新教育課程対応!「人間力」を育てる新算数科授業の展開1
「授業展開」のアイディアと実践

新教育課程対応!「人間力」を育てる新算数科授業の展開1「授業展開」のアイディアと実践

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子どもの人間力を豊かに育てるための授業実践アイデア集。

京都市算数教育研究会は創立90周年を迎えようとしている伝統ある研究会である。本書は算数科授業の展開を9つの実践例をあげ、場面ごとにみる授業展開と、教師の指導を中心にまとめた。子どもの算数的活動が一目でわかり、イメージが持てる紙面構成である。


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ISBN:
4-18-572114-5
ジャンル:
算数・数学
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 112頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

はじめに 「人間力」を育てる授業研究
――世界を先導する算数・数学教育学の実現に向けて――
中央教育審議会の答申(案)をもとに/ 授業研究のさらなる充実/ 基礎研究の充実と発展
本書の特徴と活用に向けて
授業のイメージが持てる紙面構成です!!/ 子どもの算数的活動が一目でわかります!!/ 教師の支援が具体的に示されています!!!/ 話し合い(練り上げ)の仕方がわかります!!!/ 授業のまとめは学びの成果が活用されます!!!
出版にあたって
研究主題について
1.研究主題について/ 2.研究仮説
学び合い,高め合い,確かな学力を身に付ける算数科学習をめざして
1.最近の授業の特徴/ 2.これからの算数教育がめざすもの/ 3.算数科学習で何を学ぶのか/ 4.「なぜ」を問い,考える力を伸ばす学習の構築に向けて/ 5.授業改善と教師力の向上
第1章 講演「問い続ける子どもを育てる」
1.算数の世界を子どもとともに楽しむ
2.次なる行動を促す教師の支援
第2章 実践編
―授業展開―
1.第1学年 記念写真をとろう ――ものと ひとの かず――
2.第2学年 大きい数を調べよう ――1000までの数――
3.第2学年 計算のしかたを考えよう ――たし算とひき算――
4.第3学年 遊園地にいこう ――べつべつに,いっしょに――
5.第3学年 買ってきた花の数は? ――かくれた数は いくつ――
6.第4学年 階段のまわりの長さ ――変わり方――
7.第4学年 かどの形を調べよう ――角とその大きさ――
8.第5学年 乗り物券は,いくらかな? ――同じものに目をつけて――
9.第6学年 だれでしょう? ――だれでしょう――
引用・参考文献

はじめに

「人間力」を育てる授業研究

   ――世界を先導する算数・数学教育学の実現に向けて――


 私たち人間は,誰もが二つの脳を持っていることを知りましょう。

 その二つの脳とは「考える知性」と「感じる知性」です。私たちが豊かに生きていくためには,これら二つの脳をバランスよく働かせることです。そして,何よりも大切なことは「感じる知性」なくして,「考える知性」はよりよく機能しないということです。

 算数の学習を通して,数や図形に心を揺り動かすことのできる感性を磨きたいのです。日々の授業を通して,筋道を立てて考えることのできる思考力や表現力を身に付けたいのです。少し難しいと思われる問題に挑戦する学ぶ意欲や,困難に打ち勝つ強い意志を鍛えていくことが「考える知性」をよりよくコントロールする「感じる知性」を磨くことになるのです。

 算数の学習を通して,将来に生きる子どもたちを育てていることを私たち教師が認識するとき,そこには子どもたちの世界観はいっそう広がり,人間関係を広げることにつながるでしょう。そして,その先には学習を通して他者と共に学び,他者から学ぶことのできる人間になり,今の自分をよりよく知ること(自己理解)のできる人間になるでしょう。現在の自分を乗り越えて,新しい自分を作り上げていくプロセス(過程)が学習なのです。


1.中央教育審議会の答申(案)をもとに

 算数・数学教育学の教育研究は,実践から課題が見出され,理論的研究において得られた知見などを,再び実践に返し生かされるところに本来の使命があります。言い換えれば,どのような理論的研究も実践への示唆が不可欠であり,また,日々の実践からは理論的に検討されるべき課題が導かれることが望ましいと言えます。ここでは,中央教育審議会の答申案(平成17年10月26日)をもとに,いくつかの事項を具体的に取り上げてみます。

 「新しい時代の義務教育を創造する」の第T部総論の中では1義務教育の目的・理念を受けて,2新しい義務教育の姿について,以下のように述べています。

 『…学校の教育力,すなわち「学校力」を強化し,

  「教師力」を強化し,それを通じて,子どもたちの

  「人間力」を豊かに育てることが改革の目標である。』

 学ぶ意欲や生活習慣の未確立,後を絶たない問題行動など義務教育の深刻な状況を背景に,教師の力量を高めること,また教育目標を明確にしてそれに必要な学力,体力,道徳性を養い,教育の質を保証することが求められています。3義務教育の構造改革については,ナショナル・スタンダードとローカル・オプティマムを車の両輪にすること,また,人間は教育によってつくられることを挙げ,教職員の役割の重要さを指摘しています。

