小学校説明的文章の学習指導過程をつくる
楽しく、力のつく学習活動の開発

小学校説明的文章の学習指導過程をつくる楽しく、力のつく学習活動の開発

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「おきまり型」の説明的文章の授業からの脱却を目指し、論理的に思考し認識するおもしろさを、子ども自らが発見できるような学習指導過程を実践に基づきながら提案する。


復刊時予価: 2,728円(税込)

送料・代引手数料無料

電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-627303-0
ジャンル:
国語
刊行:
5刷
対象:
小学校
仕様:
A5判 184頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

序 文  兵庫教育大学長 /中洌 正堯
まえがき
T 論理的に考え、表現する力を育てる
―形式的、画一的な説明的文章の学習指導過程からの脱却―
U 楽しく、力のつく学習活動を見出す
―「教材の特性に応じた多様な学習活動を設定するための要素構造図」をもとに―
一 教材の特性から―「説明的文章教材の特性」セクション
二 学習する内容から―「学習内容」セクション
三 夢中で取り組める活動の類型から―「学習者が夢中で取り組む活動類型」セクション
四 具体的な言語活動のあり方から―「具体的言語活動」セクション
V 楽しく、力のつく学習活動を取り入れた授業の実際
一年 「じどう車くらべ」(光村)
―文章との距離を縮める活動を位置づけた授業―
一 学習指導過程づくりに向けて
1 教材の特性と学習活動の設定
2 学習指導過程(単元計画)
3 学習(めあて)の流れについて
4 目標
二 授業の実際
1 好きな自動車を選ぼう
2 仕事とつくりを調べて○○のいいところを見つけよう
3 『好きな自動車お知らせ絵本』を作ろう
4 一人一人の学習ぶりに着目して
三 まとめと今後の課題
二年 「ビーバーの大工事」(東書)
―表現のイメージ性に着目しながら題名の意味を具体的に追求していく授業―
一 学習指導過程づくりに向けて
1 教材の特性と学習活動の設定
2 学習指導過程(単元計画)
3 学習(めあて)の流れについて
4 目標
二 授業の実際
1 さすが「大工事」だなあ、とわかるところを見つけよう
2 筆者の中川さんに手紙を書こう
三 まとめと今後の課題
三年 「くらしと絵文字」(教出)
―抽象と具象を結ぶ読みを促す授業―
一 学習指導過程づくりに向けて
1 教材の特性と学習活動の設定
2 学習指導過程(単元計画)
3 学習(めあて)の流れについて
4 目標
二 授業の実際
1 「絵文字の意味が言葉や年令などのちがいをこえてわかる」とは、どういうことか具体的に考える
2 絵文字の三つ目の特長を図柄と具体的につなげる
3 文字と絵文字との違いを考えることで、三つ目の特長をより具体的に捉える
4 二つ目の特長について考える
5 「親しみ」を絵文字の図柄で具体的に確かめる
6 「親しみ」の観点から絵文字の説明を書く
7 「絵文字図鑑」を作ることで、本文の内容を具体的に捉え直す
三 まとめと今後の課題
四年 「体を守る仕組み」(光村)
―述べ方の順序性に着目し、段落相互の関係を読む授業―
一 学習指導過程づくりに向けて
1 教材の特性と学習活動の設定
2 学習指導過程(単元計画)
3 学習(めあて)の流れについて
4 目標
二 授業の実際
1 体を守る仕組みのすばらしいところを見つけよう
2 体を守る仕組みを大事にする生活の仕方を考えよう
三 まとめと今後の課題
五年 「大陸は動く」(光村)
―筆者・読者・文中人物に着目した授業―
一 学習指導過程づくりに向けて
1 教材の特性と学習活動の設定
2 学習指導過程(単元計画)
3 学習(めあて)の流れについて
4 目標
二 授業の実際
1 オリエンテーション
2 ウェゲナーがこの文章を読んだら、どの部分で、どんなことを筆者に言ったりたずねたりするだろう
3 筆者になって、ウェゲナーに言葉をかけよう
4 阪神大震災のことをウェゲナーに報告しよう
三 まとめと今後の課題
六年 「二十一世紀に生きる君たちへ」(大書)
―総合的なものの見方や考え方を育てる授業―
一 学習指導過程づくりに向けて
1 教材の特性と学習活動の設定
2 学習指導過程(単元計画)
3 学習(めあて)の流れについて
4 目標
二 授業の実際
1 オリエンテーション
2 司馬さんの願いや思いを読み取ろう
3 司馬さんになって返事を書こう
4 二十一世紀に生きる自分を見つめよう
三 まとめと今後の課題
W 説明的文章の学習指導過程の実態はどうなっているか
一 実態分析の方法
二 実態分析の結果と考察
1 類型別の割合
2 学習指導過程の各段階における学習活動の特徴
3 「目標―内容―方法」の整合性
X 学習指導過程の改善に向けて
一 学習活動を工夫する
二 目的性・必然性を大事にする
三 教材の特性との関連・対応を図る
四 学習活動の流れや順序性を重視する
あとがき

