- 「はじめに」に代えて 〜今,なぜ「ふきだし法」なのでしょう?〜
- ふきだし法 FAQ
- 「ふきだし法」ってどんな指導法なのですか?
- 「算数的活動」と「ふきだし法」はどんな関係があるのですか?
- 言語力の育成と「ふきだし法」の関係について説明して下さい。
- 「ふきだし法」の授業過程とはどのようなものですか?
- 〈ふきだし〉でなくても子どもは,書けるのではありませんか?
- どうしても何も書けない子どもにはどのように指導していくのですか?
- 〈ふきだし〉でいろいろ書かせましたが,学級が育たないのですが?
- TT(ティームティーチング)や習熟度別指導にも有効ですか?
- 「ふきだし法」でポートフォリオ評価をする意味を説明して下さい。
- 第1章 「ふきだし法」とはどのような指導法か
- 1 「ふきだし法」という算数指導メソッド
- @思考過程重視の意味
- Aメタ認知の形成
- 2 「ふきだし法」の理論的前提
- @意識と無意識
- Aカウンセリング理論への接近
- Bつぶやきと自己中心的言語
- 3 ノート指導の革新
- @思考の作業台としてのノート
- A学び合う装置,そしてポートフォリオとしてのノート
- 4 「ふきだし法」の板書
- @「ノートのモデル」としての板書
- A「黒板ポートフォリオ」という考え方
- 第2章 「ふきだし法」による授業構築の実際
- 1 どのようにして自分の思考に自信を持ち,何でも書ける子どもを育てていくことができるか
- 2 子ども理解の方法と教材分析
- @6年生「場合を順序よく整理して」(順列の問題)
- A6年生「場合を順序よく整理して」(組み合わせの問題)
- 3 3年生と5年生での実践例
- @3年生「かくれた数はいくつ」(順思考と乗法の逆思考を組み合わせた問題)
- A3年生「割り算をつかった問題」
- B5年生「順々に調べて」
- 第3章 「ふきだし法」と評価活動
- 1 支援と評価の一体化あるいは自己評価活動について
- 2 〈ふきだし〉評価の3つの側面
- @評価と支援の一体化モデル
- A5年生「直方体の体積」の実践例
- 3 情意面の評価に関する補説
- 第4章 真の学びと「ふきだし法」
- 1 真の学びと状況的学習論
- @文化的実践への参加
- A本物の「学び」のある授業のための視点
- B6年生「割合を使って」の実践例
- 2 算数科研修への視座または,算数教育の方向性について
- @算数的活動と「ふきだし法」
- A基礎・基本の考え方
- Bノート指導のプロ
- 3 各教科での「ふきだし法」と自分発見日記
- @各教科での「ふきだし法」
- A自分発見日記
- 第5章 「ふきだし法」による実践報告
- T 高学年の事例 ―学び合いの授業をつくる〈ふきだし〉を用いた板書
- 1 「ふきだし法」との出会い
- 2 具体的事例
- @解決の見通しを共有するふきだし黒板
- A子どもの言葉で算数をつくる〈ふきだし〉の活用
- 3 子どもの算数日記から思うこと
- U 中学年の事例 ―算数大好きな子どもを育てる「ふきだし法」
- 1 「ふきだし法」との出会い
- 2 実践のねらい
- 3 具体的実践
- @子どもの思いや思考過程から創造する学び合う授業
- A学び合ったことがわかるノート
- 4 算数大好きを育てる「ふきだし法」
- 5 まとめ
- V 低学年の事例 ―子ども達から始まった「ふきだし法」
- 1 「ふきだし法」実践の始まり
- 2 「ふきだし法」の実践
- 3 「ふきだし法」の実践の様子
- @「ふきだし法」の導入
- A見通しの共有
- B「ぼく・わたしのふきだし」
- Cふきだしの工夫
- D図の工夫
- E「ふきだし法」のまとめ
- 4 まとめ
- おわりに
「はじめに」に代えて〜今,なぜふきだし法なのでしょう?〜
平成20年6月に発表されました文部科学省『小学校学習指導要領解説算数編』の総説にもあらためて記されていますように,我が国の子ども達は,一つ目に思考力・判断力・表現力を問う読解力や記述式問題,あるいは知識・技能を活用する力において,二つ目として家庭での学習時間・学習意欲,学習習慣において,そして三つ目としては,自分への自信の欠如,将来への不安といった課題を持っているという実態があります。
そこで小学校算数科については,「算数的活動を充実し,数量や図形について実感的に理解し豊かな感覚を育てながら,基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させるとともに,数学的な思考力・表現力を高めることや学んで身に付けた算数を生活や学習に活用することを重視して」改善を図るという中教審の答申に基づき,平成20年度改訂の学習指導要領の算数科の目標が定められたことはすでにご存じの通りです。
私達が直面している課題を上記の文脈からまとめますと,
@算数的活動をどのように充実させ,実感的な理解,豊かな感覚を伴った基礎・基本の定着を図るか。
A数学的な思考力・表現力,算数的な読解力をいかに育てるか。
B自ら進んで学び,その学びを新たな学習や生活に生かしていこうとする意欲をどのように育てるか。
C自分の考え方や,自分自身への自信をどのように育てていくか。
の4つではないかと考えています。
今,私が「ふきだし法」をこの書物にて提案しますのは,これらの算数指導上の喫緊の課題解決に,この指導法が大きな手助けとなると確信するからです。
今から20年くらい前の小学校教諭時代に,算数科において〈ふきだし〉を活用すると,子どもの問題解決能力の育成と,教師の指導と評価の一体化にさまざまな効用があることを見いだし,〈ふきだし〉に見られる記述に着目した指導法を「ふきだし法」と名付け,実践研究を続けてきました。
Wikipediaで〈ふきだし〉という言葉を調べてみますと,「主に漫画で登場人物の台詞を表現するために,絵の中に設けられる空間のこと」となっています。教科での指導法としましては,当時でも国語科などでは活用されることはよくありましたが,算数科においては,教科書の中の記述での活用はあっても,子どもに〈ふきだし〉で問題解決過程を書かせるという指導は,それまで全く例がありませんでした。しかし,実践を続けるうちに,そこには指導法的な意義が非常に大きなことに気づき始めました。
継続的な研究から得られた「ふきだし法」の意義は,大まかには次の2つに集約されます。
@教師にとっては,子どもの思考過程,メタ認知が把握できるということの意味
A子どもにとっては,言語力・表現力・問題解決力・自己教育力が育つということの意味
本書はこの2つの観点から,これまで,私と実践仲間の先生方とで確認された研究成果をもとに一冊に整理しました。まだまだ研究途上ですが,本書が少しでも子ども達に求められる算数科での力を伸ばすことに役に立てばと願っています。
「ふきだし法」は,算数科の指導法でありながら,すべての教科に共通するノウハウを含んでいると考えています。更に言えば,教師のあり方,授業のあり方のすべてに共通する指導原理があるとさえ感じます。多くの方に読んでいただいてご意見をいただき,更に発展する指導法がまたそこから生まれてくることを願っています。
平成21年3月 編著者 /亀岡 正睦
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- 明治図書