検定外・学力をつける算数教科書 第5巻 第5学年編

検定外・学力をつける算数教科書 第5巻 第5学年編

投票受付中

検定教科書の欠点を補い、本来獲得すべき学力を身に付ける。

学校や学習塾での活用をめざす。分数、小数のかけ算・わり算、倍と割合、平面図形の性質、運動模様、平面図形の面積など。検定教科書の不足部分を補う解説をつけ、各章に学力を検証するまとめくんを付す。特に検定教科書にない年齢別発展課題を詳細に解説した。


復刊時予価: 2,926円(税込)

送料・代引手数料無料

電子書籍版: 未販売

電子化リクエスト受付中

電子書籍化リクエスト

ボタンを押すと電子化リクエストが送信できます。リクエストは弊社での電子化検討及び著者交渉の際に活用させていただきます。

ISBN:
4-18-564712-3
ジャンル:
算数・数学
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 212頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

『検定外・学力をつける算数教科書』第5巻 第5学年編の趣旨 /横地 清
第T章 分数
―数としての分数―
1 分数
2 分数のたし算とひき算
・練習問題
3 分数の大きさ
4 わり算と分数・小数
・練習問題
・まとめのテスト
〈問題・テストの解答〉
第U章 小数のかけ算・わり算
―バラ数による計算―
1 単位どうしの計算(かけ算の場合)
2 小数に整数をかける計算
3 小数をかける計算
4 小数×小数
・練習問題
5 単位どうしの計算(わり算の場合)
6 小数を整数でわる計算
7 小数でわる計算
・練習問題
・まとめのテスト
〈問題・テストの解答〉
第V章 倍と割合
―3用法を代数的に―
何倍でしょう?
1 割合でくらべよう
・練習問題
2 くらべる量やもとにする量を求めよう
・練習問題
3 割合を使って
・まとめのテスト
〈問題・テストの解答〉
第W章 平面図形の性質
―四角形と三角形―
1 垂直と平行
2 平行な直線を使ってできる四角形
3 三角形の決定条件
4 正三角形と二等辺三角形
5 多角形の角
・まとめのテスト
〈問題・テストの解答〉
第X章 運動模様
―長方形と正方形の運動模様―
1 長方形での模様づくり
2 正方形での模様づくり
3 運動模様の作品例
・まとめのテスト
〈問題・テストの解答〉
第Y章 平面図形の面積
―カバリエリの原理を使って―
1 面積
2 長方形の面積
・練習問題
3 平行四辺形の面積
4 三角形の面積
5 台形の面積
6 ひし形の面積
・練習問題
7 円の面積
・まとめのテスト
〈問題・テストの解答〉

『検定外・学力をつける算数教科書』第5巻第5学年編の趣旨

 この本は,『検定外・学力をつける算数教科書』第5巻として,5学年担当の先生方が早速にも学校や学習塾などで活用していただけるようにと作成したものである。この本には,学校現場の先生方の協力を得て,私どもが研究してきた成果が生かされている。本来の5年生は,何を学習すべきかを探究してできた,斬新な検定外教科書である。

 現在の検定教科書の内容には数々の欠陥がある。私どもはこの欠陥を補い,子どもたちが本来獲得すべき学力を保障しようとして,この検定外教科書を作成した。そこで,以下ではT部,U部に分け,次の点を語りたい。T部では,私どもは,現行の検定教科書のどのような欠陥を克服しようとしたのかを述べる。U部では,この5学年用の検定外教科書で取り上げた内容と,その意図を語ることにする。


   T部 『検定外・学力をつける算数教科書』を作成したわけ


 私どもは,現行の検定教科書は,各学年の子どもが本来,到達するはずの学力を,はなはだしく喪失させていると考えている。その喪失をいささかでも防ぎ,子どもたちに,本来,到達できるはずの学力を保障しようとして,この検定外教科書を作成した。

 そこでまず,現行の検定教科書は,どのような欠陥を持っているか,率直に語ってみる。もちろん,この語りは,検定教科書が依拠した現行の学習指導要領の欠陥の語りでもある。ここでは,検定教科書の方で説明する。

