- はじめに――メディア・リテラシー教育の基礎・基本は国語科の「学び方=リテラシー」である――
- T なぜ、メディア・リテラシー教育による「学習・評価システム」「授業改革」が必要なのか?
- ――本書執筆・実践提案における問題意識・六項目――
- 一 「学習意欲の低下」「学ぶ目的の喪失」と向き合う授業改革の必要性
- ――学ぶ楽しさと必要感・達成感は、子ども達の〈生な現実〉と結びついた授業構想から――
- 二 中学校における「授業改革」の実践的課題
- ――削減された内容・時間数、「基礎学力」の保障から「発展学習」「総合的な学習」への学習システム――
- 三 中学校における「メディア・リテラシー教育」の授業開発、その必要性
- ――国語科から展開するメディア・リテラシー教育の実践的提案――
- 四 現在行われている「メディア・リテラシー教育実践(提案)」の混乱と問題点
- ――「メディア・リテラシー教育」の授業をどうデザインし、評価するのか――
- 五 メディア・リテラシー教育の基礎・基本は、国語科の「学び方=リテラシー」である
- ――「基礎学力」の保障・情報リテラシー・コミュニケーション能力の指導を位置づける――
- 六 基礎・基本の学力と豊かな判断・批評能力を、どういう観点で「評価」するのか
- ――「学習シート」による評価方法の開発と、実践による具体的な観点の提示から――
- U “二一世紀の学力”としてのメディア・リテラシー教育をどう創るのか?
- 一 これまでの「学び方=リテラシー」を批評するメディア・リテラシー教育
- 二 メディア・リテラシー教育のもつ〈批評性〉とは?
- ――新しい「学習・評価システム」の開発――
- 三 メディア・リテラシー教育で育てる「学力」とは何か
- ――定義と目標論――
- 四 メディア・リテラシー教育、新課程へ位置づける時の実践的課題
- 五 メディア・リテラシー教育の授業構想モデル
- ――国語科の基礎・基本から「発展学習」、五段階の学習過程論――
- 六 再構成された〈現実・記号〉を読み解く言語技術=リテラシー
- V 「メディア分析・批評」の基礎・基本から「発展学習」への展開
- ――五つの「実践事例(学習モデル)」の構想と意図――
- 一 各実践の内容構成と項目、その生かし方
- 二 「写真」「広告」のメディア・リテラシー
- ――「写真(映像)」と「言葉」についての基礎・基本指導、言語技術教育が不可欠――
- 三 フィクションが「現実」を創り出す
- ――「ドラマ」「映画」と私達の生き方・価値観の形成――
- 四 「テレビコマーシャル」という身近なメディア戦略のメカニズム
- ――「テレビ」の登場が二〇世紀後半からの情報メディアとコミュニケーションを変えた――
- 五 「テレビニュース」の戦略を学ぶことの重要性
- ――放送メディアの進歩と人々の需要――
- 六 メディア情報の中の「見えないメッセージ」を読み解くリテラシーの開発
- ――国語科学習を基礎・基本とした“ジェンダー教育入門”――
- W 五つの実践事例
- ――「広告」「ドラマ・映画」「テレビコマーシャル」「ニュース」「ジェンダー」――
- 各実践の内容構成(項目)
- 1 実践の構想と特質
- ――中学生の「情報・メディア」理解と言語技術教育――
- 2 メディア戦略の分析や判断と“情報リテラシー能力”との関係
- 3 指導目標と国語科「言語能力」
- ――情報リテラシー能力とメディア・リテラシー教育――
- 4 評価活動と「評価基準」のポイント
- 5 学習計画(六〜八時間完了)……学習指導案は基礎・基本から発信交流・評価までの過程を「五段階の学習過程」で構成。各段階を取り出せば一〜三時間構成のよりシンプルな学習モデル化が可能。組み合わせれば「発展学習」「総合的な学習」に展開できる。小学校・高校でも応用可能。
- 6 実践の紹介……各段階毎に、授業の内容や「学習シート」の生かし方と意味、生徒の「学び」の実態、授業を受けての様子等について報告記述した。
- 7 実践の考察……実践者自身による「考察」と意味づけ
- 実践にあたって開発・使用した「学習シート」(四〜一一枚)……「メディア分析シート」や「発信・交流・評価シート」等を縮小して提示した。
- 一 「広告」のメディア戦略と情報リテラシー入門 写真と言葉、どんな関係?
