- 第@章 式の計算7
- 小単元1 多項式の加法・減法や単項式の乗法・除法
- 小単元2 文字式の利用
- 小単元3 個に応じた学習の時間
- ほっとTime 発問…基礎の基礎
- やってみました! @ 発表会を活かそう!
- 第A章 連立二元一次方程式
- 小単元1 連立二元一次方程式とその解の意味
- 小単元2 連立二元一次方程式の解き方
- 小単元3 連立二元一次方程式の利用
- 小単元4 個に応じた学習の時間
- ほっとTime プリントで進める授業
- 第B章 一次関数
- 小単元1 一次関数の関係
- 小単元2 一次関数の特徴
- 小単元3 一次関数の利用
- 小単元4 二元一次方程式とグラフ
- 小単元5 個に応じた学習の時間
- ほっとTime コンピュータをどう活かす?@
- 第C章 図形の調べ方
- 小単元1 平行線と角,多角形の角,三角形の合同条件
- 小単元2 証明の意義と方法
- 小単元3 個に応じた学習の時間
- ほっとTime 教えようとしないのに伝わってしまうこと
- やってみました! A 「評価規準」から指導と評価の改善を考える
- 第D章 三角形と四角形
- 小単元1 三角形の性質と円周角の定理
- 小単元2 四角形の性質
- 小単元3 個に応じた学習の時間
- ほっとTime コンピュータをどう活かす?A
- 第E章 確率
- 小単元1 場合の数
- 小単元2 確率の意味と簡単な場合について確率を
- 求めること
- 小単元3 個に応じた学習の時間
- ほっとTime 宿題についての宿題
- やってみました! B 実生活と数学を結び付けよう!
はじめに
新しく世に出る本には,どれもその本なりの「新しさ」があります。人はその「新しさ」にひかれて本を手にとるのではないでしょうか。では,「この本の新しさは何か?」というと,それはズバリ「新しいことが何も書かれていないこと」です。冗談のように聞こえるかもしれませんが,このことが,この本の一番大切なところです。
本書は,中学校の数学教師が,数学や授業について日々考えている「ごくごく当たり前のこと」をまとめたものです。なぜ,そんな当たり前のことを本にする必要があるのか…それは,次の3つの立場にある方々と,数学やその授業について,改めて考えてみたいと思ったからです。
○まず,中学校の数学の教師を目指す人,または若い数学の教師へ
先日,あるベテランの先生から,「最近の若い先生は大変に熱心で意欲的である」というお話をうかがいました。私もこの意見に同感です。現在,教員の新規採用は大変に厳しい状況が続いています。私は10年間,大学の教育学部に附属する中学校に勤務して,将来教壇に立つことを夢見て教育実習にやってくる多くの学生と一緒に,数学の授業について考えてきました。そんな中には,大学卒業後,夢をあきらめず何年も教員採用試験にチャレンジしている若者がたくさんいました。
「でもね」と,そのベテランの先生はお話を続けて,「彼らの授業は,教科書をなでて終わっちゃうんだよね…」とおっしゃいました。この意見にも私は大きくうなずいてしまいました。中学校の数学の授業は,教科書に沿って進められるのが一般的でしょうが,教科書をなでる…つまり教科書に書かれていることをそのまま伝えることを目指すものではありません。指導する数学についても,その指導の仕方についても,教師はひとりひとり自分なりの“思い入れ”を持っています。その思い入れを表現する場こそ授業です。若い教師は,こうした思い入れをどうやって身に付けていくのでしょうか? 私自身は,周囲の人たちとの関わりを通して教えられたような気がします。職員室でとなりに座っている教師がお兄さん,お姉さんといった立場から,いろいろなことを教えてくれました。経験談や失敗談を聞かせてくれたり,授業をみせてくれたり,参考になる本を紹介してくれたりしたものです。
最近,教師の世界でも急速な高齢化が進んでいます。今や,職員室で若手教師のとなりに座っているのは,お兄さん,お姉さんというよりも,お父さん,お母さんといった世代の人たち,学校運営などで果たす役割が大きな教師たちです。私が新人だった頃のように,「有意義な雑談」を交わすことが難しくなっているのです。若い教師は,一生懸命授業をしています。その努力が,彼らの思い入れを豊かにするためには,経験者からの「当たり前」の引き継ぎが必要なのではないでしょうか。
この本は,指導のまとまりである単元を章として構成されていますが,指導内容を網羅的に取り上げているわけではありません。もう少し小さな指導のまとまりである小単元ごとに,「あぁ,これって大切なんだよなぁ〜」という私の思い入れをピックアップしてあります。実際に授業を組み立てる前などに,気になる部分に目を通して,自分だったらどうするか,考えるきっかけにしてみてください。
○次に,中学生をお子さんにもつ保護者の方々へ
最近は学校の中にいても,説明責任とか情報公開といった言葉の広がりとともに,保護者の方々の授業への関心の高まりを感じます。でも,その多くは通信簿とか高校入試の調査書などに関連したことではないでしょうか。こうした面で教師の果たす役割が重要であることは重々承知していますが,ここでは「教師は成績をつけるために授業をしているのではない」ということをわかっていただきたいのです。教師には,数学の授業を通して子どもたちに伝えたいことがたくさんあります。計算して答えを出す方法だけではなく,「こんなふうに考えられるようになってほしい」とか「こんな表現ができるようになってほしい」などいろいろです。
この本では,こうした教師の思い入れを,保護者の方々にも知っていただきたいと考えました。各単元のはじめには,どんなことをどのように,どの程度の時間をかけて指導するのかを表にまとめてあります。また,学習の目標を,子どもの立場からまとめておきました。お子さんに「今,学校で何を勉強してるの?」と質問して,該当する部分だけでも読んでみてください。「へぇ〜,数学の先生って,こんなこと考えてるんだ…」ということを,ある程度理解していただけるはずです。
○そして,ベテランの数学教師へ
「その方面で経験豊富な人」をベテランというそうです。本人が自覚しているかどうかにかかわらず,この本を読んで「何でこんな当たり前のことが本になってるんだ!」とか「私だったら,もっと〜と考えるぞ!」と憤慨した方はベテラン教師です。また,この本はみんなでワイワイ考えるきっかけづくりの本です。そのまま使える実践事例などはできるだけ取り上げませんでした。「私だったら,この思いをこんな題材でこんなふうに具体化して授業をつくるな」と考えた方もベテラン教師です。
この本では,こうした声がベテラン教師から聞こえてくることも期待しています。あなたは,教師になったとき,「数学の教師」として採用されたのではありませんか? おそらく退職するまで「数学の教師」ですよね? 最近,数学やその授業について,あなたの思い入れを誰かに語りましたか? また,職場の仲間とそんな話をしましたか? 近い将来,教師の世界では急速な世代交代が進みそうです。現場の教師がこれまで積み上げてきた実践的な資産がリセットされないように,もっと数学やその指導について語り合っておくべきではありませんか?
最後になりましたが,この本の出版に際して,お世話になった方々に感謝の気持ちを表したいと思います。千葉市教育委員会の五十嵐一博先生には,原稿の段階から貴重なご意見をいただきました。また,明治図書の仁井田康義さんと相田芳子さんには,できる限り自由に執筆する機会を与えていただきました。改めて御礼申し上げます。
2004年12月 /永田 潤一郎
-
- 明治図書