 私たちはこれまでも,算数の学習を通してどのような人間を育てるのか,これからの時代に生きる子どもとして,どのような子どもたちであってほしいのかを考えてきたはずです。

 算数の内容を学ぶ過程においては,どのような学びが子どもたちの思考力をいっそう育成し,豊かな表現力を身につけられ得るかを考えてきたはずです。真理に対する正確な事実理解は先人たちの知恵を知り得ること,また,新しい状況において次なる行動を促す知識の大切さを,感得し活用できるように日々の授業を展開してきたはずです。さらに,その展開の過程においては学習を共にする他者の存在を意識し,自らの考えを的確に表現するとともに,他者の学びを通して自らの学びを改善することのできる自己理解へと高めることを目指してきたはずです。今一度,私たちはこれを前向きに受け止め,子どもの学ぶ姿として目にみえる形で授業を展開したいのです。

(【その1】参照)


 第U部各論の中では序章において,義務教育の質の保証・向上のための構造改革として,以下の四つの教育国家戦略を述べています。

 『@教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する

  A教師に対する揺るぎない信頼を確立する

  B地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める

  C確固とした教育条件を整備する』

 また,第1章教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する,の中では学習指導要領の見直しや学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施について述べています。

 算数・数学教育に携わる者は誰もがそう思っているように,私たちは算数の学習を通して,決して「安っぽい偽物の電卓」に子どもたちを育てようとは考えていないはずです。

 基礎的・基本的な内容の習得は,統合・発展をもたらすように授業を展開することによって獲得されることを今後も考えていきたいのです。

 全国的な学力調査に関しては,学習評価の目的適合性の視点から再吟味する必要があると考えます。つまり,指導方法の改善に向けた手がかりを得ることを目的にする場合,それはただ単に「何を学んだか」,「何ができ,何ができないか」では指導方法の改善にはつながらないのです。必要なことは,日々の算数の授業において子どもたちはどのようにその学ぶ内容を学んでいるのか,教師はその内容をどのように指導しているかが把握できる評価でなければならないのです。その意味においては,学力調査そのものの慎重な吟味が不可欠であり,また,私たちはそれに応える評価問題の開発と実践を課せられた課題として,主体的に受け止めていきたいのです。

(【その2】参照)


 第2章教師に対する揺るぎない信頼を確立する―教師の質の向上―においては,1あるべき教師像の明示として,以下の三つの要素が重要であると述べています。

 『優れた教師の条件には様々な要素があるが,大きく集約すると次の三つの要素が重要である。@教職に対する強い情熱A教育の専門家としての確かな力量 B総合的な人間力』

 教師を「反省的実践者」(これは,D.ショーンの提示する専門家像であり,その源はJ.デューイによる)ととらえるならば,私たち教師は日々の実践において,授業の中での行為の意味を状況との対話のみで振り返るのではなく,実践の事実や行為を対象化して自己との対話を通して振り返ることも必要でありましょう。

(【その3】参照)


2.授業研究のさらなる充実

 校内研修の一つとして代表される授業研究は,学びの共同体としての学校組織づくりに果たす役割が大きいと考えます。この視点に立つならば,授業研究の一つの意味は,授業公開や研究授業に際して「授業をつくる」という教材研究において授業者のみならず,学級・学年の枠を超えて教師集団が日々の指導に生かす具体的な支援を学び合うこと。子ども一人ひとりのものの見方・考え方と学び方をより的確に把握することにあると言えましょう。

 また,授業研究においては,教師たちが互いに同僚性を築き上げることでもあります。さらに,子どもを主体にした学びの場を通して,子どもの再発見とよりよい変容を実感することにありましょう。つまり,授業者のみならず,参観者も含めて互いの解釈を共有し合い,教師一人ひとりが自身の成長と発展をさせる場でありたいのです。

 算数を通して未来に生きる子どもたちをいかに育てるかという視点に立ち,目標分析を先行する教材研究のあり方を推進したいものです。なぜならば,いかに教えるかといった指導方法は目標分析によって導かれるものであり,また,その方法は多様にあってよいはずだからです。先人たちが築き上げてきた授業研究のあり方を学ぶとともに,成長し続ける実践者としての新しい授業研究を考え,構築していきたいものです。

(【その4】参照)


3.基礎研究の充実と発展

 今回の答申(案)を受けて,打ち出される教育課程は世界最高水準の教育の実現であり,知・徳・体のバランスのとれた教育を質の高い教育であると指摘されています。

 学校の教育力を学校力,教師の力量を教師力と呼ぶことに加えて,子どもに対しては人間力と呼んでいます。今後,それらの表現の問題にのみ議論が集中することがないようにしたいものです。また,新しい義務教育の姿は教師に強く依存するとのとらえ方を,教育に携わる私たちは自身の問題として真摯に受け止め,主体的に検討したいものです。