 おことわりするが,私どもは,検定教科書や,それが依拠する学習指導要領の欠陥自体を荒立てるのが目的ではない。私どもは,そうした欠陥を越えて,日本の子どもたちに,本来到達するはずの学力を保障する検定外教科書を作成するのが目的である。

 それでは,現在の検定教科書の欠陥を,箇条書きにして率直に書いてみよう。これら欠陥は,これまでに実施した,私どもの各種教育実験を背景として語るものである。


1 学習内容の水準が極めて低い。事例を挙げよう。

 (1) 入学当初の1年生は,すでに100までの数を唱え,形式的ではないにしろ位取りの原理を把握している。数の学習はここから始めるべきである。また,1年生は10を単位とする数の加減にも十分に熟達できる。検定教科書はこれらのいずれをも欠落させている。

 (2) 平面図形の基本は,点,直線,円であり,これらは1年生が十分に学習しうる。検定教科書はそれを怠り,円に至っては4年生に出てくる始末である。

 (3) 拡大,縮小の概念,つまりは相似の概念は,遅くとも4年には学習しうる。検定教科書は,それを怠り,相似の概念も用語も小学校から消えている。

 (4) 4年生後期から代数的思考が始まり,文字を使った演算式が入って当然である。また,応用問題の問題構造は,文字を使った演算式でいちだんと明確になる。検定教科書は,これらを怠り,文字を使った演算式は6年になっても出てこない。

 (5) 割合や速度などの3用法,特に第3用法は,5,6年生の場合,文字式の考え方を生かし,逆演算を導入して把握できるのに,検定教科書はそれを怠り,5,6年の思考を3年生以下の絵で見る低次の思考に堕落させている。


2 平面や空間の領域では,極端なほどに内容が貧弱である。事例を挙げよう。

 (1) 2年生は工作用紙に展開図を描き,スポーツカーなどを作成するというのに,検定教科書はそれを怠り,展開図の用語は6年生に出る始末である。

 (2) 平面に角があると同様に,空間にも角がある。そして,多面体には2面の作る角として2面角が必要となる。検定教科書はそれを怠り,空間の角も2面角も姿を見せない。

 (3) 平面では多角形の特殊な場合として,台形や平行四辺形が存在する。その際には辺や内角が問題とされる。同様に,空間では多面体の特別な場合として,直方体や角柱が存在し,面や2面角,多面角が問題とされてよい。これに対応して,1,2年生には,歪(いびつ)な多面体作りが必要であり,子どもたちもその製作が大好きである。検定教科書はこれらを怠り,展開図に至っては6年に出る始末である。2面角はついに姿を見せない。

 (4) 平面上の図形については,回転運動,線対称運動といった運動自体の学習が必要である。そしてこれらの運動の把握や,それに基づく模様作りが,1,2年生は大好きである。また,長方形などの平面図形の模様では,模様作りの基本となる運動とそれら運動関係構造が重要であり,5年生にはそれが把握できる。しかし検定教科書は,上記のいずれをも欠落させている。


3 今日の子どもは早くから地球時代,宇宙時代,さらにはIT時代の世界に生きていると言ってよい。検定教科書は全くと言ってよいほど,これに対処していない。事例を挙げよう。

 (1) 高学年では地球の数学を学習する必要がある。発泡スチロールで地球儀を作り,2地点間の大圏距離を凧ひもで測ったりして「ベルリンを火曜の20時に離陸したジェット機は,東京には何曜日の何時に到着するか」といった問題が解けるまでになる。それであるのに,検定教科書は地球の数学に触れてもいない。

 (2) 確率の概念は,天気予報などで,小学校全学年で日常化している。それであるのに,検定教科書では確率は,6年になっても姿を見せない。

 (3) 4年生後期からは子どもの代数的思考が進展する。当然,多変数関数も扱われてよい。同時に,これら関数の演算に対応するソフトとしてExcelの活用が学習されてよい。さらに,6年生にもなれば,PowerPointを活用して,数学的研究をPresentationできるようにしたい。検定教科書は上記のいずれをも欠落させている。