序文

 吉川芳則さんは、国語科授業にたえず新風を注ぎ込むことに腐心してきた人である。実践に関しては、自他ともに妥協を許さない気迫の人である。

 その吉川芳則さんの第一著作である『小学校説明的文章の学習指導過程をつくる──楽しく、力のつく学習活動の開発──』が、刊行の運びとなった。第三者からはほんとうに第一著作ですかと問われるほどに、吉川さんは多くの発表を重ねてきた。この度、それらの発表を精選し、小学校の説明的文章の学習指導に関して、単元としての学習指導過程を構成していく基本原理とその実践例を体系的に示す機会を得た。そのことを、著者はもちろん国語科教育の実践にとっても大いに喜びとしたい。

 吉川芳則さんが兵庫教育大学の附属小学校に赴任してきたのは、一九八七(昭和六二)年四月のことである。大学と附属の国語科の間には、凱風会という研究会があり、吉川さんとの交流もそこからである。吉川さんは、そのころすでに、創意工夫のある授業をする若手の実践者として知られつつあった。爾来、附属小学校という実践環境にあって、吉川さんが教育実践の不易と流行の荒波を受け、きびしい研鑽を重ねてきたことは、想像に難くない。

 吉川芳則さんは、一九九五(平成七)年四月から二年間、兵庫教育大学大学院に在籍し、自己の実践を省察し、新たな方向を模索することになる。修士論文は『説明的文章の学習指導過程に関する研究』であり、本書もまた、その延長線上にあるということができる。

 本書の構成は、次の五章から成っている。

T 論理的に考え、表現する力を育てる──形式的、画一的な学習指導過程からの脱却──

U 楽しく、力のつく学習活動を見出す──「教材の特性に応じた多様な学習活動を設定するための要素構造図」をもとに──

V 楽しく、力のつく学習活動を取り入れた授業の実際

W 説明的文章の学習指導過程の実態はどうなっているか

X 学習指導過程の改善に向けて

 第V章には、第一学年から第六学年まで一例ずつ精選された実践例が示されており、第T章、第U章での説明的文章の学習指導の意義と仮説(要素構造図)を検証するものとなっている。第W章、第X章は、第T章、第U章での意義と仮説が先行する理論と実践のどこから導出されたものであるか、また、説明的文章の学習指導は今後どうあるべきかについて、とりわけ単元の学習指導過程の問題を中核として論述したものである。したがって、本書は、実践が理論によって包まれた構成になっており、ここにも著者の工夫を見出すことができる。

 本書で最も注目すべき点は、「要素構造図」の創成であり、それを単元の学習指導過程に具現化していく筋道の提示である。

 「要素構造図」は、これまでの学習指導過程の実態分析や、教材論、授業論等における先行研究・実践の成果、それと著者らの研究成果から構想されたものである。「教材の特性」「学習内容」「学習者が夢中になる活動類型」の三要素から「具体的な言語活動」が案出され、それが、単元の学習指導過程として具現化される。

 この「要素構造図」は、その中に、子どもの読みの意識、子どもの側からの発想を取り入れたことを大きな特徴とする。すなわち、三要素の一つ「学習者が夢中になる活動類型」セクションの設定や、「教材の特性」セクションにおける「子どもの側から教材を捉えるときの特性」の設定などがそれである。

 その子どもの読みの意識、子どもの側からの発想への注目が、「ズレの感知→つきつめる→新たな立ち向かい」という学習過程の最適化理論(広岡亮蔵、一九七二)を、今日に再生させたといえる。これは、例示された第一学年から第六学年まで、それぞれの単元の学習指導過程の基本骨格をなしている。「新たな立ち向かい」が、子どもの生活へ向かっていることも、芦田恵之助の「生活におとす」というかつての立言を、不易のこととして想い起こすことができる。

 冒頭に、吉川芳則さんを「実践に関しては、自他ともに妥協を許さない気迫の人」と述べた。それは、けっして硬直を意味するものではない。その証として、学習指導過程に「諸変数に可変的に対応できるものであること」を求めたり(一七三ページ)、実践のポイントでは手引きを用意したり(八七ページ、一一四ページ)して、「要素構造図」から導かれる単元の学習指導過程に潤滑油を注ぐなど、気配りの人であることにも触れておかなくてはならない。

 また、吉川実践の特徴の一つとして、ゆさぶり発問、たとえば「別にこれね、なくったっていいような気がするんだけれど……」(九六ページ)などが実践ごとに見られる。そして、そのゆさぶりに子どもたちが挑んでくる布石として、たとえば「ああ、そういうことかあ。」(八四ページ)と子どもの思考に納得する授業者の姿勢の表出などがある。かつまた、実践への反省、たとえば「子どもたちの個人学習の成果をもっと自由に話し合うような学習スタイルをとっていたなら、授業の展開はもう少し変わったと思われる。」(一二〇ページ)などを忘れない。

 国語科の時間数削減という現代の教育状況下にあって、「楽しく、力のつく学習活動」のためには周到な工夫が要る。国語科教育の今後の発展のためにも、本書の提案・提言に対する実践的討論を期待してやまない。


  平成一四年一月   兵庫教育大学長 /中洌 正堯

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