- 序文
- はしがき
- 前編 正多面体
- 第1章 正多面体とはどのような多面体なのだろう
- [1] 正三角形だけでできる多面体
- [2] その他の正多角形でできる多面体
- [3] 正多面体
- 第2章 正多面体相互の間にどのような関係があるだろう
- [1] 双対関係
- [2] 切り出し関係
- [3] 双対関係と切り出し関係
- [4] 形相図
- [5] ボール積み
- [6] 正6面体からほかの正多面体を切り出す方法
- 第3章 正多面体はなぜ調和がとれてみえるのだろうか
- [1] 面対称
- [2] 回転対称
- [3] 対称面と回転対称軸の関係
- [4] 球と正多面体との関係
- 第4章 正多面体を平面で切断してみよう
- [1] 断面図
- [2] 回転対称軸の交角と二面角の大きさ
- [3] パズル玩具と多面体の性質説明具
- 第5章 正多面体の展開図について考えてみよう
- [1] 展開図のつくり方
- [2] 正6面体と正8面体の展開図の関係
- [3] 形相図を用いた展開図のつくり方
- [4] 正12面体の展開図と正20面体の展開図
- [5] 正4面体または正8面体がつながった立体
- 第6章 正多面体から生まれる美しい立体をつくってみよう
- [1] 体積0の立体
- [2] 星形多面体
- 後編 準正多面体
- 第1章 準正多面体をつくってみよう
- [1] 準正多面体の組み立て
- [2] アルキメデスの立体
- 第2章 アルキメデスの立体と正多面体の間にどのような関係かあるのだろう
- [1] 正多面体から切り出される
- [2] 正多面体を内蔵している
- [3] 正多面体とアルキメデスの立体の対称性
- 第3章 多面体の頂点の数・辺の数・面の数の間にどのような関係かあるだろう
- [1] 多面体定理(オイラーの定理)
- [2] 多面体定理の応用
- [3] 星形多面体における多面体定理
- 第4章 アルキメデスの立体からうまれる美しい多面体をつくってみよう
- [1] 小面刻み多面体
- [2] 星形多面体
- [3] 双対な多面体
- 第5章 正多面体とアルキメデスの立体を組合せて,空間をうめつくしてみよう
- [1] タイル張り
- [2] タイル張りと等円パッキング
- [3] ブロック積み
- [4] ブロック積みと等球パッキング
- 第6章 正多面体の対称性を図に表してみよう
- [1] 正2面体群のグラフ
- [2] 正4面体群のグラフ
- [3] 正8面体群のグラフと正20面体群のグラフ
- [4] 正多面体群のグラフと正多面体の切り出し関係
- 付録
- 参考文献
- 型紙
序文
かねて,広島大学付属中・高等学校の同僚,村上一三君が,多面体の教材化にとっ組んでいることを知っていた.時折,それについての相談もうけたことはあったが,この度立派な著書として発刊されると知って,誠に慶賀にたえない.発刊に先立ち,原稿も一通り拝見したところ,素晴しい労作であり,わが国の算数・数学教育の進展に大きく寄与するものと信じている.
多面体の,いわゆる「操作的取り扱い」は,これまで多くの人によって試みられてはいるが,最大の困難さは,その模型の組み立てや分解の面倒なところにあった.一つの多面体でも,展開図から組み立てようとすれば,かなりの時間がかかる.容易な分解・合成を許す資材の開発は,多面体の教材化の一つのキーポイントであったといえる.そして,この資材の開発は,わたくしの知る限りでは,アメリカのニューヨーク州ハミルトン大学のプリシェット(G. D. Prichett)氏のものと,この村上一三氏の「タブつき形板」に求められる.勿論,村上氏の場合,「形板」はいわば教授手段であり,本書の主眼は,多面体のもつ豊かな数学的内容の学校教材化にある.
村上氏の本書を拝見したとき,まずわたくしの念頭に浮かんだのは,この種の研究的著書が,現在のわが国の算数・数学教育の閉塞した状況を打開し,新しい教育界の地平を切り拓く可能性をもつであろうということであった.
実際,今日のわが国の算数・数学教育について,学校の先生方も,決して満足しておられないであろう.それどころか,他の教科とも同様,算数・数学教育も,先生方ご自身が,心いくまで自由に裁量を加えうる場所でなくなってきつつあるようにさえ思われる.――わたくしは決して政治的な規制をさしているのではなく,政治的にさえどうにもならない社会的状況を言っているのである.今日の学校は,もはや学校だけで処理できない問題をかかえこんでいるという,あるアメリカ人の嘆きは,そのままわが国の学校にもあてはまりそうである.「ゆとりと充実」という言葉に代表される教育改善策も,受験競争に過熱した学校教育の現状を癒すには,ほとんど無能であるようにみえる.
受験体制下では,算数・数学は子どもの選別材料として最も格好な材料である.零点から満点まで,みかけ上客観的に子どもを序列づけることが可能である.しかし,算数・数学が,このように,受験における単なる選別の材料であり,そのあげくは落ちこぼれ,学校暴力の助長にもあずかっているとしたら,それは,数学に対する大きい冒涜ではないか.
おそらく,今日の算数・数学教育の最も重要な課題は,現在の荒廃した受験体制にとって代りうる,真正な教育体制をつくりあげるための教材開発であろう.――数学教材は学習指導要領に定められている,何をいまさら――と言う人は,教育的見識に欠けているといわねばならない.学習指導要領の示すところは骨組みにすぎない.それをいかに肉付けするかは教師自身のカリキュラム構成活動の重要な部分であり,それをすら教科書だけにまかせきってしまっているところに,今日の数学教育の停滞の姿がある.
村上氏の本書は,上述のような意味での新しい教材開発の試みであるといえよう.教師は,教材開発を通して,まず自分自身が数学をする楽しさを満喫すべきであろう.そしてそのあとで,はじめてそれを子どもたちに頒つことができる.本書は,教師自身,手をつかって楽しんでほしい書物である.
子どものなかにも,頭だけで考えるよりも,手をつかって考えるとき,異常な能力を示すものがいる.本書はそうした子どもにも,数学的香気豊かな材料を提供するであろう.また,将来,数学を専門的に学ぼうとするものには,堅固な直観的基礎を与えることは勿論である.直観的基礎のない,まるでクズみたいな知識・技能のなかで,数学に失望していく多くの中学生・高校生,さらにその指導に日夜心をくだいておられる先生にとっても,本書は教育現場人の著したものとして,大いなる福音ともなるであろう.そのことを確信して,本書をここに衷心より推薦する次第である.
昭和57年8月15日 広島大学教授 /平林 一栄
コメント一覧へ