4 子どもは各年齢に対応した数学的認識の発展を進める。検定教科書はこうした,各年齢に応じた発展過程に対応してはいない。多くの場合,子どもたちの認識を,いちだんと低次の認識へ追いやるように学習の展開をしている。事例を挙げよう。

 (1) 低学年の子どもは体ごとの実践を通して数学的法則を把握する。1年生の子どもが数7の分解を把握するのは,一定の距離から実際に7個の玉をホールに向かって投げ,ホールに入らないで外に転がる玉の数を数えて,ホールに隠れた玉の数を推定し,ホールから玉を取り出して推定の妥当性を判断する。こういった活動の繰り返しの中で,7は3と4に分解されるという事実を,確信を持って把握するようになる。体ごとの確信と言ってよい。ところが教科書は,7が3と4に分解される事実を,絵を見せて子どもに保障させようとしている。体ごとでの体得を見失い,視覚による皮相的認識,つまりは皮相的な暗記に依存しようとしている。こうした皮相的認識/暗記では,1年生が体得すべき,10までの数の分解,合成の事実の確信が保障できない。検定教科書は1年生にふさわしい認識過程を見失っている。

 (2) 子どもは4年生後期から論理的体系的理詰めを通して数学的法則を把握するという認識過程に達する。ところが,検定教科書は,この認識過程を忘れ,子どもの思考を低学年以前の眼で見る皮相的認識に堕させている。例えば分数の除法計算の法則は,逆数の概念と性質を使えば,理詰めを通して把握できるのに,それを怠っている。理詰めを通せば乗法はもとより除法を含めて,乗除計算の法則は5時間あまりで把握できる。それであるのに,だらだらと絵で説明し,つまりは皮相的認識に堕させて15時間もかけて学習させている。そして,分数÷分数は,割る分数を逆さにしてかけるという機械的操作として把握させようとしている。同種のことは,割合や速さの第3用法でも見られる。


5 3年生以降の子どもは,とりわけ創造力が急速に発展する時期である。それであるのに検定教科書には,創造力の育成に関する配慮が欠落している。あるのはせいぜい,誰それはこういう計算の仕方をしたとか,誰それは,それとは別の計算の仕方をしたとか,言わば,同一水準での多様な思考の並列に終始している。創造力の育成で重要なのは,質的に高い水準に向かって,子どもの思考を高めることである。例えば5年生の長方形の運動模様の学習であれば,模様の型はいく種類に限られるかを理詰めで裏付けて明らかにすることである。あるいは,学習していない正三角形の運動模様には,いく種類の模様の型があるのか,それを理詰めで発見することである。本来の創造性の育成とは,同一次元の中で,あれか,これかを発見することではなくて,いちだんと高い段階での数学的発見を招来することである。検定教科書は,こうした配慮を欠落させている。


   U部 検定外教科書5学年の内容


1 この巻の執筆までの経過

 この『検定外・学力をつける算数教科書』全6巻は,私が長年指導してきた,次の3つの研究会グループの協力によって作成された。

 (1) 大阪教育大学教授・鈴木正彦氏を中心に指導と研究が重ねられている,「大阪研究グループ」

 (2) 京都教育大学教授・守屋誠司氏,同大学講師・渡邊伸樹氏を中心に,指導と研究が重ねられている,「山形研究グループ」

 (3) 私が山梨大学教授であった頃から育て,現在も前校長の山主富士彦氏,前山梨大学附属小学校教諭の奥山賢一氏を中心に指導と研究が重ねられている,「山梨研究グループ」

 各研究グループには実践と研究の豊かな,肝煎りの小学校の現場の校長,指導主事,先生方がたくさんそろっている。

 私は2001年4月以来3か年間,明治図書刊『現代教育科学』に各年,「算数・数学教育の危機」「算数・数学教育の再建」「学力保障に応える算数指導の改革」の主題で連載を重ねた。その資料,ならびにこの『検定外・学力をつける算数教科書』作成のために時間をかけて準備した学年別の斬新な学習内容を持参し,上記の3つの研究グループのそれぞれで,数日間に及ぶ合宿研究会を持った。その合宿研究会では次の4点を強調した。

