- 第1章 道具の魅力
- 思考と表現,そして道具
- 道具を使う前に
- 道具としての概念地図法と描画法
- 道具の使い方
- 道具と評価
- 第2章 道具により広がる学びの世界:概念地図法
- 概念地図法とは /上辻 由貴子
- 概念地図法とは何だろう/ 子どもたちに概念地図を作らせてみよう/ 子どもたちの概念地図を読みとろう/ 授業で概念地図法を使おう
- 課題作りの道具としての概念地図法
- ――5年生「動くもののはたらき〜ふりこ〜」での利用―― /山本 智一
- 学習の全体像をつかみ,自ら実験をつくりだしていく子どもに/ 課題づくりの道具として使う/ 「動くもののはたらき〜ふりこ〜」の学習から/ 単元の見通しを持って課題を追究する
- 疑問を整理し,問題を把握する道具としての概念地図法
- ――6年生「水溶液の性質」での利用―― /小牧 啓介
- 何が問題かを把握できない子どもに/ 対話を通して疑問を出し合うための道具として使う/ 子どもは何を表現したか/ 何が変わったか
- 問題解決の道具としての概念地図法
- ――4年生「電気のはたらき」での利用―― /兒玉 秀人
- 指示待ちの子どもたちに「本気になる」概念地図法を/ 問題を引き出して整理した例 4年生単元「電気のはたらき」/ まとめ
- 考察を深める道具としての概念地図法
- ――中学3年生「酸・アルカリ・塩」での利用―― /坂野 幸彦
- 自分なりの考えを構築できる子どもに/ 考えを構築するための道具として使う概念地図法/ 実践の内容(子どもは何を表現したか)/ 成果と課題
- 共同学習の道具としての概念地図法
- ――5年生「お天気博士になろう」の導入場面より―― /溝辺 和成
- 語り合い,響き合う子どもに/ 授業設計はこのように/ 表現された子どもの知識/ 媒介としての存在
- 学習の振り返りとまとめの道具としての概念地図法
- ――4年生「物のあたたまり方」での利用―― /納 三生
- 学習の振り返りが苦手な子ども/ 振り返りとまとめの道具として使う概念地図法/ 子どもは何を考えたか/ 何が変わったか
- 第3章 道具により広がる学びの世界:描画法
- 描画法とは /里岡 亜紀
- 描画法とは何だろう/ 子どもに描画をさせてみる/ 子どもの描画を読み取ろう/ 授業で描画法をつかってみよう
- 問題解決の視点を絞る道具としての描画法
- ――5年生「人のたん生」での利用―― /根井 誠
- 自分調べが未熟な子どもに/ 資料調査や観察の視点を絞るための道具として使う/ 子どもは何を表現したか/ 何が変わったか
- 予測の道具としての描画法
- ――6年生「電流のはたらき」での利用―― /長友 晃一
- 描画法の新たな利用の在り方(予測の道具として)/ 自分の考えを表現できる子どもに/ 子どもはどう考えたか/ 自分の考えを確かめる方法としての描画法の有効性
- 対話の道具としての描画法
- ――中学2年生「電流」での利用―― /日高 俊一郎
- 議論の苦手な子どもに/ 対話の道具として使う/ 子どもは何を表現したか/ 何が変わったか
- メカニズムを探る道具としての描画法
- ――高校3年生 物理IB「電流と電子」での利用―― /小野瀬 倫也
- 探究するための道具を持たない生徒に/ 思考を深める道具として「モデル」を使い,表現の道具として描画法を使う/ 生徒は何を表現したか/ 何が変わったか
- 学習の振り返りとまとめの道具としての描画法
- ――4年生(帰国子女教学級)「水の旅物語」での利用―― /藤本 雅司
- 豊かな表現をする子どもに/ 学習の振り返りとまとめの道具として使う/ 子どもたちが描きだしたもの/ 紙芝居の発表を終えて
- 第4章 道具が拓く新しい理科授業
- 「ちょっと先輩」が語るわたしの道具体験 /山口 悦司
- はじめに/ 道具を使ってみてよかったこと/ 道具を使ってみて困ったこと/ 道具を使う上で工夫していること/ おわりに
- 道具と学びのデザイン /稲垣 成哲
- 道具と学びの関係/ 学びのデザイン/ 新しい学びのデザインを求めて
- 補章
- 付録1 その他の道具 /山口 悦司
- 付録2 道具使用の心得10カ条 /稲垣 成哲
- コラム
- 1 概念地図法という道具を越えて /大辻 永
