みたにすぎない。現在に無縁のものなのか、ご批判ご意見をいただきたい。

 「作文指導の課題と方法」と題して、正続三十回の長きにわたって連載させていただいた。作文指導を看板にしながら、前著では、後半は説明文教材を取り上げて、読み書くの密接な関係を具体的に例示した。おなじころ、『超勉強法』なるベスト・セラーも出た。学習指導を専門にしてきたわれわれからではなく、専門を異にする著者から出たことに興味をもって、さっそく読んでみた。どこが「超」なのか判然とはしなかったというのがわたしの実感である。それはともかく、専門としている者の書くものにあまり関心がはらわれないのは、やはり気持ちのいいものではない。やはり、国語嫌いの元凶をつくってきたのはわれわれか、との反省で身につまされる思いがした。そこで、説明文の次に、文学教材を取り上げた次第。少しでも足もとが固まればという願いを込めての刊行である。試みの第一歩であって、体系化にはほど遠い。これから、その目標へとすすめていきたい。

 連載以外の原稿なのに、連載のものと関連づけてTUの二巻にまとめて本にすることができた。まことに無理な注文を快く引き受けていただいた明治図書編集部の江部満、間瀬季夫、松本幸子のみなさんに心から御礼を申し上げたい。とくに松本さんには、雑多な原稿に目を通してもらい、目次から、構成にいたるまでお世話になった。重ねて御礼申し上げる次第です。


  一九九七(平成九)年五月連休最後の日に   /中西 一弘

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