 (1) 私が『検定外・学力をつける算数教科書』を公刊するに至った趣旨(T部で述べた)をよく理解した上で執筆にあたっていただきたい。

 (2) 学習内容それぞれの執筆にあたっては,私の提案を尊重はしていただきたいが,それに機械的に拘束されることなく,担当の研究グループ,とりわけ執筆者の判断で,現実の子どもに,いっそうの適応ができるように改善を試みられたい。そして研究グループ,とりわけ執筆者の自信の作となるようにしていただきたい。

 (3) 直接,間接に子どもに実践して確かめ,子ども自身が進んで学習するにふさわしい学習内容としていただきたい。

 (4) 各学年の学習内容は,1学期,2学期,3学期といったように区分され,当該学年を通して,体系のある教育課程を予想して展開されたい。

 上記の4点を基本方針として各巻が仕上げられた。以下では,5年生用のこの巻の主な学習内容について,私はどのような提案をしたかを述べることにする。読者の皆様には,この巻の学習内容を子どもに適用していただくだけではなくて,前記(2)で述べたように,皆様の研究と判断で,必要な改善を試みながら,実践されることを願っている。


2 この巻の内容

 (1) バラ数による小数の乗除計算

この検定外教科書ではすでに1年生から4年生まで,バラ数による整数の加減計算を進めている。したがってバラ数の加減計算の説明は省略し,以下では乗除計算の説明をする。

  (a) バラ数の定義

例えば964783064528.3487は9千億,6百億,4十億,7億,8千万,3百万,0十万,6万,4千,5百,2十,8一,3割,4分,8厘,7毛の合成であると考えられる。0から9までの数を基数と呼ぶことにすれば,これらの基数に,京,千兆,百兆,十兆,兆,千億,百億,十億,億,千万,百万,十万,万,千,百,十,一,割,分,厘,毛の単位を付した数の合成と考えるのである。数をこのように見たとき,その数をバラ数と言う。バラ数の考え方を基礎に実行する計算まで含めて(広義の)バラ数と呼ぶことがある。なお,割,分,厘,毛の単位は,数の単位と言うよりも,「割合」で使う単位として広く使用されている。この意味で,必ずしも妥当ではないが,他に適当な単位もなく,バラ数の単位に利用することとした。また,毛未満の単位は省略した。

また,バラ数を意識した数表現では,1より大きな部分については4桁区切りの京,兆,億,万,一だけを明示し,小数の部分は毛の単位を明示する。下記に,その例を示した。


    京     兆     億     万     一     毛

 [1] 4 7 9 3 4 2 0 7 3 4 6 1 2 5 0 1 4. 7 2 0 8

 また必要に応じて,単位の全部を明示したり,小数部分では,割とか毛とか特定の単位だけを明示することがある。下記に,その例を示した。


    億 千万 百万 十万 万 千 百 十 一 . 割 分 厘 毛

 [2] 2  4   7   9  0  7 6 5  1 . 7  4 6 2

      万     一      毛

    4 8 5 2 7 4 .4 2 0 3

       一 .割

    2 8 3 .4 7

 バラ数の理論は私が1977年,数学教育学会「研究紀要」1977.1・2号,pp.24-35で公にした。すでに当時,私の指導で久留米の研究グループで広範な教育実験が行われて成功している。最近,その有効性が評価され,あらためて各地で実践されるようになった。本書でもバラ数の理論を採用した。

  (b) 単位の10,1/10の累乗表現

基数に単位を付した数は[3]のように,基数×(10の何回累乗)または,基数×(1/10の何回累乗)として表現できる。累乗という用語は指導する。5年生には,こうした表現の意味が理解できる。


 [3] 7(億)=7×(10の8回累乗)        7(十)=7×(10の1回累乗)

    7(千万)=7×(10の7回累乗)      7(一)=7×(10の0回累乗)

    7(百万)=7×(10の6回累乗)      7(割)=7×(1/10の1回累乗)

    7(十万)=7×(10の5回累乗)      7(分)=7×(1/10の2回累乗)

    7(万)=7×(10の4回累乗)        7(厘)=7×(1/10の3回累乗)

