- まえがき
- T 今回改訂から数学科の新授業力を考える前提
- §1 改訂の基本的な考え方とその背景
- 1 「生きる力」の育成
- 2 (確かな学力)の育成
- §2 中学校数学60年の歴史
- 1 中学校数学の創成期
- (1) 昭和22(1947)年制定の学習指導要領
- (2) 昭和26(1951)年改訂の学習指導要領
- 2 中学校数学の内容充実期
- (3) 昭和33(1958)年改訂の学習指導要領
- (4) 昭和44(1969)年改訂の学習指導要領
- 3 中学校数学の内容削減期
- (5) 昭和52(1977)年改訂の学習指導要領
- (6) 平成元(1989)年改訂の学習指導要領
- (7) 平成10(1998)年改訂の学習指導要領
- §3 中学校数学の性格
- 1 一般教育と専門教育
- 2 不易と流行
- (1) 創成期の混迷
- (2) 充実期の動揺
- (3) 削減期の沈滞
- §4 改革と改善
- 1 仮説による改革
- 2 実践に基づく改善
- 3 改革ではなく改善を
- U 求められる数学科の授業力を的確につかもう
- §1 学力問題への対応
- 1 学力低下の傾向
- (1) TIMSS2003
- (2) 教育課程実施状況調査
- 2 全国学力調査
- (1) 「全国的な学力テスト」のねらいとその背景
- (2) 全国学力テストの実際
- ◎ 中学校数学A
- ◎ 中学校数学B
- §2 数学的リテラシーの育成
- 1 数学的リテラシーの定義
- 2 数学的リテラシーの3つの側面
- (1) 数学的な内容(4つの包括的アイディア)
- (2) 能力クラスター
- (3) 数学が用いられる状況
- 3 数学的リテラシーの問題例
- §3 「資料の活用」能力の伸長
- 1 「中学校数学」と「統計」
- (1) 統計の見方や扱い方の相違
- (2) 前回の改訂における統計の扱い
- 2 「数学的な考え方」と「統計的な考え方」の統合
- (1) 統計的探究のプロセス
- (2) 数学的プロセス
- (3) 2つのプロセスの共通点
- V このような授業力を身に付けよう
- §1 分かる授業を構築しよう
- 1 学ぶ意義に気づく
- (1) 数学でなぜ文字なの?
- (2) 一般的な性質を使ったら?
- 2 興味・関心をもつ
- (1) 生徒の発想を生かす
- (2) 生徒の疑問を生かす
- (3) 予想して確認する
- (4) 成功体験を生かす
- 3 課題の数学的な意味を読み取る
- (1) 与えられた課題場面での捨象
- (2) 数学的な意味を込めた日常語
- (3) 用語・記号の意味の拡張
- 4 具体や体験を通して納得する
- (1) 空間図形の観察
- (2) √2は無理数
- §2 数学科による人格形成に関心をもとう
- 1 人格形成の基礎・基本
- 2 自立を促す
- (1) 計算結果を自分でチェックできる
- (2) 目的意識をもって式を変形する
- 3 社会生活への参画
- (1) 公平な負担
- (2) 他人の立場も考える
- §3 数学的活動を生かそう
- 1 前回の改訂と数学的活動
- 2 数学的活動の意義
- (1) 数学の創造的な活用
- (2) 数学観・学習観の転換
- 3 数学的活動の機会
まえがき
今回の改訂を,どのように受け止めればよいのであろうか,と考えると,当然,前回の改訂との関連について考えねばならない。
前回の改訂と今回の改訂とをセットにして考え,多少意地悪い見方をすると,「無理をして時間数を削減し,内容を厳選して〔ゆとり〕ができたといってはみたが,学力低下の批判には耐えきれず,元の木阿彌,所詮,無理は通らないもの」と,素っ気ない受け止め方になるのかも知れない。
しかし,これでは,まったく「失われた10年」として終わることになるのではなかろうか。
このような憂いから,数学科にとって,恵まれなかった時代であるからこそ,その意義をしっかりとらえ直しておくことが必要であると考えた。
そのために,Tでは,まず,改訂の基本的な考え方とその背景を確認した上で,中学校数学も還暦を迎えたこともあり,その歴史を振り返り,それに基づいて,性格について見直し,改革にはなじまないものであり,改善の積み上げしかないことを明らかにしようとした。
ところで,中学校数学の60年を,創成期,内容充実期,内容削減期に分割したが,大まかに,創成期と内容充実期をまとめて前半の30年とし,内容削減期を後半の30年と見ることにしよう。
前半は,内容の系統化を図ったこと,内容の現代化を目指したことなどから,これを内容を中心に論議した時代ととらえることができよう。
後半は,「ゆとりと充実」,「教育環境の人間化,情報化」,「内容の厳選」が主要なテーマになったわけであるから,目標を中心に議論した時代ととらえてもよいのではなかろうか。であるから,内容の専門家の出る幕はかなり限定的にならざるをえなかったのであった。
これらを通して,教科の改善には,内容だけではだめ,目標に偏ったのでは素人論にかきまわされてだめ,ということが分かったと言えるのではなかろうか。
このように考えると,教科の改善には,目標,内容,方法についてバランスのとれた議論が欠かせないことに,改めて気付かされることになったのである。この方法の改善こそ,現場の実践に直接にがるものであり,実践者の出番がようやく巡ってきたといえるのではないか。
Uでは,方法の改善を授業力のアップととらえ,そこで求められるものを的確につかむこととした。
学力問題への対応,数学的リテラシー,「資料の活用」など当面大きな課題となると考えたが,これらの課題についてプロとしての見識をもつ手がかりとしていただきたい。
Vでは,身に付けて欲しい授業力について具体的にとりあげた。何と言っても「分かる授業」である。次に,「人間形成」への寄与である。これらの実現のために,今回の改訂で「数学的活動」が強調されたものと考えている。
後半の30年間は,現代化の挫折というひけめをもつ数学科としては,試練の期間であった。試練を完全にくぐり抜けたとは言えないかも知れないが,この試練を通して教科としての基盤を,より強固なものにすることが求められている。
これに応えるためには,実践を通した方法の改善こそ急務なのである。
改善を志される方々のいささかのご参考になれば,大いに幸いとするところである。
本書をまとめるにあたり,企画では安藤征宏様,校正では関沼幸枝様に大変お手数をおかけしました。合わせて,お礼申しあげます。
2008年6月 /正田 實
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- 明治図書