- まえがき
- 1章 数学科・補充学習指導の課題
- §1 学力向上の課題
- §2 基礎・基本のとらえ方
- §3 補充学習・指導の工夫
- 2章 単元別補充学習指導の技法と実際
- §1 第1学年の補充学習の実際
- 1 正の数・負の数 ―加法と減法―
- 2 文字と式
- 3 方程式(一次)
- 4 比例と反比例
- 5 平面図形
- 6 空間図形
- §2 第2学年の補充学習の実際
- 1 式の計算
- 2 連立方程式
- 3 1次関数
- 4 図形の性質と合同
- 5 三角形と四角形 ―条件を的確にとらえる能力の形成―
- 6 場合の数と確率 ―数えあげから「同様に確からしい」へ―
- §3 第3学年の補充学習の実際
- 1 多項式の展開と因数分解
- 2 平方根
- 3 2次方程式
- 4 関数y=ax2
- 5 図形の相似
- 6 三平方の定理
まえがき
今回の改訂学習指導要領における教育課程審議会の会長であった三浦朱門氏は,「日本人をダメにした教育……子どもにわが信念を強制すべし……」のなかで,「数学の教科書,学び方の問題点として,何故に,数学嫌いが多いか」を取り上げておられます。
氏の本意は,「数学は物理や化学,そして時には生物に役立つだけではない。社会科の歴史にも地理にも応用すれば,新しい地平を切り開いてくれることであろう。」と理工系の単頂をめざすのではなく,守備範囲を広げ,新しい可能性を切り開くことと考えられます。
といいながら,「それをしなかったのは,教育関係者の怠惰と先入観念のおかげであろう。」と,数学教育関係者を切り捨てておられることにも注目しなければなりますまい。数学には洋々とした可能性がある,しかし,今のままではダメであると考えられるのでありましょう。
今のままでよいとはいいませんが,ことはそれほど簡単ではありますまい。
このような背景もあってか,今回の改訂では,例えば,二次方程式,二乗に比例する関数など,二次がらみのものはすべて中学校ではいらないなどの論がなされ,大幅の内容削減につながったと伝えられています。
ところで,本当に,中学校数学にとって,例えば,二次方程式は必要ないのでしょうか。
三浦氏があげている根拠は,曽野綾子氏が「ピタゴラスの定理の証明とか,二次方程式の解とかが必要になったことは一度もない。と豪語した」ことのように読みとれます。これではあまり説得力があるようには思えません。一人の経験にもとづく発言を根拠にすべての場合が定められるわけではないからです。
とはいえ,曽野綾子氏は全くの一人ではなく,これに続く多くの人を前提とした発言であるとしたら,関係者は安閑としてはいられないでしょう。
このことは,特に補充学習の対象となる生徒を扱う場合において重要であり,プロとしての見識を明確にもっておく必要があるといえましょう。
まず,カリキュラムを構成する場合の前提について考えておくことにしましょう。
普通教育のカリキュラムと専門教育のカリキュラムとに大別して考えることにします。必要になるとか,役に立つとは,多くの場合,専門(職業)教育の立場からなされることが多いといえましょう。例えば,料理人になっている人は,材料の比などについては考えるでしょうから,比とか比例については必要でしょうが,二次方程式を使うことはないかも知れません。また,源氏物語を研究している人は,特別の研究方法を選択しない限り数学とは出会わないとも考えられます。
このようなことから,専門または職業に対応できることをめざした専門教育のカリキュラムは,直接役立つ分野については狭く特化することが得策ですし,目的がはっきりしてくるのでプロの養成に適したものにすることができるのです。
一方,普通教育のカリキュラムは,特定の分野を想定することができないことから,将来にわたり,すべての可能性を前提としなければならないので,広い範囲の内容を取り上げ,どの方向に進んだとしても,必要な最低のかかりだけは確保しておかねばならないのです。また,先進諸国の動向から,40年あまりの職業生活では,かなりの頻度で,転業や転職がなされているので,将来的には我が国においても,さまざまな職業変更がなされると考えねばならないことから,普通教育のカリキュラムは,このような場合も想定しなければならないのです。
このように考えると,普通教育においては,特定の内容について積極的に否定することは,あまり意味がないということになり,少なくとも,「おおむね満足できる」程度の習得は必要となると考えざるをえないのです。
どのような進路をとり,さらに,変更したとしても,生きて働く確かな学力を身に付けることが必要になってくるのです。
学習観,評価観を変えることが求められています。これもふまえながら,学習が成立したといえるためには,一人一人の生徒が,それまでの経験と結びつけて,時間はかかっても,次のような過程を踏んだ数学的活動を通すことが必要と考えました。
(1) 自らの課題を的確に意識する。(課題の発見)
(2) 観察,操作,実験などの活動を通して,解決の見通しをもち,結果を予想する。(予想)
(3) 予想が正しいことが納得でき,自信をもつ。(納得)
(4) 納得できたことを,他人にも説明する。(客観的表現)
(5) さらに発展させ,構造を把握し,実際場面で活用する。(活用)
補充学習を,上のようにとらえ直すと,「できないから,くりかえす」だけでなく,どのようなところが「努力を要する」のかを的確にとらえた活動が準備できることでしょう。このようなことを願って,本書を編集いたしました。
ご活用いただき,ご批判をたまわりながら,数学教育改革への一石にもなればと考えています。
最後になりましたが,お忙しい中を貴重な実践事例をおまとめいただいた多くの方々,企画にあたっては安藤征宏氏,校正段階では関沼幸枝氏に,大変ご心労をかけました。あわせて,心から感謝いたします。
平成16年1月 編者 /正田 實
-
明治図書
