    7(千)=7×(10の3回累乗)        7(毛)=7×(1/10の4回累乗)

    7(百)=7×(10の2回累乗)


  (c) 単位付き基数の間の乗法/バラ数九九

被乗数,乗数のそれぞれが,単位付き基数である場合について,乗法を習熟すれば,バラ数の乗法は簡単に実行できる。単位付き基数の間の乗法が,九九のようになって,バラ数の乗法が実行できるのである。単位付き基数の乗法をバラ数九九と呼んでいる。

単位付き基数の間の乗法は,被乗数,乗数のそれぞれについて,基数に10または1/10を何回累乗した数であるかを即座に弁別できれば,簡単に計算できる。子どもは大人よりはるかに直観が効くから即座に計算するようになる。下の例で言えば,@から即座にAが算出され,Bの答えが出ることである。

 普通の九九と同様に,子どもはバラ数九九を完全に習熟させていただきたい。


 [4] 4(十万)×3(千)=4×(10の5回累乗)×3×(10の3回累乗)……@

              =4×10×10×10×10×10×3×10×10×10

              =12×(10の8回累乗)……A

              =12(億)……B


    4(千)×7(分)=4×(10の3回累乗)×7×(1/10の2回累乗)……@

             =4×10×10×10×7×1/10×1/10

             =28×10×10×10×1/10×1/10

             =28×(10の1回累乗)……A

             =28(十)……B


    6(割)×2(分)=6×(1/10の1回累乗)×2×(1/10の2回累乗)……@

             =6×1/10×2×1/10×1/10

             =12×1/10×1/10×1/10

             =12×(1/10の3回累乗)……A

             =12(厘)……B


  (d) 乗法の筆算

 バラ数による整数の間の乗法の筆算は4年ですませているので,小数を含む計算だけを話題とする。バラ数の筆算は下記の例のような思考過程で進行する。

 [5] 43.2(割)×0.67(分)

 (計算式省略)


    0.78(分)×273.9(割)

 (計算式省略)


書式については,先生方,それぞれで工夫していただきたい。


  (e) 除法の筆算

バラ数による整数の間の除法の筆算は4年ですませているので,小数を含む計算だけを話題とする。除法の筆算は,乗法の逆として次のような思考過程で実現できる。書式については,先生方,それぞれで工夫していただきたい。

 [6]

 @ 23(一).52(分)÷0.63(分)

 (計算式省略)

   3(分)を何倍すると5(割)になるかを考え,

   商の主位の単位を見当づけ,

   試行を始める。


 A 商の位が分となるまで計算する。     B 5824(一).6(割)÷789(一)

 (計算式省略)                    商の末位が割となるまで計算する。


 最後に次の注意をしたい。

 バラ数による筆算は,従来のように,機械的に実行する筆算に比べて,子どもにも筆算の原理がよく分かる。特に概算,暗算には効力がある。しかし,従来の機械的計算に慣れてきた子どもが急遽,計算法をバラ数による筆算に切り換えると無理が生ずると予想される。したがって読者の判断で,ここは有効だ,これなら,子どもに指導してみようと想定される部分から実現していただきたい。私としては,多くの先生や子ども達に活用してほしいが,無理強いするのは避けて,役立つ部分から順次にバラ数を活用されることを願っている。


 (2) 倍 率

 倍と言えば,基準量の拡大として1以上の倍率,割合と言えば,基準量の部分として1以下の値を予想する。しかし代数的思考も,論理的体系判断も進んできた5年生ともなれば,倍と割合を別々に扱うのではなく,まとめて一般的に扱い,両者のそれぞれを,この一般的の場合から派生するように扱うとよい。

 以下では,まず倍率を一般的に学習し,倍とか割合とか,さらには複合量も,倍率の概念から派生させるという観点で展開する。

 なお,以下では,基準,倍率,倍量という用語を使用するが,これら用語にしたがって欲しいというのではなく,さらに適当な用語を発見されて活用されるのもよい。

  (a) 倍率,基準,倍量の関係

 始発駅を出た座席数24のバスを考える。このバスは,始発駅を[1]とし,終着駅の一つ前の停留場まで[2],[3],……[10]と番号づけた10この停留場に停車するとする。乗車数は運転手を含め25を基準(乗車数)と考える。このとき,各停留場を発車する際のバスの乗客数(倍量)が基準に比べて,次のような倍率であったとする。