 算数・数学教育の歴史的研究は,今,私たちが行っている指導の行為に対して,将来に向けた指針を与えてくれます。また,今日盛んに行われている学習者の算数的内容に関する理解等の認知的研究は,いかに教えるかといった指導方法の改善にとどまることなく,内容それ自体の検討に役立ちます。これらの研究が算数・数学教育の目標論や評価論の構築につながることを期待するとともに,我が国から世界に向けて21世紀型の目標論と評価論を発信していきたいものです。

(【その5・6】参照)


  2006年11月   鳥取大学教授 /矢部 敏昭



【その1】

 新教育課程に向けて

  ―中央教育審議会の答申(案)― 平成17.10.26

   新しい時代の義務教育を創造する

第T部 総論

新しい義務教育の姿

『学ぶ意欲や生活習慣の未確立,後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況には深刻なものがある。……。

 学校の教育力,すなわち「学校力」を強化し,「教師力」を強化し,それを通じて,子どもたちの「人間力」を豊かに育てることが改革の目標である。』

--------

 教師の力量,これを教師力とし,優れた教師を称え,信頼され尊敬される教師が指導に当たる学校にならなければならない。

 人間は教育によってつくられると言われるが,その教育の成否は教職員にかかっていると言っても過言ではない。


【その2】

第U部 各論

序章 義務教育の質の保証・向上のための国家戦略

 四つの教育国家戦略

 『@ 教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する

  A 教師に対する揺るぎない信頼を確立する

  B 地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める

  C 確固とした教育条件を整備する』

--------

 義務教育の目的は,一人一人の国民の人格形成と,国家・社会の形成者の育成の二点に集約できること。

 義務教育9年間を見通した目標の明確化を図り, 明らかにする必要がある。


 【その3】

  教師に対する揺るぎない信頼の確立

   ―教師の質の向上―

 あるべき教師像の明示

 優れた教師の条件には様々な要素があるが,大きく集約すると次の三つの要素が重要である。

 『@ 教職に対する強い情熱

  A 教育の専門家としての確かな力量

  B 総合的な人間力』

--------

 教師の仕事に対する使命感や誇り,子どもに対する愛情や責任感

 教師は,常に学び続ける向上心を持つことも大切である。

 「教師は授業で勝負する」と言われるように,「教育のプロ」のプロたる所以である。


【その4】

学習指導要領の見直し

〇義務教育の目標を明確化するため,学習指導要領において,各教科の到達目標を明確に示すことが必要である。

〇学習指導要領は,すべての児童・生徒に対して指導すべき内容を示す基準であり,学校においては,必要がある場合には,これに加えて指導することができるものである。

国民として共通に学ぶべき学習内容を明確に定めた上で,学校ができるだけ創意工夫を生かして教育課程を編成できるようにすることが求められる。

〇指導方法については,従来の一斉指導の方法も重視することに加えて,習熟度別指導や少人数指導,発展的な学習や補充的な学習などの個に応じた指導を積極的かつ適切に実施する必要がある。これらの指導形態における指導方法の確立が望まれる。

--------

 教科書,教材の質,量両面での充実も必要である。

義務教育の質の向上を図る上で,教科書は主たる教材として重要な役割を果たすものであり,……。


【その5】

学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施

〇各教科の到達目標を明確にし,その確実な修得のための指導を充実していく上で,子どもたちの学習の到達度・理解度を把握し検証することは極めて重要である。

 客観的なデータを得ることにより,指導方法の改善に向けた手がかりを得ることが可能となり,子どもたちの学習に還元できることとなる。

 実施に当たっては,子どもたちの学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら,学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である。

--------

学習評価の目的適合性の視点から再吟味する必要がある(矢部)

指導方法の改善に向けた手がかりを得ることを目的にする場合,それはただ単に「何を学んだか」「何ができ,何ができないか」では指導方法の改善につながらない。

必要なことは,子どもたちがその学ぶ内容をどのように学んでいるのか,教師はどのように指導しているのか,を把握することである(矢部)


【その6】

 今回打ち出される教育課程は,世界最高水準の教育の実現であり,それは,知・徳・体のバランスのとれた教育を,「質」の高い教育と指摘する。

  実践的研究のあり方    教材研究のあり方

 算数・数学教育の歴史的研究は,今,私たちが行っている指導の行為に対して,将来に向けた指針を与えてくれる。

 今日盛んに行われている理解等の認知的研究は,いかに教えるかといった指導方法の改善にとどまることなく,内容それ自体の検討に役立つ。

 これらの研究が,算数・数学教育の目標・評価論の構築につながることを期待するとともに,我が国から世界に向けて21世紀の目標・評価論を発信していきたいと考える。

著者紹介

矢部 敏昭(やべ としあき)著書を検索»

1955年生,東京学芸大学大学院数学教育学専攻修了,現在,鳥取大学地域学部教授,附属学校部長,附属中学校校長。

1985年から1986年かけて米国インディアナ大学へ留学。

1989年米国第67回Annual Meeting(NCTM)にて記念講演。「数学教育学における子どもの自己評価能力の形成に関する実証的研究」をはじめ,論文多数。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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