- まえがき
- 第1章 特別支援教育と保護者
- §1 特別支援教育成立の経緯
- §2 特別支援教育の構想と保護者
- §3 盲・聾・養護学校の在り方と保護者
- §4 小・中学校の在り方と保護者
- §5 特別支援教育体制の専門性の強化
- 第2章 保護者との信頼関係を培うための6つの視点
- §1 保護者の苦しみや悩みについて知る ―保護者の立場の尊重―
- §2 保護者の身になって考える ―保護者への共感的姿勢―
- §3 さりげなく語りかける ―保護者との契機づくり―
- §4 保護者の声を最後まで聞く ―保護者の主体性の尊重と保障―
- §5 保護者を絶対に批難しない ―保護者同士の連携の促進―
- §6 子どもの変容を示す ―実践的事実の創造―
- 第3章 風信『ピグマリオン』からのメッセージ
- ○プロローグ
- 第1学期 子どもたちに頑張れという前に
- 子どもたちの明日の日のために
- 「かかり」「当番」決まる
- 子どもとのやりとり
- 子どもが選ぶということ
- 子どもの直観
- 火事になってよかったとは何だ
- 生活単元学習
- 授業はドラマ
- 教育は社会現象の一つ
- 職業的自立の基本
- チョウネクタイ
- アクセルとブレーキ
- つくしに学ぶ
- ニオイでさがす
- やさしいお兄さん
- 幸せなひととき
- いたずらと常識
- 四つの本能
- 子どものケンカ
- 7人の侍
- 教育は中立
- ピグマリオン効果って何?
- 遠足こぼれ話
- 愛のもつれ?
- たまり場をつくろう!
- もう許してやれよ,先生
- 深く感動する
- 「おはようございます,ハイお酒!」
- 食欲とマナー
- 「先生,アシ!」
- どこの学校さ行ってるの?
- 「しつけ」について
- 「〜である」価値から「〜する」価値へ
- 研修報告〈I大附養公開研〉
- 恩人たちの修学旅行
- わかり合えないからこそ
- 周囲の人々の支援
- 教育実習生
- あおぞら学級の教育目標
- やさしさと厳しさの統一
- よくガマンしたね
- 量子学的思考のすすめ
- 無声授業
- 教育における「間」
- ハラさ書けばいい
- 宿泊学習
- ハダカのつき合い
- あやちゃんのお見舞い
- 第2学期 チャレンジングチルドレン
- 見守りながら待つ
- 五郎くん発作で倒れる
- 「静」としての黙想
- 「動」としてのボクシング
- 小さな親切,大きなお世話
- 自然が教育する
- 元気に「ビョウキ!」
- 障害は,周囲の人たちの心の中に
- 保護者の教育への参画
- 「無関係」の関係
- さみしさは誰にも在るもの
- 見られる,そして授業は変わる
- PTA会報の課題
- 教養とは土を耕すこと
- 教育の核心とは
- 「先生,入ってもいいよ」
- 正義の人
- 学芸会は平和のシンボル
- 練習風景
- 食事は楽しく!
- 学芸会の舞台裏
- 保護者の切実さ
- 道草のすすめ
- 二人のおばあちゃんの支援
- 子どもの自立
- コリャダメダー!
- 折り紙って難しい?
- チャレンジングチルドレン
- 人間の哀しみ
- 第3学期 先生,もう東京さ行ってもいい
- ゲイヨウビ!
- お祈り
- 公男くんのお姉さん
- 明くんの質問攻め
- おばけ算数
- 二人のリーダー
- ピグマリオンを聞いている人
- 教育の原像
- ケッパレ,つよしくん
- 北の国から
- 書くということ
- たくちゃんが書いた!
- 肢体不自由のある障害犬
- 熱きハートと冷めた頭脳
- 安心できる人がいればいい
- 給食と校長
- 迷惑をかける勇気を!
- ゆりちゃんへのゆさぶり
- はるおくんが「ピ・グ・マ・リ・オ・ン」
- 話す・書く・読む
- 話すということ
- 民主主義と話し合い
- 変容する子どもたち
- テレビ寺子屋
- 子どもたちの会話
- 新入生・進級生の一日体験
- ある父親からのメッセージ
- 高村光太郎の『道程』
- お詫び
- かけ橋としてのピグマリオン
- もう待てない!
