総合的学習を支え活かす国語科1
総合的学習を支え活かす国語科

総合的学習を支え活かす国語科1総合的学習を支え活かす国語科

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総合的学習を支え活かすために国語科の授業内容をどう発展的に捉えるか、第一線研究者の小森茂、河野庸介、高橋俊三、大内善一、鶴田清司、宇佐美寛、野口芳宏氏の共同討議


復刊時予価: 2,783円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-629101-2
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 192頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
T 「総合的学習」を支える国語・活かす国語
/堀 裕嗣
一 とどかない声、とれないメモ
二 使えない知識、定着しない技能
三 試される国語科の授業
U 「伝え合う力」とは何か
一 「伝え合う力」が、どのように「総合的な学習の時間」を支えるか /小森 茂
はじめに/ 1 国語科と他教科(A)との連携を図る/ 2 国語科と「総合的な学習の時間」との連携を図る/ 3 国語科が「総合的な学習の時間」を支えるために
二 言語活動例をどのように具体化するか /河野 庸介
1 はじめに/ 2 言語活動例提示のねらい
三 「話すこと・聞くこと」指導の立場から /高橋 俊三
四 「書くこと」指導の立場から /大内 善一
1 「伝え合う力」の定義/ 2 双方向で書き合う場の構想
五 「読むこと」指導の立場から /鶴田 清司
1 「伝え合う力」とは/ 2 読解指導の問題/ 3 「伝え合う力」を育てる文学教材の扱い方
六 「論理的思考力」の立場から /宇佐 美寛
1 どう書き始めるか/ 2 読者の思考過程に合わせる
七 実践化にあたって /野口 芳宏
1 「総合的な学習の時間」の新設を歓迎する/ 2 「伝え合う力」は「実用主義」的に育てる/ 3 「伝え合う力」の実用主義的な育て方
V 「話すこと・聞くこと」領域
一 「総合的学習」を支え活かす「話すこと・聞くこと」指導のポイント /高橋 俊三
1 教師が、「総合的学習」を支える言語技術の多いことを自覚すること/ 2 教師が、話し合いの諸形態を理解し、目的に応じて使い分けること
二 聞くことから始めよう―― 私のスピーチ指導 /藤澤 賢治
1 スピーチの授業は聞き手の育成から/ 2 聞き手の立場から話し手の工夫を考える/ 3 聞き手になってこそ「聞き手意識」は育つ
三 ロールプレイを活かした音声言語指導 /板橋 友子
1 ロールプレイ――三つの視点/ 2 思いこみだけで話さない/ 3 相手の気持ちを想像してみる/ 4 立場や状況を考えて言葉を選ぶ/ 5 余裕がないときほど言葉に気をつける/ 6 日常生活の言葉を大切にする
四 〈教室プレゼンテーション〉を支える二十の技術 /堀 裕嗣
1 ツール至上主義を排す/ 2 〈教室プレゼンテーション〉には五つの系列がある/ 3 〈教室プレゼンテーション〉二十の技術
W 「書くこと」領域
一 「総合的学習」を支え活かす「書くこと」指導のポイント
――手紙文・学習の成果をまとめる言語活動を中心に―― /大内 善一
1 「総合的な学習」を支える主要な言語活動・技能/ 2 用件を依頼する手紙文の指導/ 3 レポート(事後報告文)の指導とその意義
二 「書くこと」指導のネタ開発 /山下 幸
1 意欲・関心はネタしだい/ 2 「粉ふきいも」で説明の技術を高める?
三 「総合的学習」を支えるメモの技術 /對馬 義幸
1 「総合的学習」にメモは不可欠/ 2 メモを「取って」はいるが「取れて」はいない/ 3 「受信型メモ」十二の技術
四 ポートフォリオ評価を活かした作文的手法 /田中 幹也
1 「情報加工」の力を育てる/ 2 「情報加工」のポイント/ 3 実践例「CMに関するアンケート調査」
X 「読むこと」領域
一 「総合的学習」を支え活かす「読むこと」指導のポイント
――説明文・論説文教材の新しい扱い方―― /鶴田 清司
1 総合的な学習の基礎としての実戦的な読み方/ 2 文章を吟味して読む
二 新「読むこと」指導を支える教材研究法 /中村 貴子
1 教材を構造的に分析する/ 2 単語レベルで分析する/ 3 段落レベルで分析する
三 「総合的学習」に活きる「情報読み」の新提案 /小木 恵子
1 「情報読み」の定義/ 2 旅先から、「情景描写」を入れた手紙を書こう!/ 3 「情報読み」で比喩の効果を考えよう!/ 4 「比喩」を使いこなそう!
四 「読むこと」指導で情報を交流する /森  寛
1 子どもたちの〈当事者意識〉を高める「PCS」/ 2 「話し合い」や「討論」では得られない「PCS」の六つの利点/ 3 「PCS」を用いた「短歌の授業」/ 4 「話したい相手」と「話したい論題」だけを話し合う濃密な時間
Y 「総合的学習」と「論理的思考力」
一 「論理的思考力」こそが「総合的学習」を支え活かす /宇佐 美寛
1 〈てんぷら単元〉のすすめ/ 2 具体例を考える力
二 小学生に育てたい論理的思考力 /南山 潤司
1 「総合的学習」で取り組まれている言語活動/ 2 「聞く」活動における論理的思考力/ 3 「書く」活動における論理的思考力
三 中学生に育てたい論理的思考力 /石川 晋
1 テクスト・クリティーク/ 2 『無医村の優しい人々』の授業/ 3 論理的思考力を身に付けさせるために
四 高校生に育てたい論理的思考力 /水持 邦雄
五 「総合的学習」と「論理的思考力」の関係 /大内 哲夫
1 「総合的学習」と「衣類の整理」/ 2 三つの「区別」
Z 「総合的学習」を支える国語・活かす国語
―― 実践上の課題
一 伝え合うことの難しさ /野口 芳宏
1 意外に多い「不完全話型」による「不完全理解」/ 2 不完全話型に気づき、不完全伝達にひっかかること/ 3 教師自身の「伝え合う力」の点検と訓練を/ 4 伝え合いの不完全事例を集める
二 「話すこと・聞くこと」領域を中心に /堀 裕嗣
1 「話すこと・聞くこと」には問題が山積している/ 2 「話すこと・聞くこと」には三つの活動形態がある/ 3 三つの活動形態を組み合わせる
三 「書くこと」領域を中心に /田中 幹也
1 まずは「書くこと」指導をやってみよう/ 2 「情報収集」「情報加工」としての「書くこと」/ 3 「書くこと」指導のシステムの工夫を
四 「読むこと」領域を中心に /森  寛
1 「四つの読みの諸相」を軸とした学習活動の姿/ 2 教室で解決すべき「三つの課題」
あとがき

