21世紀型授業づくり47
国語力を育てる言語技術教育入門

21世紀型授業づくり47国語力を育てる言語技術教育入門

好評4刷

書評掲載中

基礎と基本を分けよう/説明文教材の言語技術教育/文学教材の言語技術教育/作文の言語技術教育/言語技術教育と国語科の評価/国語教育研究会・学会の言語技術など


紙版価格: 2,530円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-627105-4
ジャンル:
国語
刊行:
4刷
対象:
小・中
仕様:
A5判 176頁
状態:
在庫僅少
出荷:
2024年4月25日

目次

もくじの詳細表示

まえがき
序論 基礎と基本とを分けよう
一 基礎と基本の定義
二 基礎学力・基本学力の基準を立てる
三 「聞く」学習の基礎と基本
四 「話す」学習の基礎と基本
五 「読む」学習の基礎と基本
六 「書く」学習の基礎と基本
本論T 説明文教材の言語技術教育
一 文章構成(リライト教材)
二 一段落一事項
三 キーワード
四 リライト教材の作り方
五 主語と述語
六 論理的思考力を育てるドリル
七 説明文指導の実際
八 説明文指導の理論
本論U 文学教材の言語技術教育
一 あらすじ(物語の内容を五項目にまとめる技術)
二 中心人物(物語の内容をはっきり意識する技術)
三 「語り」と描写(文章の表現技術を楽しみ、味わう技術)
四 自分の感想をまとめる(自分の言葉を自分で確かめる技術)
五 文学教材指導の実際
六 文学教材指導の理論
本論V 作文の言語技術教育
一 論理的表現力を育てるための作文指導
二 口頭作文
三 原稿用紙(赤い線)とエンピツ
四 キーワード作文
五 作文指導の実際
六 論理的な作文観点別評語一覧
七 小論文評定の処理
八 作文の書き方プリント
九 どちらがじょうずかな
一〇 作文指導の指導案
一一 作文指導の理論
本論W 言語技術教育と国語科の評価
一 相対評価から絶対評価へ
二 「到達度絶対評価ワークシート」の試み
三 「到達度絶対評価ワークシート」の一例
四 評価の理論
本論X 国語教育研究会・学会の言語技術
一 時間を守る
二 学習指導案の意義と役割
三 授業検討会
四 資料の形式を統一する
五 二人で研究授業を見せ合おう
六 分からなくてもいいから上手な授業を見よう
七 試行錯誤が良い教師を作る
八 失敗した研究授業こそ研究の宝庫である
九 指導案は一人で作る
一〇 事前研究よりも事後研究が大事
一一 流行のテーマでなく、授業の困難点をテーマに
一二 模擬授業が便利だ
一三 校内研究会の進め方
一四 校内研究のまとめ方
一五 研究紀要を作る
結論 これまでの国語教育、これからの国語教育
一 これまでの国語教育
二 これからの国語教育
三 まとめ

まえがき

 国語教育は技術的に教えると、生徒は小学生から大学生までじつによく理解する。この事実は、残念ながら私が中学高校の教諭時代の終わりごろになって、やっと分かった。それまでの一五年間は、毎日泥沼をはい回るような苦しさであった。熱を入れて授業をするほど、生徒はつまらないという顔をする。 どうしたものかと悩んでいた。

 あるとき、風邪をひいて声が出なくなって、生徒に自由に自習させたら、生徒の多くが教材文の森鴎外『妄想』をすらすら読んで「これはおもしろい文章だなあ。授業より自分で読んだ方がよく分かるな」と話し合っているのに、ショックを受けた。あとで『妄想』は一度授業をすませていて、読み返したらよく分かった、という意味だったと知ったが、それでも一カ月くらいは授業をする元気が出なかった。

 それからは大いに反省して、現代文の文章は、文章構成上の問題になりそうな、全文のうちの一箇所か二箇所だけ語句の説明をして、どしどし進むことにした。語句の説明も、歴史的背景や当時の時代背景が必要なものに限って、一言二言だけ言った。すると、生徒は大いに感心し、喜ぶではないか。

 その瞬間、授業のコツがつかめた。授業中は教師の説明が少ないほど、生徒には文章がよく見えるのだ、と。


 山形大学の常勤講師として教員生活を始めた当初は、読書と文学研究の時間が増えた、と無邪気に喜んでいた。

 そのころ、私のせがれ二人が山形市の小中学校に通い始めて、せがれの話から国語科の授業の様子がくわしく聞けるようになった。地域の先生方が二〇人ほどで「主題指導」のことで大学に相談に来た、教育センターから講習会に来てほしい、組合教研集会の助言者に来てほしい、等の要請があり、そこで小中学校の先生方とくわしい話をしてみると、先生方の背後には国語教育という荒涼とした世界が広がっている様子が次第に分かってきた。