- 手をたたいて発語
- 無言のタッチへ
- 愛するとは耐えること
- 追い込み
- おばあちゃんのやりとり
- ころがしドッジボール
- 興味とあいさつ
- 挫折しながら
- 問題解決学習
- 教育とは生命に対する畏敬
- ゆりちゃんに拍手
- 先生,もう東京さ行ってもいい
- ○エピローグ
まえがき
子どもの成長を願わない教師が一人もいないように,我が子の幸福を願わない保護者はいません。その保護者の最も切実な問題は,障害を有するがために子どもの活動が制限されたり,社会への参加が制約されたりすることではないかと思われます。
子どもの自立や社会参加を可能とするためには,ICFが指摘するように教育・医療・福祉関係等々,周囲の人々の支援が必要不可欠です。特に,子どもの身近なところに存在する保護者と教師の信頼関係に基づいた連携・協力体制がなければ,かれらの幸福はないといっても過言ではありません。
教師と保護者等との連携・協力体制の必要性については,2003(平成15)年3月に公表された『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』がいたるところで論じています。「特別支援教育」における保護者の位置づけが「参加」から「参画」へと実質的に進展している点は高く評価できます。
この『最終報告』の最も根幹を成す思想は,分離の場としての特殊教育から「共生社会」を目指す「特別支援教育」への転換を図ろうとしている点にあります。その一つとして保護者の役割は極めて重要であることを国家レベルで全面に打ち出したのです。
教育現場の多くの教師もまた「保護者との連携・協力」の重要性について声を大にして叫んでいます。例えば,私が関係する教師の免許取得のための認定講習の提出レポート「教師の専門性の向上」に目を通すと,半数以上の受講者が保護者との連携の大切さと難しさを語っています。
関係誌にみる保護者等々の声,例えば,山岡修氏(全国LD親の会会長)や高山恵子氏(NPO法人えじそんくらぶ代表)は,「子どもや保護者」の理解,「特別支援教育コーディネーター」としての教師への期待,「個別指導の場の保障」の要望等について述べています。
しかし,現実的にお互いの連携・協力をどのようにして構築するかとなると,そう簡単ではありません。障害のある子どもの教育において,保護者と子どもに対する教師のエネルギー量を10とするならば,その比率はおよそ7対3ぐらいではないかと述べている関係者がいるほどです。
保護者との連携・協力の在り方の必要性を論ずるだけではなく,その根源に存在する「信頼関係」の構築を目指して,どのようなことを考え,どのような方法で実現していくのかとなると,明快に応えられるような説得力のある書物はほとんど見当たらないというのが現状です。
私自身,保護者との信頼関係に基づいた連携・協力体制づくりについて,自信を持ってこうだと言い切れるものは何一つありません。《百の理論より一つの実践》。本書では,保護者との信頼関係の構築という難問に,どのように考え,チャレンジしていったのか,私の経験に焦点を当てて語ってみたいと思っています。
21世紀のわが国の教育を論じる時,先ずは『最終報告』の基本構想の吟味検討は極めて重要です。本書では,保護者という視点を念頭に置きながら,特別支援教育の最小限のポイントをあらかじめ押さえておく必要があると判断しました。
したがって,第1章「特別支援教育と保護者」では,『最終報告』の背景,特別支援教育の構想及び特殊教育諸学校と小・中学校の在り方,専門性の強化について,保護者に関する記述をピックアップしながら要点をまとめ,保護者の役割の重要性を浮き彫りにします。
第2章「保護者との信頼関係を培うための6つの視点」では,§1「保護者の苦しみや悩みについて知る」(保護者の立場の尊重),§2「保護者の身になって考える」(共感的姿勢),§3「さりげなく語りかける」(契機づくり),§4「保護者の声を最後まで聞く」(保護者の主体性の尊重と保障),§5「保護者を絶対に批難しない」(保護者同士の連携の促進),§6「子どもの変容を示す」(実践的事実の創造)という項目に即して,幾つかのエピソードを交えながら私の立場を明確にします。
第3章「風信『ピグマリオン』からのメッセージ」は,本書の最も核心をなす部分です。主として第2章の§6「子どもの変容を示す」(実践的事実の創造)に焦点を当てます。ここでは,養護学校での子どもの様子等を中心に綴った私の実践記録「風信『ピグマリオン』」の一部を紹介します。3つの柱で構成し(時間軸でいうと1学期・2学期・3学期),各号ごとに可能な限り内容を象徴するようなタイトルをつけ,保護者へのメッセージを明らかにします。
本書は,保護者との連携という課題に少しでも応えられたらいいなという,私のささやかな願いがこめられています。そして,特別支援教育に従事する多くの人々を励ますことができるような内容にしたいと考えました。教育現場の先生,保護者,特別支援教育を学ぶ学生,医療関係,福祉関係,研究者の方々に読んで欲しいと思っています。学校現場の教師・保護者の願い,子どもたちの学校での様子を『ピグマリオン』という媒体を通して知って欲しいからです。
本書の作成にあたり,筑波大学名誉教授石部元雄先生には諸外国における保護者の位置づけ等についてアドバイスをいただきました。大阪教育大学養護教育科大学院生の大中裕理さんをはじめ,百舌鳥養護学校勤務の口由季さん,大沼ゼミの佐竹一実君,浅川優美さん,佐々木智美さん,高橋真鈴さん,中川めぐみさん,中世古俊君,中西茜さんにはいろいろとお手伝いいただきました。ありがとうございました。
本書の企画・作成に特別なご配慮をいただきました明治図書出版株式会社並びに編集部の三橋由美子氏および増渕説氏に心より感謝申し上げます。
平成17年1月 著 者
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- 明治図書
- 心あたたまる学級通信、参考にしたいと思います。2009/10/14シーシ
- 『ピグマリオン』は、ぜひとも特別支援学校以外の先生も読んでほしいと思いました。2009/7/30ゆとり