まえがき

 「総合的な学習の時間」が創設された。

 移行期の二年間、どの学校においても、「総合的な学習の時間」のカリキュラムづくりに躍起になって取り組んでいた。かく言う私も、「総合的な学習の時間」を中心とした、勤務校の新教育課程編成に、そして、「総合的な学習の時間」の実践の集積にと、忙しい毎日を送った。

 さて、いよいよ二〇〇二年。実際に「総合的な学習の時間」を運営してみると、机上でプランニングをしているときとのあまりの違いに驚かされることが多い。最近の子どもたちはこういったことに興味を示すだろうと考えて用意した題材が見事にはずれてしまったり、これくらいのことは自分たちで調べられるだろうと思っていたことが予想外にできなかったり、といったことだ。

 中でも、「発表」や「話し合い」「情報交流」「調べ学習」といった、主に国語学力を用いての学習内容は、思いのほかにできていない。これはある特定の学年、特定の学級、特定の子どもができないのではなく、総じてこういった傾向が強いのだ。しかも、自分で授業をしていても、同僚の授業を参観しても同じである。私は国語教師の一人として、たいへん恥ずかしい思いをしている。

 例えば、子どもたちは「発表学習」において、「通る声」でプレゼンテーションすることができない。また、立派な資料をつくっているにもかかわらず、それをプレゼンテーションの中で効果的に利用することができない。

 例えば、子どもたちは「話し合い」において、現段階での話題の中心をとらえることができない。また、話し合われている論点を整理することができない。少しずつ少しずつ論点がずれていき、何も決まらない。

 例えば、子どもたちは「情報交流」において、自分の意見と相手の意見との「共通点」と「相違点」とを見分けることができない。どこが同じでどこが異なるかをお互いに把握していないのだから、情報の交流はすべて「空中戦」になる。互いの中に何も残らず、ただ「話し合う」という活動をしただけである。

 例えば、子どもたちは「調べ学習」において、図書館での検索ができない。インターネットをあれだけ使いこなすというのに、図書館のレファレンス・サービスを使うことができないのだ。また、子どもたちは調べたい事柄があっても、どういった書物にその情報が書かれているのかを予測し判断することができない。図書室に連れて行っても図書館に連れて行っても、ただ時間が過ぎるばかりである。

 その他にも、「敬語が使えない」「インタビューの仕方が分からない」「メモがとれない」「依頼状・礼状を書けない」「情報を分析することができない」などなど……数え上げたら切りがない。

 繰り返しになるが、私は国語教師の一人として、たいへん恥ずかしい思いをしている。

 「総合的な学習の時間」は、学習指導要領に例示された「国際理解」「情報」「環境」「福祉・健康」をはじめとして、学習の内容ばかりに目が向いている傾向がある。しかし、いくら学習内容がよくても、いくら理念が壮大でも、いくら計画が緻密でも、その活動の基礎となる各教科の学力が子どもたちに身に付いていなければ機能しない。極端に言えば、「遊びの時間」になってしまいかねないのだ。

 とりわけ、先にあげた「国語学力」の重要性は言うを待たないであろう。どれ一つ欠落しても、「総合的な学習の時間」は体験を積むだけの効果の薄い学習に堕してしまう。

 国語科は「基礎教科」である。ということは、「国語学力」が身に付いていればいるほど、「総合的な学習の時間」は広く深く機能するということなのだ。

 もちろん、国語科は「総合的な学習の時間」のためにあるわけではない。国語科には国語科特有の教科目標がある。しかし、「総合的な学習の時間」によって、国語科の問題点が明らかになったのならば、私たち国語科に携わる者は真摯に反省し、打開策を講じるべきだろう。

 本書は、そういった試みの第一歩である。


  平成一四年四月三日   「研究集団ことのは」代表 /堀 裕嗣

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