- はじめに
- T 理論編/子どもの音楽療法の基礎
- 1 音楽療法とは
- (1) 音楽療法の定義
- (2) 音楽の機能
- (3) 音楽療法の対象
- 2 知的障害について
- 3 知的障害児に対する音楽療法
- (1) 子どもを対象とする音楽療法の基本的な考え方
- (2) 個人音楽療法と集団音楽療法
- (3) 音楽療法計画のプロセス
- (4) セッションで使う曲について
- (5) セッションで使う楽器について
- (6) 観察・記録・評価
- 4 子どもの音楽療法における様々な技術
- 5 音楽療法を進める際に配慮しなければならないこと,心構え等
- (1) 音・音楽・楽器等を刺激として与える際の配慮
- (2) 個々の子どもの発達への配慮
- (3) ねらいをはっきりと意識しながら進めること
- (4) セラピストは常に≪個≫に目を向けること
- (5) セラピストは,既成の概念にとらわれすぎないように気をつけたい
- (6) 様々な工夫を凝らすこと
- (7) セラピストは,子どもの世界に土足で踏み込んではいけない
- U 実践編/音楽活動の中の子どもたちから学ぶ
- 1 幼児対象の音楽療法
- 【個人】
- ■ 重度障害幼児における音楽療法 ――発達を促し外界へ向かわせたものは何か
- コメント 集団から個別のかかわりへの転換がポイント
- 【集団】
- ■ 養護学校幼稚部におけるコミュニケーションを育てる集団音楽指導
- コメント コミュニケーション能力を育み,意欲と個性を引き出す
- ■ 子どもと向き合う ――知的障害幼児通園施設における小グループセッションからの学び
- コメント 一つの楽器を通して相互の関係を深めた実践
- 2 小学生対象の音楽療法
- 【個人】
- ■ 友達への依存が強いAちゃんに対する個人音楽療法 ――友達がいなくても楽しめることを目的として
- コメント その子にとって必要な能力の開発を実現
- 【集団】
- ■ AD/HDの兄と妹による音楽療法集団セッション ――楽器とのかかわりに焦点をおいた活動報告
- コメント 「待つ」働きかけを重視した適切なかかわり方
- ■ 他者との豊かなかかわりを目指した集団音楽療法の実践
- コメント 実態と課題を考慮したオリジナル曲の活用
- ■ 児童の発達段階や表現方法を考慮した集団音楽活動 ――個人にアプローチする音楽療法の手法を取り入れて
- コメント 個の実態に即した即興的な対応の素晴らしさ
- 3 中学生対象の音楽療法
- 【個人】
- ■ 「聴きあう」ことを通した音楽療法 ――H君の自由な表現に寄り添いながら
- コメント エネルギーの発散を「音に耳を傾けて聴くこと」で
- 【集団】
- ■ 音楽の中に生まれる相互作用
- コメント 緻密な分析を積み重ねながらの実践
- ■ 養護学校中学部における集団での音楽学習 ――集団の中で個々の表現を生かす創作活動を中心に
- コメント 「心が踊るような体験」を積み重ねて
- 4 高校生対象の音楽療法
- 【個人】
- ■ 個人音楽療法 ――情緒が不安定な自閉的傾向の高校生への音楽療法
- コメント 社会の一員として迎え入れられるために
- 【集団】
- ■ 大人への階段を登りゆく彼らとともに ――自主グループによる集団音楽療法の事例から
- コメント 地域の中で自分らしく生きるために
- ■ 音楽で生活を豊かにする授業をめざして
- コメント 子どもを見る目の確かさと豊かな発想で,集団における個の実践
- 5 青年対象の音楽療法
- 【個人】
- ■ Kさんの生活を豊かにする音楽の力
- コメント 音楽と音読活動で,生きることへの積極さを
- 【集団】
- ■ 施設における音楽活動の意味を考える ――知的障害者との集団音楽活動からの学び
- コメント 対象者とじっくり向き合い,理解を深める
- おわりに
- 参考文献
はじめに
私は大学3年生のときに,故加賀谷哲郎先生を中心に進められていた障害のある子どもを対象とする音楽療法の実践グループに参加させていただいた。そこで初めて知的障害の子どもたちとの出会いを体験した。
1967年と1969年の2度にわたるジュリエット・アルヴァン先生(註)の来日をきっかけに,音楽療法の魅力を感じるようになった私は,この分野を生涯の仕事としようという決意をもつようになった。
アルヴァン先生の2度目の来日(1969年)の際には,東京都心身障害児(者)福祉センターで行われた8名の知的障害児のグループに対する音楽療法の実践に,アシスタントとして参加させていただく機会を得た。
ここで得た音楽療法に感する知見は,その後の私の実践活動に大きな影響を与えた。対象児の見方,理解の仕方,場面設定の仕方,子どもとのかかわり方,音楽の扱い方等々,実に多くの貴重な学びがあった。