- 2 科学ファンのブロマイド /隅田 学
- 3 共同体の学びの道具として /鈴木 真理子
- あとがき /稲垣 成哲
- 謝辞 /中山 迅 /稲垣 成哲
はじめに
この本は,思考と表現の方法としての概念地図法と描画法のよさを,少しでも多くの人に知って,使ってもらおうとして企画したものです。
でも,この本には私たちの心の中にあるもう一つのタイトルがあるのです。
「あなたと考える概念地図法と描画法11種」
これは,俵万智さんの「あなたと読む恋の歌 百首」(朝日新聞社, 1997)をもじったものです。私たちは,俵万智さんの文学に対する姿勢に感銘しました。万智さんのベストセラーに「チョコレート革命」(河出書房新社, 1997)があります。
男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす
この歌について,万智さんは,あとがきでつぎのように書いています。
「大人の言葉には,摩擦をさけるための知恵や,自分を守るための方便や,相手を傷つけないためのあいまいさが,たっぷり含まれている。そういった言葉は,生きてゆくために必要なこともあるけれど,恋愛のなかでは,使いたくない種類のものだ。そしてまた,短歌を作るときにも。言葉が大人の顔をしはじめたら,チョコレート革命を起こさなくては,と思う。」
私は,この考え方は,理科の授業や理科の実践研究にもあてはまると思います。授業では,ときに,自然についての自分の本当の考えではなくて「建て前」の答えを言おうとする子どもがいます。先生方も,「素晴らしい授業でした。」と,お世辞をいわなければものが言えないような雰囲気になることがあります。それが,社会であり,学校なのかもしれません。
でも,この本が提案する理科の授業は,子どもと教師が向き合い,本心で自分の考えを表現し対話する授業です。子どもから表現されるものに触れた教師と教師の間で,授業について本音で語り合いたいのです。
この本の執筆メンバーは,私たち編著者と,いつも本音で理科の授業や子どもについて語り合う仲間です。時には喧嘩もしますが,授業について語る表情は真剣です。そこには,「自分はいつも,子どもたちと考えをぶつけ合いながら,自然を調べる実践に取り組んでいる」という自負があるのです。だから,具体的な子どもの姿を通して議論ができるのだと思います。
ところで,子どもと教師が,自分の考えを的確に表現し,対話を行い,自然の仕組みについての感動を共有していくには,それを支える「道具」が必要です。この本で紹介する「概念地図法」と「描画法」は,その道具です。
私たちが「概念地図法」や「描画法」を表現の道具として紹介したのは,2年前でした。「子どもの学びを探る―知の多様な表現を基底にした教室をめざして―」(R. ホワイト・R. ガンストン著 中山迅・稲垣成哲監訳,東洋館出版, 1995)の「監訳者まえがき」の中で,私たちは概念地図法や描画法を,「子どもが知を表現する道具」として紹介しました。
あれから3年が過ぎるうちに,「表現の道具」あるいは「思考の道具」としての価値はますます認められてきたと思います。しかし,時に,「使い方がよく分からない」とか,「そんなものを使う必要があるのか」という声も聞こえてくるようになりました。それで,実際の授業実践を例にとりながら,より多くの人といっしょに「道具」としての概念地図法や描画法の価値について考えてみるための本を出そうと考えたのです。
この本では,私たちの仲間の主として20代前半から30代までの,若い11人の教師が取り組んだ11の実践を紹介します。そこには,描くことによって自分自身の考えに気づいて驚く子どもの姿や,描くことから新しい問題を見つけたり,実験の方法を考えたりして胸を踊らせている子どもの姿,そして,子どもと学び,子どもから学ぶことに喜びを感じている,心の若い教師の姿が見えてくると思います。
あなたといっしょに,概念地図法と描画法を使って考えたい。
それが,私たちの願いです。
1998年3月2日 /中山 迅
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- 明治図書
- 概念地図法と描画法を身につけられる書籍です。類書はほかにありません。是非復刊していただきたい。2014/5/25