 [1]駅発車の際は倍率0.4

 [2]駅発車の際は倍率0.6

 [3]駅発車の際は倍率1.2

 [4]駅発車の際は倍率2.0

 [5]駅発車の際は倍率2.2

 [6]駅発車の際は倍率0.4

 [7]駅発車の際は倍率2.2

 [8]駅発車の際は倍率2.4

 [9]駅発車の際は倍率0.6

 [10]駅発車の際は倍率0.2

 この倍率から,[8]駅発車の際は,倍率が2.4でずいぶんの混みだと予想される。また[6]駅や[9]駅では,客がどっと降りることが分かる。各駅発車の際の乗客数を倍量と呼んでみる。すると各駅発車の倍量は下記のようになる。

 [1]駅発車の倍率0.4……倍量:25×0.4=10

 [2]駅発車の倍率0.6……倍量:25×0.6=15

 [3]駅発車の倍率1.2……倍量:25×1.2=30

 [4]駅発車の倍率2.0……倍量:25×2.0=50

 [5]駅発車の倍率2.2……倍量:25×2.2=55

 [6]駅発車の倍率0.4……倍量:25×0.4=10

 [7]駅発車の倍率2.2……倍量:25×2.2=55

 [8]駅発車の倍率2.4……倍量:25×2.4=60

 [9]駅発車の倍率0.6……倍量:25×0.6=15

 [10]駅発車の倍率0.2……倍量:25×0.2=5

 上では,倍量として分離量である人の数を話題にしたから,倍率に制限が出た。基準も倍量も連続量であれば,倍率が自由に取れる。部屋の盆栽に円柱状のコップで水をやるとする。このコップ1杯に250gの水が入るとして,この250gを基準とすれば,倍率には0以上のどのような数(小数)もとれる。したがって倍量も0g以上何gにもとれる。

 「今日の遣り水の倍率は2.47だ」と言えば,倍量は250×2.47=617.5(g)と計算でき,617.5gの遣り水となる。目分量でコップで2杯分と1杯分の半分足らずとなる。

 人口にも倍率,基準,倍量が適用できる。

 2002年調べの日本人口を126百万を基準として,中国の人口の倍率が10.12だとすれば,中国の人口,つまり倍量は126×10.12=1275.12つまり百万単位で1275.12,百万未満は四捨五入して,1275百万となる。

 金額を考える場合には円未満の端数まで問題にすると,倍率に制限が出る。円未満の端数は切り上げるといったようにしておくと倍率は自由になる。

  (b) 倍率の3用法

 上記の例で分かるように,倍率,基準,倍量の間には次の関係がある。

   基準×倍率=倍量……@

 5年生は代数的思考がかなりに進んでいる。

 だから,事例を挙げながら説明すれば,@から次のAが理詰めで導出できる。

   倍量÷基準=倍率……A

 更に,次のBはかなり難しいが,整数の間の乗法で,7×8=56から,7=56÷8と一般化できれば,@から直ちにBが分かる。

   倍数÷倍率=基準……B

 @,A,Bは「比の3用法」と呼ばれている関係式で,@は第2用法,Aは第1用法,Bを第3用法と呼ぶことになる。ここの場合では,@,A,Bを「倍率の3用法」と呼び,@を第2用法,Aを第1用法,Bを第3用法と呼ぶことになる。

 5年生には「倍率の3用法」を自由に駆使できることが大切である。

 例えば「山田君の本年4月10日の体重は36.8sです。この体重は昨年4月10日の体重の1.15倍です。山田君の昨年4月10日の体重はどれだけですか」といった問題を,倍率の第3用法と見て直ちに解けるようにすることが大切である。

  (c) %(百分率)

