- はじめに
- 刊行によせて
- 第1章 小規模校の実践 複式による質の高い授業の実現
- ―困難を乗り越えた先にある学習の自立化―
- 1. 子どもたちの「活動の量」を増やし,「表現の場」を確保する
- 2. 教師の「支援の量」を増やし,子どもの「活動の質」を高める
- 3. 「集団の話し合い」を増やし,子どもの表現を充実する
- 4. 「活用の場」を増やし,「子どもの達成感」を得る
- 5. 「子どもへの評価」を増やし,「学ぶ意欲の向上」を図る
- 6. 複式の授業形態について
- 第2章 小規模校の実践事例
- 1 第1学年:長さ どちらがながい
- 2 第1学年:ひき算(1) 繰り下がりのあるひき算
- 3 第1学年:ひき算(2) のこりはいくつ ちがいはいくつ
- 4 第2学年:三角形と四角形 形に名前をつけよう
- 5 第2学年:大きな数 100より大きい数をしらべよう
- 6 第6学年:変わり方 変わり方を調べよう
- 第3章 複式の実践事例
- 1 第2学年:かけ算九九の活用 九九をつかおう/ 第3学年:かけ算の筆算 かけ算のしかたを考えよう
- 2 第3学年:あまりのあるわり算 わり算を考えよう/ 第4学年:式と計算のじゅんじょ 計算のやくそくを調べよう
- 3 第4学年:面積 広さを調べよう/ 第5学年:面積 面積の求め方を考えよう
- 4 第5学年:分数 同分母分数のたし算とひき算を考えよう/ 第6学年:分数 異分母分数のたし算とひき算を考えよう
- 5 第5学年:面積 面積の求め方を考えよう/ 第6学年:体積 立体のかさの表し方を考えよう
はじめに
本書は小規模校の実践集であり,第2章では一学級の子どもの人数が5人から9人の授業,また,第3章では複式の授業を取り上げた。
算数の授業を通して教師の指導が変わり,そして子どもたちの学びが変わった。また,3年間をかけて学校を変えた実践である。2年目の実践発表では多くの参観者の指導観と学習観を変え,3年目の公開授業では学習の主体である子ども観と学校観を変えた。公開授業に続く研究発表や協議では,多くの参加者の質問に応えるとともに,子どもたちの表現力と算数的活動の質の高さに対して評価をいただいた。何ともうれしい限りである。
そして,このことを可能にしたのは,前向きに自らの授業を変え続けた教師集団の同僚性であり,また未来の学校を目指すために毅然として歩むべき道を照らし続けた校長先生とそれを支えた主事に依るものである。
学習の楽しさは,学習活動そのものの質に依存し,変わり続ける子どもたち自身の学び方に依存することを,私たちは3年間をかけて実感することができた。学習の楽しさは,日々の授業の中で出会う困難を乗り越えた先に感じられるものであり,「わかりつつある過程」「できつつある過程」に子どもたちの学びの楽しさが存在することを知った。私たちは,子どもたちに決して都会の空に自分の未来を描かせるのではなく,今住んでいる地域の空に未来を描かせた。つまり,学習への動機付けは日々の一コマ一コマの授業の内容であり,子どもたちの学ぶ意欲もまた,日々の一コマ一コマに求めたのである。言い換えれば,子どもたちは変わりつつある自分の学びの姿が動機付けであり,教師もまた変わりつつある自らの指導がそれを支えたと言えよう。
数年後には統廃合されるかも知れない不安と緊張感を教師は抱きながらも,今をよりよく生きようとする『小さな学校の大きな実践』と言えるかも知れない。学習指導要領に示された日本のどの学校においても扱われる同じ内容を取り上げながらも,上記のことを可能にしたものは,おそらくその同じ内容をどのように指導するか,いかに子どもたちは学ぶか,に違いが出るのであろう。つまり,教育実践は「何を学ぶか」に増して,その何を「どのように学ぶか」が重要であり,学習の主体者である子どもが「いかに主体的に学ぶか」なのである。私は,自分が育つ『地域を捨てる学力』を育てるのではなく,自分の『地域を育てる学力』を,算数を通して育てようと考えた。また,算数を通して未来に生きる人間を育てようとしたものである。
本校(三高小学校)と一緒に関わらせていただいた3年間に対して,改めてお礼申し上げるとともに,本書を出版するに当たり,明治図書の木山さんをはじめ,編集部の方々に対して深く感謝申し上げます。
平成21年 夏 鳥取大学教授 /矢部 敏昭
-
- 明治図書