その後私は,アルヴァン先生の教えを胸に,小学校の特殊学級,障害児のための通園施設(所沢市かしの木学園),養護学校(国立久里浜養護学校と宇都宮大学教育学部附属養護学校の2校)で,心身に様々な障害のある子どもたちとのかかわりを続けた。音楽セッションを行う際には,いつもアルヴァン先生の言葉を思い出し,できるだけ細かい配慮をしながら展開させた。
平成9年4月に国立(くにたち)音楽大学に勤務を変え,音楽教育や音楽療法等を学ぶ学生たちの教育に携わることになったが,子どもたちとのかかわりを継続することがとても大切であると考え,発達支援センターやデイケア施設等で幼児や児童,青年たちに対するセッションをさせていただくようにした。年々仕事が増えて,実践を継続することが難しくなりつつあるが,できるだけ子どもに接する機会をもちたいと思い,知人が行っているセッションを見学させていただいて,子どもを見る観察眼,反応をとらえる能力,そして少しでもかかわる時間を見つけ,かかわりへの感性を磨くように努めている。
私は「子どもから学ぶ」という言葉を大切にしながらかかわりを続け,たくさんの学びを得てきた。多くの子どもたちは,実に天真爛漫な態度で音楽表現に打ち込んでいた。こだわりをもたず,枠組みを意識しないで,また,とらわれのない態度で楽器に触れたり,声を発したり,身体の動きなどで即興的に表現をしたりする姿を見ていると,驚きと感動を感じることがある。その発想の豊かさを知ると,既成概念にがんじがらめになっている自分と比較して恥ずかしささえ覚える瞬間がある。「既成概念から脱却したい」と願いつつ,いつの間にか再び枠組みにとらわれている自分に気がついて愕然とするのである。
これまでかかわりをもった子どもたちから,とてもたくさんの重要なことを学ばせていただいた。そうした貴重な学びについて,この本を通してできるだけ多くお伝えできれば嬉しい。
今,日本ではとても多くの方が音楽療法に興味・関心を抱き,講習会に参加したり,実践の場を求めて奔走しておられたりしている。そのような方々は,それぞれが自分の得意とする表現方法を通して対象者とかかわっておられる。いろいろな理論背景をもって自分の音楽療法を構築しておられる。
音楽療法の対象は,子ども,成人,高齢者等と大変幅広い。そうした中でも,心身に障害や疾病のある子どもを対象とする音楽療法に取り組んでおられる方は多い。
この本では,前半に《理論編》として音楽療法や知的障害児の概念,知的障害児に対する音楽療法の基本,諸技術,配慮事項等についてまとめる。後半には幼児,児童,生徒,及び成人に対する個人音楽療法と集団音楽療法について,現在施設や学校等で実践に取り組んでおられる15名の方々に事例報告をしていただき,それぞれの論文に対して私の考えや思いを込めてコメントを書かせていただくように計画した。
この方々に執筆をお願いする際に,特にフォームを決めずに自由に書き進めていただきたいとお願いした。それぞれの立場や考え方,セッションを行う場所等の条件によって書きぶりが違ってよいと思うからであった。とは言ってもあまりにもばらばらでは読者が混乱するといけない。そこで次の点をお含み置きいただきたいとつけ加えた。@どのような対象に対して,Aどのような考えに基づき,Bどのような方法で音楽療法を進められたのか,また,Cその結果どのような状況の変化等が生まれたのか,Dそのことについて執筆者自身はどのように考えるか(あるいは,学んだのか)。
自由にとは言いながら,結構枠組みがありすぎるかもしれない。しかし,それぞれの方は,しっかりご自分の体験と考え方を書きあげていただいたように思われる。この方々は,これからの音楽療法界で活躍していかれる若い方々ばかりである。
日本の音楽療法界に多大な影響を与えたアルヴァン先生や数多くの子どもたちからの学びを基に書かれる本書が,現場で子どもたちにかかわっておられる方々に少しでも役に立つものであってほしいという願いを強く抱いている。
註:Juliett Alvin(ジュリエット・アルヴァン)
チェリスト。音楽療法の開拓者の一人として著名であり,この分野の実践家でもある。英国音楽療法協会の設立者。また,英国に音楽療法士養成のためのコースを設立した。
1976年と1979年に二度来日し,世界の音楽療法を紹介するとともに,東京都心身障害児(者)福祉センターで,8名の知的障害児に対するデモンストレーションとしての音楽療法を実践した。
アルヴァン先生の来日を機に,日本における音楽療法への関心がにわかに高まった。先生の来日は,わが国の音楽療法界の発展に大きく寄与したと言っても過言ではない。
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明治図書
