- ――「雑誌広告」の写真や言葉を読み取ろう!―― /左近 妙子
- 二 「ドラマ・映画」の戦略・レトリックと言語技術教育 好きなドラマ(映画)にはこんな戦略があった!
- ――映像・構成の情報リテラシー―― /川瀬 淳子
- 三 「テレビコマーシャル」の基礎的情報リテラシー テレビコマーシャルの戦略とは?
- ――CM分析の言語技術と「生きる力」の育成―― /鈴木 悟志
- 四 「テレビニュース」の戦略と情報リテラシー “フィルター”の向こう側とこちら側
- ――TVニュースの戦略―― /伊藤 清英
- 五 “ジェンダー”と情報リテラシーの基礎・基本 「自分らしい生き方」と社会の見えない価値観
- ――アンケート・インタビュー活動と言語技術教育―― /左近 妙子
- あとがき
はじめに
――メディア・リテラシー教育の基礎・基本は国語科の「学び方=リテラシー」である――
1、これまでの「学び」「リテラシー」は二一世紀の学校教育に十分対応できるか?
新学習指導要領は「最低基準」となり、時代と社会に対応した「生きる力」を育てるために「基礎・基本」の定着・「個性を伸ばす教育」とともに、「発展学習」「総合的な学習の時間」に展開する新しい学習・評価システムが求められている。
戦後五〇年続いて来た「相対評価」の考え方が「絶対評価」に転換したことは、単に評価観の変更だけではなく学校教育全体(公教育)の「学び=リテラシー」のシステムの問いなおしが行われているととらえることが必要である。これまでの「学び」や授業構想・評価基準の質と構造が、その背景となる学習者観・目標や指導観・評価観とともに、具体的に、改めて問われている時代である。
2、国語科の「学び方=リテラシー」「言語教育」への批評的改革を求めるメディア・リテラシー教育
今、旧来の文字言語中心のリテラシーを支えていた国語科学習は、情報教育やメディア・リテラシー教育の今日的な必要性・緊急性の前で、教科としての存在意義が改めて問われていると、私には思われる。
例えば「子どもの関心意欲を生かした主体的な学習」という美名のもとに行われる感傷的で心情的な学習、「学び方」と評価基準が曖昧で、「基礎学力」の保障から「発展的学習」への筋道が見えない自閉的な単元学習等を繰り返していては、今回の文部科学省における「国語科の授業時間数の削減」は正しかったという判断がなされるかもしれない。
論理的なコミュニケーション能力(話す聞く・書く)や「事実・現象」「メディア情報」を的確に判断し批評できる能力(読む・情報リテラシー)、目的や相手に応じたプレゼンテーション能力(伝え合う力・関わり学び合う力)等を基礎・基本に据えた国語科学習システムの開発が、そしてメディア・リテラシー教育の開発と実践的提案が必要である。
3、メディア・リテラシー教育は、メディアを扱った「アイディア集」「総合(単元)学習」でいいのか?