 倍率には1未満の小数が出ることも多い。そこで倍率を整数化して見分けやすくするため,%(百分率)が利用される。%は次のように考えると,子どもにも分かりやすい。

 倍率で0.01の単位,つまり分(ぶ)の単位を1%と呼ぶことにする。こうすると,バラ数を学んだ子どもは,次のように考えて,%を自由に使用するようになる。

 [7] 0.78(分)→1(分)を単位にすれば78→78%

    2(一).48(分)→1(分)を単位にすれば248→248%

    0.006(厘)→0.00(分)6(厘)→1(分)を単位にすれば0.6→0.6%

    0.856(厘)→0.8(割)5(分)6(厘)→1分を単位にすれば85.6→85.6%

    2.4%→1分を単位にして2.4→2(分)4(厘)→0.024

    435.8%→1分を単位にして435.8→4(一)3(割)5(分).8→4.358


 (3) 運動模様

 運動模様について,詳しくは,横地清「模様がきの数学」横地編『図形・幾何の体系化と実践』ぎょうせい,1983.pp.97-193.を参照されたい。

 円模様,正方形模様,長方形模様,帯模様などの模様描きはすでに4歳児から始まり,どの学年でも,子ども達が大好きな学習内容である。しかし論理的体系的思考が発展してきた5年生ともなれば,模様を描くだけではなくて,次の事項が重要となる。

 例えば長方形模様を考えよう。この場合,5年生には次の事項の会得が重要となる。

 @ 長方形模様には,どれだけの運動が含まれているか。

 A 長方形模様には,幾種類の型があるか。

 B あらかじめ型を予定して,その型に応ずる模様が描けるか。

 1図を見てほしい。@の長方形を自分自身に移す運動には,次の4種類がある。

 @ 点Mの回りの360度回転運動(なにもしない運動eと見てもよい)

 A 点Mの回りの180度回転運動

 B 直線pを対称軸とする線対称運動

 C 直線hを対称軸とする線対称運動

 これら4つの運動について乗積表を作るとAのようになる。この表からBの5種類の模様の型の存在が分かる。


(1図省略)


 写真1,写真2は渡邉伸樹氏(現京都教育大講師)が四條畷東小学校5年生に長方形模様の教育実験をした際の5年生の作品である。写真1は上記のUの型であり,写真2は上記のVの型である。


(写真1〜2省略)


 1図のC,D,Eを見られたい。

 5年生には正三角形模様も学習させたい。Cの正三角形では自分自身に写す運動として,次の6種類がある。

 @ 点Mの回りの360度回転運動。(なにもしない運動eと見てもよい)

 A 点Mの回りの120度回転運動

 B 点Mの回りの240度回転運動

 C 直線aを対称軸とする線対称運動

 D 直線bを対称軸とする線対称運動

 E 直線cを対称軸とする線対称運動

 これらの6種類の運動について乗積表を作るとDのようになる。この乗積表から,Eの6種類の模様の型の存在が分かる。

 なお,5年生の子どもは@,Dの乗積表を作ることができる。しかし,この表から推論だけで,BやEの型の存在を発見するには,多少の無理がある。子ども達は推論と,子ども達が描いた模様の分類の両方から模様の型の種類を決めると思われる。

 5年生には,正方形模様,長方形模様,正三角形模様,帯模様の中の2種類以上を学習させたい。その際,模様を描くだけでなく,乗積表を作り,推論と各自が描いた模様の分類から,何種類の模様の型が存在するか弁別できるようにしたい。


   /横地 清

著者紹介

鈴木 正彦(すずき まさひこ)著書を検索»

1945年,大阪府生まれ

1969年,大阪教育大学 数学科卒

2000年,北京師範大学国際比較教育研究所修了

大阪教育大学助手,山梨大学講師,同助教授,大阪教育大学助教授を経て,現在,大阪教育大学教授,博士(教育学)。東北師範大学・内蒙古師範大学の各客員教授

横地 清(よこち きよし)著書を検索»

1922年,愛知県生まれ

1945年,東京文理科大学 数学科卒

和光大学・山梨大学・東海大学・各教授を歴任

現在,北京師範大学・内蒙古師範大学・東北師範大学・華中科技大学の各客員教授

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
    • この商品は皆様からのご感想・ご意見を募集中です

      明治図書

ページトップへ