 そこで私は考えた。文学研究は私一人の満足感を充たすものだ、しかし、説明文教材や文学教材の指導研究はせがれをはじめとするたくさんの生徒や、困っている先生方の役に立つ研究である。しかも、主題指導や説明文指導の現状はどうやらほとんど開拓が進んでいない分野のようだ。これはやりがいのある仕事かもしれない。

 教育学部の一員として、今から考えるとお恥ずかしい限りだが、自分でゆっくり考える時間があったことが、私の決心をじっくり固める役に立ったようであった。そのころ、親しくしていただいている漢文学の沼口助教授が、「大学の教師は学術論文を書く責任がある。紀要等に載る論文を三本書けば助教授に、研究書を三冊書くと教授になれる」と教えてくれた。新米の講師にとって実に適切な基準の示し方であった。そこで三カ月ほどかかって「国語教育における説明文の指導上の問題について―説明文と説明の関係―」『山形大学紀要(教育科学)第六巻・第三号』(昭和五一年二月)という論文を書いた。沼口助教授がつききりで書き方を教えてくれたので、たいそうありがたかった。

 二番目は「主題認識の構造」で、初めは三〇枚の投稿論文であった。これが後に飛田多喜雄先生から紹介されて明治図書の江部編集長の目にとまり、一九八〇年に一冊の本にまとまった。一編の論文にくらべて一冊の研究書を書くには、馬力も構成力もけた違いに必要なことがよく分かった。


 一九八三年ころ、『読み方授業のための教材分析』全八巻を渋谷孝氏と共編で刊行した。このとき、学習指導案をはじめとする全部の原稿を一つの形式で統一することを考えた。それは次のような理由である。

 各地の授業研究会に出席するたびに、学校研究紀要や授業研究報告の形式がばらばらで実に読みにくい。当時すでにワープロが普及して文字だけは読みやすくなっていたが、表紙がない、奥付がない、ページ数がない、見出しがない、その上、学校指導目標、学校研究主題、学習指導案、授業報告等の形式も名称も統一性がない。

 学習指導案の「指導目標」、「教材のねらい」、「生徒の実態」等の各文章が八〇〇字以上の長文で、しかも観察した事実と感傷と恨みと悔恨とが改行もなく書き連ねてあるかと思えば、学習指導要領の中の単語をつぎはぎしたような文章がながながと書いてあって、何を主張したいのかさっぱり分からない。これには本当に驚いた。(後に『教育科学/国語教育』で六年間、「研究誌から問題を拾う」欄を担当することになって、全国的に小中学校の授業研究紀要が同じような実情であると知ることになった)

 こういう実情を改善しようと、国語教育研究所の諸先生に「形式をはっきりと決めて、教育研究論文を公募しませんか」と提案したが、「形式を統一したら、質の差が分からなくなる」とみんなに言われてあきらめた。要するに、分かりやすい報告・論文には統一した形式が必要だという考えが、当時の国語教育界には十分認識されていなかったのである。『読み方授業のための教材分析』全八巻が、教材研究の形式を半分は統一し、半分は自由にという書き方になっているのは、このためである。

 その後に出た『読みを深める授業分析』全八巻(一九八七)は、全編統一した形式で書かれた最初の授業研究書になった。さらに、『読みの授業の筋道』全八巻(一九八九)は、説明文教材と文学教材とのそれぞれが一定の指導過程を持ち、全実践が一斉にその指導過程を実践してその授業評価をするという、実験を行っている。

 この方法はその後『実践言語技術シリーズ(文学教材編)』として小学校一二巻・中学校八巻(一九九七年八月)、『言語技術を生かした新国語科授業(説明文教材編)』として小学校八巻・中学校三巻(一九九八年八月)として結実した。このときには著者として全国的な研究者・現職の先生方に、広くご協力いただいた。そして多くの著者の先生方から、「形式が決まっていると、授業報告がたいそう書きやすいことが分かった」という感想をいただいた。

 私が一五年間かかって、報告・論文形式の確立を目指してたたかってきた成果が、一つ結実した瞬間であった。


 言語技術教育の大きな目標は、小学・中学・高校・大学の国語教育を技術的に明快な指導体系に整えることである。

 その基礎的な一例が、『論理的思考力を育てるドリル第1〜2集』(明治図書、二〇〇二刊)であり、『到達度絶対評価ワークシート第1〜3巻』(明治図書、二〇〇二刊)である。これらのドリル集・ワーク集は小学校低学年から言語技術教育が可能であるという証明になるもので、言語技術教育の出発点を示している。

 このように、言語技術教育というものは志を立てた人なら、その誰もが一定の学習・研究を行うことによって、子どもたちの国語(日本語)教育を一定の水準で行えるという指導体系である。そういう指導体系を実現するために、私は今後とも努力を続けたい。本書がそのささやかな出発点になれば、幸いである。

 最後になったが、私が行き詰まったり孤立したりしたときに絶えず励まし続けてくださり、また本書の刊行を勧めてくださった明治図書編集長江部満氏に対して、心から感謝する。


  二〇〇二年一月   /市毛 勝雄

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