コマーシャルや広告等のメディア情報を扱えば、それはメディア・リテラシー教育なのか。
メディア・リテラシー教育のもつ「学び」への批評性と原理を踏まえ、国語科のリテラシーを基礎・基本に据え、論理的な情報リテラシーやコミュニケーション能力等と結びついた学習構造を持つ「基本的な学習モデル」の開発が必要である。
アイディア集のレベルを脱し「学び方・評価=リテラシー」の鮮明な学習モデルの提案を通して、学校教育におけるメディア・リテラシー教育を位置づけること、こうしたことをステップに学校教育全体の「学び」の構造と系統性(カリキュラム)を改めて再構築することが求められている。
4、論理的でクリティカル(批評的)な学習の中にこそ「学ぶ楽しさ」の本質がある
――国語科の授業改革とメディア・リテラシー教育の「学習・評価システム」の実践的提案――
本書は、メディア教育論一般ではなく、国語科の「学び方・評価=リテラシー」を基礎・基本にメディア・リテラシー教育を実践的に構想、提案しているところに大きな特色がある。
五つの実践事例は六〜八時間完了という学習計画で行い(中学一〜三年生)、段階的に「広告」「ドラマ・映画」「テレビコマーシャル」「ニュース」「ジェンダー」を扱っている。メディア情報を分析・批評する学力(学び方と評価の観点)だけでなく、論理的にまとめ(書く)発信・交流する(話す聞く/関わる)学習過程を構想し、そうした各学習過程でもメディア・リテラシー教育を生かし、他教科での学習や「発展学習」にもつながるような「学び方・評価=リテラシー」を示したつもりである。
5、本実践事例(学習モデル)の生かし方
―― 一〜三時間でできるよりシンプルな「モデル」としても応用可能――
国語科を基礎・基本に展開するメディア・リテラシー教育の「基本学習モデル」として使えるように、段階的な学習過程論(五段階)のもと、生徒が身につけるべき学習技術(評価基準)を具体的に示した。特に、「学び方・評価=リテラシー」のための“学習シート”を各実践毎に開発したところに特色がある。なお、この「学習シート」はそれぞれの実践末に縮小して掲示したのでご参照下さい。
実践の「五段階の学習過程」を学習の目的に応じて切り離して生かせば、一〜三時間構成のよりシンプルな「学習モデル(学習シートの活用)」として実践することができる。また、各実践を他教科での学習や「総合的な学習の時間」と組み合わせれば、「学び方」と評価基準が明快な発展学習としても活用が可能である。いずれも、高校における学習としても、また発達段階に応じてアレンジすれば小学校でも応用可能なものとして作成してある。
6、「メディア制作」による発信学習は、学習の目的・「学び方」・時間数等を考慮し、焦点化した学習に
本実践に対して「メディア制作」による発信学習がないではないかというご意見や批評があるかもしれない。確かに、ニュース番組やコマーシャル制作等の「メディア制作と発信交流学習」を子どもは喜ぶし、「制作」する過程を通してメディア・リテラシーが豊かに、多面的に身につくことも事実である。
しかし、これらの学習は、次に示すような「学び方・評価=リテラシー」の基礎・基本と個性化の観点が、全員に身についていることが前提となっていることに注意すべきである。
(1)「メディア制作」による発信学習は、メディア情報操作能力の〈非常に高度な組み合わせ〉であること
指導・支援を含め、膨大な学習時間が必要であることを指導者が十分に自覚した上で行うこと
(2)「話す楽しさ」と基礎・基本、正確に豊かに「聞く(メモ)」の技術、発信された情報をもとに「交流・評価の技術(意見を持ち、質問・疑問が言える)」等の技術(基礎学力)が全員に身についていること
(3)各メディアの特色に応じた「メディア分析・批評」能力、基礎・基本の「学び方」が全員に身についていること
(4)「情報」を論理的に、個性的に収集選択し構成する言語技術が身についていること(情報リテラシー、書く)
(5)論理的で個性的なコミュニケーション(プレゼンテーション)能力、その基礎・基本と個性化についての評価能力が全員に身についていること
「メディア制作」による発信学習は、本実践事例で示したような「基本的なモデル学習」の繰り返しと組み合わせ、定着の後に「発展学習」として行うことがふさわしいというのが本書での基本的な立場である。メディア制作を学習の中心に据える場合でも、どういう学力をどのような段階(学習ステップ)と評価基準で、何時間構成で行うのかを鮮明にした授業構想が必要である。限られた授業時間数で全員に身につけさせるべき「学び方・評価=リテラシー」を精選・焦点化すること、発展的・総合的な学習での学習構想の位置の区別が必要である。本書はこうした点についての一つの提案でもある。
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- 明治図書