- はじめに
- 第1章 多様な考えを生み練り合う問題解決授業の構想
- 〜意味とやり方のずれに着目して〜
- 1.うまくいく! うまくいく!! えっ?
- 1−1.正木孝昌先生の4年平行の授業
- 1−2.正木先生の授業を意味とやり方・かき方(手続き)で読む
- 2.意味と手続き(やり方・かき方)で子どもの多様な考えを読む
- 2−1.意味とは何か,手続き(やり方・かき方)とは何か?
- 2−2.意味と手続き(やり方・かき方)で子どもの考えを予想する
- 2−3.多様な考えは,意味と手続きで分類できる
- 3.多様な考えを生み,練り合う授業構成の方法
- 3−1.ずれを生かすことで,多様な考えが現れる指導計画を!
- 3−2.既習確認課題と本習課題による1時間の授業作り
- 3−3.ずれを解消する練り合いはこんなふうに
- 第2章 多様な考えを生み,知的葛藤,練り合いを求める12の実践
- [1] 1年,図形領域,単元「かたちづくり」
- 違う色合いでしきつめようとすると?
- [2] 2年,数と計算領域,単元「たし算」
- 筆算を上の位から計算しようとすると?
- [3] 2年,量と測定領域,単元「時こくと時間」
- デジタル表示で求めようとすると?
- [4] 2年,量と測定領域,単元「長さ」
- 5m5cmをcmで表そうとすると?
- [5] 3年,量と測定領域,単元「時こくと時間」
- 2時15分―11時40分を立式しようとすると?
- [6] 3年,数と計算領域,単元「かけ算…B」
- 筆算では,43に4をかけるとすると1612?
- [7] 4年,数と計算領域,単元「小数のわり算」
- あまりは2かな,0.2かな?
- [8] 4年,数と計算領域,単元「式と計算」
- 36−□=19をひき算で求めようとすると?
- [9] 5年,図形領域,単元「合同と三角形,四角形」
- 合同な四角形を,4か所調べてかこうとすると?
- [10] 5年,図形領域,単元「多角形の内角の和」
- 四角形をウラにしてしきつめようとすると?
- [11] 5年,数と計算領域,単元「小数のわり算」
- 小数の計算を,整数になおすと?
- [12] 6年,図形領域,単元「拡大図と縮図」
- 台形を正方形と同じようにのばそうとすると?
- 第3章 正木孝昌/坪井耕三先生の授業創りの秘訣を明かす
- [1] 正木孝昌先生の5年「小数のわり算」の小単元構成
- [2] 坪田耕三先生の6年「分数のわり算;余りのある包含除」の授業展開
はじめに
来る世紀に予想される困難な課題を解決し,乗り越えていく子どもの育成が叫ばれて久しい。我々は,その子どもたちを育てるための指導法として,問題解決の指導の重要性に改めて気づき,取り組んできている。その指導展開の中で,常に話題にされているのが,多様な考えを,いかに,生みだし,生かし,練り合うか(練り上げるか)という点てある。
人は,未知の課題に挑むとき,学んできたことを生かそうとする。そして,当然,悩みを抱く。得られる考えも,実に多様で,過り(誤りではない)や行き詰まりも含まれてくる。教室でも同じである。ところが,その子どもの考えを,処理に困る考えとして無視したり,誤答として処理することはなかったであろうか。そこで子どもは悩み,取り残されているのに。
では,そのような悩みや過りを,多様な考えの一部として正面から受けとめ,生かし,練り合う授業は,いかにすれば展開できるであろうか。
多様な考えを生かす授業展開が難しいとされる理由の一つは,未知の課題に取り組む子どもが抱える悩み,言い換えるなら子どもが起こす葛藤を,予想外とみて対応する点にある。本書では,子どもが起こすそのような葛藤が,予想できることを示す。そして,それを前提に,子どもが,自分達でその葛藤を乗り越え,納得を生み出していく授業を計画する。そして,その上で,子どもが多様な考えを生み,練り合う中で,学びを深めていく授業の実現をめざすのである。
本書の第1章では,この課題に対して,数学教育の心理学に発想した意味とやり方(手続き)という語を用いて「処理に困る考えや過りも含めた,多様な考えがいかにして生まれるか」を明らかにするとともに,「多様な考えを授業の場に引き出し,生かし,練り合う授業を作る方策」を示していく。
第2章では,多様な考えを生み練り合う授業の実際として,珠玉の12例を,第1章で述べた意味とやり方という視点から示すとともに,明日の授業づくりを発想する際にすぐに役立つアイデアを示していく。
また,第3章ならびに第1章では,多様な考えを生み練り合う授業を歴史的に推進してこられた筑波大学附属小学校の先生方による授業事例を取り上げ,筑波大学附属小学校の先生方が,どのようにそのような授業を創り,展開しているのかという点について,第1章で述べた意味とやり方という視点から迫っていく。
本書の背後には,永年,北海道算数数学教育会小学校部会,同札幌支部,札幌市教育研究協議会算数研究部,北海道教育大学附属札幌小学校等で活躍される先生方の実践研究・討議の蓄積と,編者が,そこで先生方から学んできた成果がある。
ご指導下さった各部歴代の諸先生方,札幌の実践の編纂を下さった伊藤康弘先生,編者にこの研究へ着眼する契機を下さった金子忠雄先生(新潟大),根本博先生(文部省),筑波大学附属小学校の先生方,そして,算数教育誌への連載と,それを発展させての出版の機会を下さり,その労を担って下さった明治図書の櫻井芳子氏に改めてお礼中し上げます。
平成8年春
Cornell大学 J.Confrey 先生のもとで /礒田 正美
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- 明治図書