- はしがき
- T章 何を教えるかを明らかにする
- [1] 21世紀への展望
- [2] 教えることを明らかにする
- [3] 指導内容の価値を吟味する
- [4] 数学的な考え方も明らかに
- [5] 文章題の指導でも
- [6] 数学のよさも視点に入れて
- [7] 教材分析の12の視点
- U章 子ども自ら考え出す算数授業をつくる
- [1] まず,分かり易い説明を心がける
- [2] 子どもが自ら作り出す指導
- [3] 子どもが考えつく分数のわり算の仕方
- V章 課題の設定の仕方
- [1] いろいろな可能性を探る
- [2] 導入に使う数値について
- [3] 分数を小学校で指導することについて
- [4] 日常的な問題場面を使わない課題設定
- [5] 子どもが関心をもっている題材で課題を作ることについて
- W章 子どもの考えを生かす学習指導
- [1] 子どもの考えを生かす
- [2] 生きて働く知識を
- [3] 創造的な学習に時間がかかりすぎることについて
- [4] わり算のことはわり算に聞け
- [5] 分かることについて
- [6] 小数と分数を関連させて
- X章 基本的なアイデアを中心にした指導内容の系統の研究を
- [1] 子どもに考え出させるようにするために
- [2] 統合的・発展的な考察
- [3] ごまかさないで,本当のことを教えよう
- [4] かけ算の意味を拡張することについて
- [5] わり算の意味について
- [6] 比例の意味の指導を早くしたら
- [7] 比例に目を向けてみると
- [8] 比例の考えを用いた体積の指導
- [9] 終わりに
はしがき
今私たちは1990年代の入口に立っている。この年代は,新しい学習指導要領が実践される年代であるが,20世紀の最後の10年という意味をもつ。それはまた,21世紀直前の10年という意味ももつ。
世紀の変り目は人々に夢を抱かせる。20世紀の初頭に数学教育改良運動が世界をあげて進められたように,21世紀にも夢の実現を期待する努力が行われるにちがいない。この90年代は,21世紀を飛躍させ,豊かな世界をもたらす準備の年代と位置づけられよう。この年代における十分な準備が,21世紀に花を咲かせることになる。
今,算数教育の研究は停滞しているように思われる。基礎,基本を重視するあまり,簡単な計算が確実にできればそれでよい,という気持ちが支配しているようである。研究が停滞しているのは,現在の算数指導に問題がないということを意味しているのかもしれないが,本当に問題がないわけではあるまい。
もっとも,問題を感じないということの根底には,どのような教育を理想とするかの哲学もなく,それを実現しようとする情熱もないことを意味しているとも考えられる。若さは年齢によってではなく,未来にどのくらいの夢を描くことができ,それにどのくらい情熱を抱き,その実現に努力するかによって測られるのだと思うのだが,その若さをもつ人が少なくなっているのかもしれない。
現代化運動を反映した学習指導要領があった時代は,マスコミが騒ぎ,教育界も揺れたけれども,算数教育界には活気があった。今回の新しい学習指導要領に,現代化のときのような活気を誘うほどの魅力はないかもしれないが,この機会に,新しい算数教育の研究が再び盛んになることを期待したい。「未来を生きる人間を育てるためには,教育の現代化が欠かせない」ということは,今でも正しいはずである。
人々は,学習指導要領に改革を期待しているのかもしれない。しかし,学習指導要領は少数の人々の考えだけでできるものではない。学習指導要領は,これまでも多くの実践を反映させて作られてきた。いろいろな面から検討して,問題点の指摘に対して耐え得る準備をして作られる。もし,学習指導要領に期待するというのであれば,その前に,先進的な研究が数多く進められていることが必要である。学習指導要領に追随しているだけでなく,新しい算数教育を目指して,新しい試みがなされなければならない。このような試みは短期間でできるものではなく,長い日月が要求される。10年後の21世紀に改革を期待するとするならば,その準備は今から始められなければならない。
本書は,21世紀の算数教育を見通して,教材研究の進め方について考察したものである。まったく地に足がつかないことを述べてもしようがないので,現在行われていること,そして,新しい学習指導要領に盛られていることをもとにしながら,よりよい算数教育が行われることを目ざして教材研究を試みたものである。新しい内容を取り入れることまでは論じ得なかったが,いくつかの提案も盛り込んでみた。それらについても検討していただき,さらに新しい提案や試みが出てくることを期待したい。
表題に「力がつく」という言葉をつけたが,これは,子どもにも教師にも力がつくという意味をこめている。この表題をつけてくださった明治図書の桜井芳子さんは,本書のもとになる「算数教育」への連載の機会を与えてくれただけでなく,何度も励ましの言葉を下さった。最後まで連載を続けられたのも,また,それをもとに本書をまとめることができたのも,桜井さんのお蔭である。最後になったが,心より感謝申し上げたい。
平成2年夏 /杉山 吉茂
『公理的方法に基づく算数・数学の学習指導』で杉山先生は算数科の学習内容を理論的・系統的に示されましたが、その内容を日々の授業研究にすぐに使えるように具体例をあげてより詳しくお書きになったのがこの本です。
この本とは、大学生の時に出会いました。すぐに大学生協で注文しようとしたのですが、その時点で既に絶版で、大学の図書館に行って読みふけったのを覚えています。今からふり返ると、1990年の発刊にして、2012年現在の指導要領が目指すものをぴたりと言い当てている本でした。
このページをご覧の皆様、ぜひこの本を復刊させてください!よろしくお願いします。